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読書感想:物件探偵 (新潮文庫) 著 乾くるみ

【心無い事故物件にまつわる謎を一刀両断してみせる】


【あらすじ】

部屋が泣いています──物件の謎に迫るプロ参上!

高利回りのマンションを手に入れたはずが、オーナー生活が4ヵ月で終了したり、内覧した部屋には新幹線の座席が残されたままだったり、HDDから覚えのない録画が流れたり。
部屋になぜかダンゴムシが、バルコニーには鳩の死骸が…。
全ては何者かの嫌がらせなのか?
格安、駅近、築浅など好条件にも危険が潜んでいる!
事故物件をチェックしただけでは見抜けない「謎」を宅地建物取引を極める不動尊子が一刀両断する。ベストセラー『イニシエーション・ラブ』で日本中を騙したベストセラー作家が、不動産に欺されないコツを教える、人×物件ミステリー短編6話。

Amazon引用

宅建を持つ探偵が謎を解決する物語。


己の安らぎの場となる物件を探している筈が、言葉巧みに不動産に騙され。
ハズレ物件を引かされる事はままある。
格安、駅近、築浅など一見すれば好条件に見える物件も住んでみて初めて分かる弊害に悩まされる住居人達。
そんな悲しみに涙する住居人を救済すべく宅建の資格を持った尊子が、不動産にまつわる闇と謎を明朗闊達に解決していく。
住まいは一生に関わる問題。
素人を食い物にするあくどい不動産を見抜く術を以て。

15歳で宅建に合格し、「物件の気持ちがわかる」と言う不動尊子が神出鬼没に謎を解き明かしていく。
物件を探している時は、新しい生活に夢も見て、楽しみながら探す事が出来るけど、金銭や間取り、隣近所など現実問題は住んでみないと分からない。

「住めば都」とも言うけれど、その環境に慣れるまでは、勝手が分からず、いちいち不便な事があるし、特に賃貸などは住居人の流動性がある為、思いもよらぬトラブルに巻き込まれる事もある。

分譲価格や賃貸した時の利回りなど、素人では一見すると分かりにくい謎が沢山散りばめられている。
怪しい契約から事故物件まで。
お手頃と勘違いして契約した物件には思いもよらない落とし穴が潜んでいる。
投資物件、オーナー変更物件、賃貸の値上げ、騒音問題、残置物に事故物件など不動産売買に関連して耳にする問題と、自分は関係ないと思っていると、意外と巻き込まれてしまう物だ。

各編の語り部が不動産物件の不可解な謎に悩んでいると、物件の気持ちが分かる尊子が現れ、その知識と経験に導かれて、謎を解いていくという。
不動産に関する蘊蓄は特に含蓄があり、物語を読み進めるごとに非常に為にもなる。
建物の大きさ、価格、賃貸料等など具体的かつリアルな情報が描写されているので、実際に自分が物件を見て回っているかのような臨場感があり、遭遇する問題も現実にありがちなので、実際の私生活で活用出来る方法をハウトゥーで学んでいるようだった。
不動産売買など一見すると、正規の契約であるようで、法的論拠などを調べていくと、法外で違法な契約であり、知らぬ間に犯罪に加担しているような、詐欺まがいなやり方も一定数存在する。
「知らなかった」で済まされない問題もやはりこの世の中には存在する。

家を購入する、物件借りるというのは人生のなかにおいても数少ないビッグイベント。
出来れば、後悔せず失敗しない契約をしたい物。
でないと、気持ちよく生活が出来ない。
やろうと思えば不動産屋は簡単に顧客を騙せる。
しかし、やはり相互の信頼から成り立つ商売なので、通常はその物件のリアルな情報が記載されている。
それでも、記載されている情報を、購入者が理解出来てない事もままある。
例えば、ベランダとバルコニーの違いを説明出来るだろうか?
利回りの仕組みを説明出来るだろうか?

インターネットで調べなければ、多くの人はよくその仕組みを理解出来ておらず、不動産の説明を鵜呑みにするしかない。
ただ、無知ほど怖い物はない。
この世界で上手く生きていく為には、自分の頭でよく考えて、判断しなければならないポイントが多々ある。

「浅草橋5分ワンルームの謎」や「池袋5分1DKの謎」など、立地がかなり好条件でも、内見や棟内調査をしてみると、心胆寒からしめるようなギョッとする問題に遭遇してしまう。
オーナーチェンジ物件や現況有姿など、知っておいて損はない知識はこの世界に多々ある。

物件にまつわる犯罪的所業から、単に迷惑な話や、人情噺まで、興味を持って見識を拡げないと、分からない問題もある。
現代は特に、リアルな近所付き合いや人間関係が希薄になったせいで、信頼出来る他人に相談出来る機会が減ってしまった。
一番身近な家族や友人などに相談してみても、彼らも素人にすぎず、正確な知識を保有しているとは言い難い。
では、インターネットで調べるのはどうか?
インターネットの情報も、やはり全てが正解という訳ではなく、新しく掲載された物や、ソースに読者が共感出来る物が多い。
やはり、特殊な宅建などの資格を持ったプロに任せる事が一番の近道だ。

ある種、物件選びも探偵のように、提示された情報や謎を一つひとつ繋ぎ合わせて、自分の中での正解を模索していく謎解きの側面も少なからずある。

尊子と共に物件が泣いたり、喜んだり、涙したりする声を聞きながら、仲介業者の不正を暴いたり、物件の真の姿を見出していく中で、自分の安らげる第二の故郷と呼べる場所を探していく。


この物語を読んで得た知識が、少しでも実生活でも役に立ち、後悔しない物件を選べる事を切実に願うのだ。




 








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