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読書感想:のくたーんたたんたんたんたたん (MF文庫J) 著おりょう

【愛と復讐が織りなす夜想曲は今宵も何処かで奏でられる】 


【あらすじ】
1/2275の頂点!ふざけたタイトル、だけどこれが新人賞最優秀賞!

「父さんを殺した《亡霊》に復讐するためなら、僕は悪の道を進む――!」

それから五年、緋野ユズリハは裏社会で《死神》と恐れられる都市伝説(ころしや)になった。全ては復讐のために。《亡霊》の手掛かりを掴むためならば友を殺し、担任教師を殺し、その日も少女を一人殺した……ハズだった。

「私は魔女です。悪魔と契約し、決して死なぬ身体となりました」

少女は何度殺そうと立ち上がり、ユズリハに殺され続けた結果「惚れてしまったようです」などと口走り――? 都市伝説が織りなす愛と殺しと復讐の夜想曲第1番、開演――!

Amazon引用

死神と魔女が出逢う物語。


顔の無い死神として、父親を殺された復讐を果たす為に裏の世界で暗躍するユズリハ。
その手がかりとして亡霊の足跡を追っていた彼が出逢う何度殺しても死なない魔女、ハナコ。
彼女に惚れられてしまったユズリハは共に復讐を果たす為に、軽快なやり取りを交えながら亡霊の正体を暴く。
目的と願いを果たす為なら、欠陥人間として堕ちても良い。
殺す為ならば、己の感情は要らない。
その信念と覚悟が、夜空の様に無限に拡がる可能性の中。

手筈通りに依頼をこなしたユズリハであったが、悪魔との契約によって不死の力を手にしたハナコは何度殺しても立ち上がってくるその豪胆さ。

表の顔は一介の高校生ながらも裏ではネームド持ちの殺し屋として名を馳せる主人公や、悪魔との契約によって不老不死の力を会得し、何故か自身を何度も殺害したユズリハに恋をする奇妙さ。

魔女の過去、死神と父、復讐。
罪で塗り固められた後悔を罪で上書きするような物語のあり方は業深く、かくも美しい。

終わってみると紐も重石もないそれこそが無償の愛に見えてくる。
彼女の語る幸せの証明にも見えてくる。

そんな彼が父親との思い出と夢に想いを馳せながら辿り着く復讐の結末。

復讐の為に生きる都市伝説の『死神』と不死の魔女。
裏世界の物語だが、凸凹コンビのやり取りが軽いので暗さはあまり感じさせない、のらりくらりとした飄々さがあった。

ユズリハとハナコで裏社会の仕事を行う中で見え隠れする亡霊の目的と正体。
思いがけない悪魔の悪戯に遭いながらも、ハナコの支えとユズリハの意地が身を結んだ復讐の結末はほろ苦く、切なさが残る物だった。

父の仇である《亡霊》に報いを受けさせる為に、「悪人しか殺さない」という信念を立てながら《亡霊》の情報を日々、かき集めていく彼らに立ち塞がる陰謀の影と散りばめられた謎。
ここまで熱烈に、父親を慕うユズリハの真意。
ハナコが、ユズリハに惚れた本当の理由。
人としての道を踏み外し、ふらふら彷徨う彼の魂のアンカーを繋ぎ止める彼女の幸福の証。
それは永き時を生きたハナコの生への飽き、死への立ち会いを越えた、生涯を捧げたいと思える出逢い。
ごく稀に見る奇跡の幸せ。


まだまだ謎が残り、本物の亡霊を名乗る人物からユズリハへの手紙が意図する物とは?
全てを復讐の為に捧げて、動き出したユズリハとハナコが、その果てで見出す救済はあるのだろうか?

歌うように軽快に進み出す中で、宿敵に復讐した終わりに待ち受けるであろう人生の再生と始まり。
この仇を終わらせれば、本当の意味で第二の人生が始まる。
己を今まで苛んできた罪悪感と妄執も終焉を告げる。

その新たなる選択肢が表出する中で、どのような活路を選び抜くのか?







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