見出し画像

法律や福祉だけでは助けられない


前科者
岸善幸監督
2022年

原作の漫画はまだ読んでいないが、WOWOWで放送されたドラマ「前科者」は全部見た。
ドラマは、新米保護司、阿川佳代が初めての保護観察対象者のみどりを担当するところから始まる。
佳代はコンビニで働きながら、無給の保護司を続けている。
とはいえ、対象者が会社を無断欠勤しているとか、何かトラブルがあったりすると、コンビニの店長に、「すぐ戻りますから。」とか言って出かけてしまう。
店長は困ったもんだと言いながらも、佳代の行動を見守っている。

映画はドラマから2年後、仕事に少し慣れてきた佳代の担当、工藤豊が主人公になる。
工藤は10歳の時、目の前で、母親を義理の父親に殺され、弟と児童養護施設に引き取られる。施設でも職員の虐待にあい、その後就職した工場で、母親の悪口を言った先輩を刺し殺してしまう。
服役して出所した工藤は、寡黙でまじめに自動車修理工場で働いている。

工藤を演じる森田剛が、V6のメンバーとして、きらきら輝いて歌い、激しいダンスをしていたアイドルのオーラを全部消して、おどおどしたおじさんになっている。
座っているだけで、工藤豊を演じる森田剛の演技力がすごくて、映画に引き込まれてしまう。
あと2週間で、保護観察期間が終わるので、一緒にラーメンを食べようと約束したのだが、工藤が姿を消してしまう。
そして、警官、福祉課職員、施設の職員が次々殺される事件が起きる。

担当する刑事は、佳代の初恋の人だった。

弟をかばいながら逃げる途中怪我をした工藤は入院をする。
そこで、最後の復讐をしようと試みる工藤に、佳代が止めに入る。
その時の言葉。
「法律や福祉だけではあなたを助けられない。
つらいときには、つらいと言ってください。
せいいっぱい叫んでください。」

そうだ、法律や福祉だけでは救えないものがたくさんある。
それは心だ、心の叫びだ。
苦しいとか、つらいとか言っていいのだ。
でも、苦しいとかつらいとか言わせてもらえないのがこの世の中だ。
社会や、世間が苦しさを作っているのに、どうして、苦しい本人が苦しいと言わせてもらえないのだろう。
寄り添うなんて当たり障りのない言葉をよく使うけど、寄り添うって、声にならない心の声を聴くことなんじゃないだろうか。
苦しいときに苦しいって言えたら。
そして苦しさを聞いてくれる人がいたら。

佳代が初めて担当したみどりは、本当に大変だったけれども、今は便利屋をして働いている。
時々、佳代の家に顔をだす。
みどりは、「無給の保護司さんにお肉御馳走してあげなくちゃね。」なんて言って押しかけてきたりする。
みどりは言う。
「裁判官とか、弁護士とかすごーくまっとうな人たちだよね。」だからどうも本音が言えないらしい。
「佳代ちゃんは弱いからいい。ダメダメだから安心できる。佳代ちゃんが隣にいると落ち着くんだ。」

だめだめでいい。弱くていい。弱いからいい。ダメダメだからいい。

香川まさひと・月島冬二


よろしければ、サポートお願いします。老障介護の活動費、障害学の研究費に使わせていただきます。