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娯楽の栄枯盛衰

お酒は人と会う時にしか飲まないのだが、近くに酒のコレクションをしている友人がいる。ワインを収納する可動式のワゴンまで買ってしまうほどの熱の入れようで、彼にとってお酒は「資産計上する」もののようだ。

ウイスキーの高騰が凄いらしく、そのメカニズムが気になって手に取ったのがこちらの本。

食べ物を追い求めていると、読書のジャンルも自然とそっちに寄ってくる。

端的にいうと、「ワインよりも保管がしやすく、樽ごとに味の個性が分かれるため、希少性も高い」ことがウイスキーの価格高騰に関係しているようだ。考えれば考えるほど投資先にピッタリである。

ウィスキーは立ち上げて最初の3年間は熟成させるため販売することができず、蒸溜所はキャッシュフローに悩まされる訳だが、ウィスキーファンドがそこに解決策を持ち込んだ。

すたわち、「熟成途中のウィスキーをファンドに売却し、保管料を手にしながら、熟成が終わったら公正な価格で買い戻せる」という手法である。

買い戻した時にファンドは利益を得られるので、いわゆるWinWinの関係というやつだ。

「時は金なり」という金融手法の面目躍如で、これにより一部ではあるがお酒を製造する人たちの苦しいキャッシュフローを助けることができる。

親しまれるウイスキーは時代と共に移り変わってゆくが、戦争や天候など大きな出来事があって供給が絞られ、人々が代わりの嗜好品を求めて別の銘柄が流行る、といったことが繰り返されているようだ。

農作物を原料とするあらゆる食べ物は、安定供給という課題を避けて通れない。以前に狂牛病が流行ってアメリカ産牛肉が手に入らなくなった時、吉野家は大変な苦悩の末にアイデンティティである牛丼の販売を止めた。

別の製造元に乗り換えるのも一つの経営判断だったと思うが、窮地をこらえることに成功すれば、温めた絆は輝き始める。吉野家は賭けに勝ったのだ。

話を戻そう。著者によれば、ウイスキーは樽によって味が千差万別。年間通じて製造し続けられるので観光地としても適している。個人志向が強くて、情報が出回る今の世の中にマッチしたお酒だと語っている。

YouTubeが盛り上がっている時は多様性の象徴のように見えていたが、今では同じ流行曲を沢山の人が「歌ってみた」していて、それぞれの固定ファンが各所で盛り上がっている。

それ自体は楽しいことだと思うのだが、人間には「自分だけが経験している何か」を求める厄介な欲望もある。ウイスキーをはじめとして、そのような"独自性の欲望"にマッチした娯楽が、次の覇権を握ってゆくのだろう。

今度から飲むウィスキーの味わいが深まりそうな好著だった。

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