見世物小屋のアルジ

アルジは今日も縫いものをする。小猿の干からびたものとサカナの骨を合わせて、商売道具を創り上げる。

見世物小屋では人魚の死骸として展示される商品である。

アルジは、ちくちく、針を通しながら、ひとの業について今日も悩んでいた。このような見せかけを信じて、永遠の命があると大衆は信じてしまう。皆が愚かなのか、それとも私が悪辣なのか。それとも、ひととは、こういった生きものなのだろうか?

子どもの己を思い出す。
手先が器用で、姉や兄たち、村の皆の服などを仕立てては繕っていた。有り難られたものだ。皆に「ありがとう」と言われた。
それが、うれしかった。

ところが飢饉に襲われて、村びとはちりぢりになり、アルジの家族もばらばらになった。売ったり、売られに行ったり、アルジは手先が器用だったので縫いもの屋の主人が兄弟の誰よりも高値をつけて買い取られた。

しかし、その縫いもの屋も潰れた。世は無情ではかなくて残酷なものだった。

流れ着いた先で、アルジは見世物小屋の催事を見かけた。出入り口にかざってある人魚のミイラとやらを見てすぐ、雑な縫製に気がついた。

それを指摘すると、まずは殴られた。
しかし、その後、引きずられていった先で、アルジはミイラを直すように命じられた。

「おまえは、もっと上手くやれるのか?」

見世物小屋の主が、額を突きつけてきた。
アルジは、うなずいた。一筋の汗がつたった。道を踏み外している、すうっとした落とし穴の感覚が、足の裏をくすぐった。

ちく、ちく、アルジは、だからこうして日々、奇妙奇天烈なバケモノを縫い上げることになった。

ひとの業について、悩むようになった。

ちく、ちく、ちく。針の痛みを思い出す。どこに刺さっているのやら。この針先は何を刺してなにを繕っているものか。

見世物小屋の主が、先程アルジの仕事場にきた。自分はそろそろ隠居しようと思うそうだ。そして、見目の良いアルジに、見世物小屋の主人をやれと告げた。

「……わかりました」

そう言うほかに、道は、無かった。


END.

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