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読書感想:我が焔炎にひれ伏せ世界 ep.1 魔王城、燃やしてみた (角川スニーカー文庫) 著 すめらぎ ひよこ

【世界を救うのが目的で無い、己の心がままに燃やし尽くせ】


【あらすじ】
(あわよくば何か燃やしたい……)という欲求を抱いていたホムラは異世界へと招かれる。
そこには同じようにヘンな女子高生達が集められており、何でも特別な才能を持つ彼女達に「この世界を救って欲しい」という話のようで?
100年振りの魔王復活、混乱に乗じて蔓延る悪党共。天下動乱の世を正す為、世界の命運は少女たちに託された――。

「あなた悪人さんですか?それなら私、心置きなく燃やせます!」

燃やすことこそ大正義! 焼却処分はエクスタシー!! 圧倒的火力で世界を制圧していく残念系美少女ホムラの行く末は!?

Amazon引用

特別な少女達がその才能で異世界を救う物語。


己の心の奥に秘めた欲望を、外に吐き出す快感は何にも代えがたい。
その機会を待ち侘びたホムラは、女神に異世界に招かれる。
そこに集うは、個性派揃いな女子高生達。
各々が常軌を逸した野望を持ちつつ。
その奔流を思う存分に吐き出せる世界で、悪党共を血も涙も無く成敗していく。
人選を誤った事に後悔した女神だったが、結果として、彼女達が暴れ回った焦土には清浄な世界が拡がる。

魔王を倒す事が目的ではなく、あくまでも自分の欲望を吐き出す捌け口として、悪を捌いていく様は、明朗闊達で、清々しい潔さがある。
悪人が相手であるならば、大義名分もあるし、情け容赦なく、己の全力をぶつける事が出来る。

そんな所業を平気で出来るのは、致命的に人間性が欠落した奇想天外な仲間達が集ったから。

人体実験とB級映画好きなマッドサイエンティストのサイコ。
悪を切りたい人斬り女子高生、ジン。
地球外の文明で創られ、人間により改修されたアンドロイド、プロト。
機能不全の生物兵器、ツツミ。
そして人体発火能力を持つ一応一番の常識人、ホムラ。

異世界に転移して早々。
高名な人物であるグルドフが襲撃を受けている場面に遭遇し、我が意を得たりと言わんばかりにサイコやジンが暴れ回り。
あっという間に場を掌握して、半ばお礼をもぎ取るかのように、グルドフの家を拠点にする事を決めて。
魔物を殲滅する部隊である「殲剣隊」に入隊する事を求められ、入隊試験の場に乱入したホムラが火炎瓶でサイコを燃やしてしまったりしつつも、何とか一員となり、この世界で戦う力を得る為の訓練が始まる。

治癒魔法を覚えたサイコの手により、ツツミの真の力が目覚め、プロトも自分の戦い方を認識して。
彼女達が成長を続けていく中、一人自分の力を制御できず、何処か煮え切らぬ自分の心の中の枷を感じて、悶々するホムラ。
そんな状況下であっても、容赦なく世界は進んでいく。
初任務で長閑な村を脅かす魔物の討伐に向かえば、もう一つの事案として盗賊団という脅威を発見して。
点数稼ぎの為に盗賊退治に向かったら、自分達の力では勝てぬ敵に出会ってしまう。
更には、事態の裏で糸を引く身近にいた黒幕が、魔王から授けられた禁断の力を発動させ、サイコ達を地に沈める。
そんなピンチを覆すのは、己の内に芽生えた初期衝動。
その想いを素直に受け入れる事で、ホムラは覚醒を果たして、黒幕ごとオーバーキルの如く、燃やし尽くす。

個性が尖りすぎて、自己主張で一見、まとまらなそうなパーティーなのに、己の得意分野を才能開花させる時は、仲間とチーム連携をとって、水を得た魚のように活き活きと闘い続けていく。
その根底にあるのは、己の欲望にどこまでも忠実であるという事。
周りの眼だとか、偉い大人の言う事は気にしない。
自分のしたい事をただひたすらに現実で実現させていく。
そのある種、エゴイスティックな行いの結果として、勝手に世界が救われていく。

本来であるなら、世界を救う事に大それた理由はいらないのかもしれない。
正義感や義侠心で動けば、最初の内は良いかもしれないが、途中でその大義に息切れしてきて疲れてくる。
ただ、自分の衝動を存分に暴れ回せる理由があればいい。
一瞬、一瞬を刹那的に全力で生きる。
明日の事や将来の事は考えない。
タガが外れたように、嘘偽りのないありのままの自分で、抑圧された個性を、何でもありな異世界の地で放出していく。
自分の欲望を解放する事はエクスタシーであるし、自分達を阻む物が何もない旅路は何よりも楽しい。

しかし、個性的なメンツのそれぞれにも歪な過去を抱えていて。
王道を往くのではなく、アンチヒーローとして物語の終着点を目指していく。
正常な判断では世界は救えない。
どこか狂気に身をやつして、異端者として茨の道を歩いていく。
周囲を畏怖させながらも、我が道を往く彼女達は互いの存在をちゃんとリスペクトして、壊すべき物を壊して、新たなる世界を創造していく。
けして、正義の味方などではない。
あくまでも、悪の敵として活動する。
己の心のままに世界を蹂躙し尽くして、アウトレイジの如く、魔王城を巨大なキャンプファイヤーに変えるべく、傍若無人に奔走していく。
楽しんだ結果として、ついでに天下動乱の世界が救えればそれで良い。

人道から転がり落ちた彼女達は、これからどの様な活躍を見せるのだろうか?




















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