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少額短期保険が業界の革命児になるにあたっての課題

新しい市場環境に対応する動きとして注目を集める少額短期保険

保険業界以外も含めてさまざまな会社が参入しているのが少額短期保険分野だが、登録事業者を眺めているだけで今後の展開がいろいろと想像できて楽しい。ワンコインほどの低価格で加入できるのが売りで、相当な販売数を挙げた会社もある。特に保険離れが加速している若年層に向けて、安価で手軽な加入体験を与えながら保険の裾野を広げようという意図がメインのようだ。今までにない斬新な商品の認可申請がたくさん出ると思われるので、金融庁は忙しくなりそうだ。私としても保険業界の閉塞感を打破する動きは歓迎したいと思う。ここでは少額短期保険会社が直面するであろう代表的な課題を挙げながら、解決策についてあれこれ考えてみよう。

①価格競争と資産運用の選択肢

各社の保険料シミュレーションを見ると、「20代向けのプランはワンコイン(500円以下)を死守する」というのが値段設定のこだわりポイントのようだ。

確かにワンコインで保険に入れるというのはなかなかインパクトのあるフレーズである。といっても、これは本当に最低限の保障にした場合の見せ球で、実際には金額を増やしたりいくつかオプションを追加して月々2000〜3000円ぐらいになるのがほとんどではないかと思う。

シンプルな保障でこの辺りの値段帯となると、ネット生保と熾烈な競争となりそうだ。詳細は省くが、シンプルな死亡保障で比較してみると意外な結果が出てきた。

私はアクチュアリーではないのでなぜこの結果になったのか見当がつかないのであるが、なかなかに激しい戦いになりそうだなと感じた。

また、少額短期保険は提供できる保障期間が1年以内の短期である。そのため、支払時期の到来までに手元にあるお金で資産運用をする、となると選択肢が限られる。

監督指針にも資産運用においては預金などの安全資産に限定した運用が求められる、とある。取れるリスクに限りがあるということは、儲けの期待値も限定的になるということだ。これは保険料率にもきいてくるはずである。

こうしてみると、少額短期保険は自社の持つバックエンド商品とあわせて販売して、客単価を上げる戦略が主流になりそうである。

②メイン商品との関係性

自社のメイン商品と組み合わせて販売する場合、客単価を上げる目的であれば類似の関連商品を売るのが最も手っ取り早い。そうせずに、わざわざ異分野である保険を選ぶのはなぜだろうか?

一つの大きな理由としては、支払われる保険金を原資にして自社サービスを買ってもらう、顧客の購買力確保の手段と捉えていることである。

支払が発生しなければ保険料収入で潤うし、発生したら保険金が入ってくる。「必要になるかわからない段階から、積み立てのお金を毎月預けてくれる。

しかも、不要なまま期限を迎えたらそのお金は引き出されない」モノやサービスを売って都度対価を得ている業界の人からしたら、「え、お金の主導権をそんなに我々に握らせてくれるんですか?!」という印象を持つのでないだろうか。といっても、保険には悩ましい側面もある。

たくさん売ったとしても、管理コストが高くついたり、支払が予想以上に発生すると儲からないのである。ここが都度利益を乗せて売っている業界との決定的な違いだ。

自分達で少額短期保険事業を立ち上げるとなると、契約管理の負荷を背負う必要がある。規制でがんじがらめの状態にありながら、損益分岐点を超えてゆくというのは複雑な連立方程式を解いてゆくような独特のノウハウが必要である。

③事務の軽量化には限界がある

前述の通り、少額短期保険は運用の選択肢が限られていて、ロットも小さく、ネット生保などとの競争も激しい環境である。そんな中、次に目がつくのは事務コストだ。

ネット完結で自動化を進めて、コストをゼロに近づければ薄利多売でもやっていけるんじゃないか、というのはハッキリいって素人考えである。

事務コストには削りに削ってもどうしても残る部分がある。具体的には不正請求を検知するための各種査定や、お客さまからの問い合わせだ。

チャットボットやAIなどで自動化できる部分もあるが、定型から外れた業務はそれなりのボリューム出てくる。

特に生命保険は医学知識が絡むので、一般の人には馴染みのない用語がたくさんあり、これが問い合わせに繋がる。

そもそも、ネット完結手続きで事務コストを大きく引き下げる方策があるのであれば、ネット生保も試すはずだ。

ネット生保にできなくて、少額短期保険事業者だけにできる事務コスト軽減策は、保障期間が短いことを理由とするものということになる。

このゾーンで私の想像を超える素晴らしい削減策が計画されているということであれば、楽しみに待ちたい。

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