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週に一度はプールに行きます


#習慣にしていること

今からもう40年くらい前のこと。
小学校のなかよし学級に通う長女の、学校以外の活動を探して回っていた。
今みたいに、インターネットもなく、多動な長女を連れて、文字通り駈けずり回って探した。
YMCAあおぞらの会、コロッケ子ども会、親の会のお遊び会、お習字教室、
スズキメソード。などなど。
よくもまあ駆けずり回ったものだ。

障害のある子を受け入れてくれる場所を探して、西へ東へ。
そして、たどり着いたのが、アスカスイミング。

近くのアメリカンスクールの室内プールを借りて、運動具店がスイミングスクールをやっていたのだ。
スイミングスクール自体が少なく、もちろん、障害児向けの教室などない時代だ。
恐る恐る、アメリカンスクールの敷地内に建つプレハブの事務所を訪ねた。
「この子をスイミングに入れてもらえるでしょうか。」
もう、心臓がドッキドキで、たとえるなら
「私を宇宙飛行士にしてくれるでしょうか。」とNASAに言いに行くくらいの覚悟だった。清水の舞台から飛び降りるくらいの。
ダメもとだったが、
「いちど、インストラクターと水に入ってみて、試してから決めましょう。」という返事をいただいた。
数週間後、お試しスイミングをクリアして、長女は入会した。
いちばん初歩のクラス。私はプールサイドから見ていた。感無量。
そして、十年間ほど、初歩クラスで泳がしていただいた。クラスは全くアップしない。ずーっと初歩クラス。
最終的には、小学生の中で高校生が一人。でも楽しく通っていた。

そんな時、インストラクターからお話があった。
「今度、マスターズクラスを始めるので、お母さんもどうですか?」
こんなに長女が楽しく通っているのだからと断れず、私も入会した。
そして絶句した。
アメリカンスクールのプールは、飛び込みができるプールなので、一番深いところは、3.8メートルもあったのだ。
25メートル泳ぎ切らないと、途中で足が立たなくなるから、必死で泳ぐしかない。それでも、平泳ぎとクロールは何とかできるようになった。
楽しかったのはフィンをつけて、すいすい泳ぐこと。
インストラクターはスキーの事故で車いすになり、
「プールに入れなくてごめんなさい。」と言いながら、プールサイドから大きい声で、
「エルボー、エルボー。」と叫んでいた。
クロールの時、ひじの角度をいつも注意されていたのだけど、先生は長州力に似ていたので、他のことを考えてしまった。
しかし、アスカは倒産した。
あんなに楽しかったのに。

少しくすぶり続けていたところ、長女と同じ法人の通所に通うメンバーのお母さんから電話があった。
「水泳カウンセリングの先生がいるんだけど、一緒に泳ぐ人を探しているの。お宅のお嬢さん、どう?」
何という素晴らしいお誘い。
早速、習うことにして、もう20年。
長女は今でも、ひと月に2回水泳カウンセリングに通っている。
私の方は介護の仕事をはじめたので、時間が取れず、泳ぐことを辞めてしまった。

ところが、10年ほど前の神経内科の診察室でのこと。
長女の主治医が、いつものように、質問をしていた。
主治医はしっかりと長女を見て質問をする「プールには、行っていますか?」
「うん。」ふてくされたような声で長女は答える。
緊張しているのだ。

すると医師はくるっと向きを変えて私に聞いた。
「お母さんも泳いでいるんですか?」
え、予想外の質問にドギマギして、
「いいえ」と言うのがやっとだった。
そして、私は考えた。今まで長女のことばっかり考えてきた。
そうだ、私も、泳ごう。

ちょうど転職して、仕事が毎日の出勤ではなくなり、平日の休みがあった。
市営温水プールに行ってみた。2時間400円。
子どもたちが小さいころ連れてきたな。なつかしいな。
そして、それから、毎週通うようになった。
長女は、日曜に他区のプールに行っている。

そこのプールでは、なんと、無料ワンポイントレッスンというのがあった。
月曜、金曜、10時から30分、無料水中ウォーキングレッスン。
早速参加した。参加は自由で、やめたくなったら、途中で抜けてもいいという自由なもの。
呼吸の仕方。歩き方の基本。筋肉の使いかた。これで無料?と思うほどの充実した内容の30分。
筋肉を十分使うので、運動した充実感がある。
インストラクターは次々変わったが、忘れられないのは、T先生だ。
筋肉自慢の男性の先生で、他のインストラクターはプールサイドでは、Tシャツを着ているのだが、T先生だけは泳がなくても、Tシャツは着ない。
鍛え上げた筋肉をしっかり、見せてくださっている。
T先生になってからは、マダムの受講者が圧倒的に増えた。
私は、「マジック・マイク」のチャニング・テイタムみたいな先生だと、家に帰って話した。
そのチャニング・テイタム先生が、今度は、20分間の水中ストレッチを教えてくれることになった。こちらは有料だったが、体中のカチコチがほぐれ、すこぶる、健康になった。
とても楽しく通っていた。
でもT先生は配属替えになって、水中ストレッチは終った。

そしてパンデミックになった。
プールは閉鎖された。
しばらくして、プールは再開したが、無料水中ウォーキングは中止となった。

だけど、今でも、私は週に一度はプールに通っている。
平日の12時、一番すいている時間。
アスカで習ったスイム。
T先生に習った水中ストレッチとウォーキング。
T先生は筋肉や関節のことを詳しく教えてくれた。
大腿四頭筋を鍛えるために足を高く上げて歩く。
股関節を柔らかくするために、足を横から振って歩く。
踝をぐるぐる回す。
かかとで歩いてバランスをとり、転倒予防などと、習ったことをおさらいしながら、一人で一時間近く体をほぐす。

これをしないと、心と体に老廃物がたまったままみたいで、気持ちが悪い。
気分がすぐれないときには、特にプールに行く。
泳ぐときは、足をつけないで、体を浮かせる。
こんな体験は無重力の宇宙か、水中でしかできない。
水圧でリンパがマッサージされて、むくみが取れる。
そしてまた、心も体もすっきりして生きていける。


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