鳥のメギスは因果なく罪なく非なく、墜ちた、沼のそこまで

鳥の羽根を生やしているからって、人間はあたしたちを鳥人と呼んだ。

人魚といい(上半身が魚のやつ)
魚人といい(下半身が魚のやつ)

人間の名付け方は、安直だ。見たまますぎる。
あたしたちが、実際には、天使たちの子孫であるとか彼らにはどうだっていいのだろう。

そんなことより、それで、あなたたち新人類は、自分たちとどう関わるのか? 戦争する気か? 侵略するつもりか?

人間たちは、ピリピリしている。あたしたちがコソコソ隠れるのを辞めたのは、地球の終わりが近づいたから。

このままでは星が終わってしまうから、人間たちに干渉することに決めた。しかし、人間たちは、例えば人魚たちなら肉を食えば不老不死になるとか、コチラをどうも家畜に類するナニカと思っている。いや家畜の段階で人間たちが畜生であることなど、あたしたちはよぅくわかっている。

だから、有効的に。
友達ライクというやつで。

あたしは、鳥人の一匹として、担当地区の浄化に務めるはずだった。本来は天使の末裔なんだから。

ただ、人間は、あたしが思うよりもずっと、ずっと、悪夢ほどに穢れた個体がいた。あたしは、たわまん、最上階とやらに招かれて、鳥かごみたいな部屋に通された。

このエリアの主が、実際のこの地区の支配者と読んだからだ。人間の生命エネルギーから逆算して、これを突き止めた。

そして。

あたしの羽根は、折られた。

ばきっ、ぼきっ、ばきばき……。

聞くに耐えない音が、室内を満たす。あたしは自我を失って錯乱していたけれど、その音で、本物の15歳の少女になってしまい、怯えて、がくぜんと、その男の食事を見つめた。

鳥の、唐揚げ、なるもの。
それを彼は食っている。

あたしの羽根は、この部屋に入るなり、縛られて……切断されてしまった。

「軟骨もちゃんとある。普通の唐揚げと変わらん。タンパクな風味は少し変わっているか。ドングリだけ食ってるリスみてェなベジタリアンが好きそうな肉だぜ。まぁ、連中は肉なんざ食わねぇが。ハハハッ」

「……あたしの羽根……」

「ウマいよ。よかったな」

絶句して、しかし喉が引っ込んで、ヒュ、風切り音を漏らした。もう翼はないのに。

震えるあたしを見下ろしながら、鎖に繋がれたあたしを眺めながら、男は、20歳後半ごろのオス、唐揚げとあたしをセットにすることでより食事を楽しんでいるようだった。

あたしをながながと見ては、骨付き肉にしゃぶり、モゴモゴと天使の肉を食っている。

「……別に不老なんざ興味ねーが、オマエは? 鳥人は食ったら超人になるとかねぇのか」

「…………」

震えてくる。トリハダが立つ。このオスの言っているコトバが、わからない。

「ねーか。つまんねぇ肉塊だぜ」

がぶりつき、骨のかけらをプッと皿に吐き出し、軟骨は噛み砕き、ゴリゴリ、コリコリ、音がした。破壊音が。

あたしの理性がいっしょくたに食われていく。あたしが狂乱して泣いている。かたしは、あたしなのに、あたしではもはやなかった。

「神様、神様、ごめんなさい、ごめんなさい、あたしもうダメです、こんな星、こんな大陸はすべて水で攫って捨ててください、ここはもうダメです!!」

オスは、唐揚げを食べながら、発狂するあたしを眺めていた。
それから笑い始めた。嘲るでもなく、感情すらなく、単に。笑っている。

「……カミサマ? アレか、天使だっつうウワサは、マジ話だったのか」

「神様ぁぁ……!!!!」

男が、あごでしゃくると、あたしに繋がる鎖が、控えていた少年によって男のオスへと持ち替えられた。

鎖の音に引きずられてソファーに倒れ込むあたし。あたしの残骸。死体。食べ残された、天使だったモノ。天使の証たる翼を食われてしまって、本当に本物の残飯になってしまった、あたしが、男にあごを掴まれて顔を覗かれた。

「ヒィッ……や、やめ」

「……天使、か。……精子バンクって知ってるか? お嬢チャン。でもな卵子バンクはねーんだよ、とんだ世界だろ? オレだってテキトーに面倒なしにガキが欲しい気持ちはあるってのによ」

「やめろぉ……!!!!」

「ロリコンじゃねーけとな。天使なら、ま、外見なんかそんなもんだろ。イイぞ。おまえの顔をモニターで見て、昼飯は唐揚げだって決めたんだぜ。……オレの、バンクになってもらおうじゃねえか」

腹をオスの大きな手で潰される。

バンク? ばんく? 言っている意味がわからない。ナニを言っているのだ。悪魔なのか。ここは、アクマの巣だったのか。

なぜだか、人間が交尾をするような口の接吻を勝手に施された。唐揚げ、あたしの、天使の、味がした。

あたしが、全身を絞り出して絶叫をあげると、男のオスはようやっと感情のある笑い方をした。あはははは、あははは、楽しそう。楽しそうに、笑っている。

ここは、悪魔ではなくて、悪夢の棲家だった。

これが、人間!


END.

読んでいただきありがとうございます。練習の励みにしてます。