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読書感想:レペゼン母(講談社) 著宇野碧

【失った物を取り戻すように、本音で戦おう】


【あらすじ】
マイクを握れ、わが子と戦え!



山間の町で穏やかに暮らす深見明子。

女手一つで育て上げた一人息子の雄大は、二度の離婚に借金まみれ。

そんな時、偶然にも雄大がラップバトルの大会に出場することを知った明子。

「きっとこれが、人生最後のチャンスだ」

明子はマイクを握り立ち上がる――!

Amazon引用

梅農家を営む明子は息子·雄大と本音でやり取りする為に、ラップバトルに出場する物語。


愛する旦那に先立たれて、女手一つで、雄大を育ててきた明子。
苦労して育てた息子は、放浪の末に行方をくらます。
己の子育ての何が間違っていたのか自分を省みる明子に飛び込んできたラップバトル。
頭脳と言霊を使ったスポーツ。
その根底にあるのは相手への尊厳。
その魅力に取り憑かれた母と息子の本音のやりとり。
己の価値観を押し付けた故の無理解。

スクラッチ音が鳴り最初のフレーズをつむぎ出すスリリングな瞬間、いくつもの想いが胸に押し寄せてきて、魂が感無量の震えを起こす。
舞台の上で、ルールの範囲で、プレッシャーの中で、ひねり出された真実の言葉がとてもまっすぐで、強く刺さる。
何故、ここまで心が揺さぶられるのか?
それは真剣に相手の心に向き合うよう、己の弱さも醜さも全て曝け出しているからだ。

ラップバトルとは単に韻を踏んでフレーズを放てば良いという訳では無い。
観客を理屈と感情の両方で説得出来なければならない。

持ち前の頭の回転の速さや豊富な語彙でめきめき上達し、あるきっかけでラップバトルの舞台に立って注目を浴びる明子。
ラップの歴史や種類、レペゼンなどのラップ用語を覚える中でも、常に頭の片隅で駄目息子の雄大を憂いでいた彼女。

心からろくでなしの雄大でも、母親にとっては可愛い息子で、彼の将来を真剣に慮る。
互いに本音を覆い隠し、傷つけ合う日々の中で、ラップを通して、本当の想いがつまびらかになる。

息子の事を分かりたい、母親の想いを分かりたい。
ピースが歪だからこそ、欠けた部分が大きいほど、上手くはまった時に言葉では言い表せない感動がある。

そして、母親と息子が辿り着いた境地。
選ばなかったことを振り返るのはやめよう。
選んだことの正否を誰かに委ねるのはやめる。
自分自身で選んだ道を正解にする。
それこそが、自分の人生を生きるという事。

時間はかかったが遂に失った物を取り戻せた。
心を閉ざしあった無理解の関係は苦労と努力の末に、終止符を打つ。

そんな無理解を乗り越え、母と息子は漸く分かりあえたのだ。








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