理想とか王子とか
男の子に恋をしていた。ポケモンパンのシールをくれた、遠足で行った牧場で怖がっていた私の手を握ってくれた。ただそれだけだったけれど、人生4年目の私の初恋だった。
下駄箱のおはようが心地よくて朝の教室で本を読む。月島雫に憧れて単行本を探しながら、いつか天沢聖司が現れると思ってた。
蛍光黄色のピステが眩しくって紺色のランドセルを目で追って、けれどオランダ坂にはやっぱり何もなかった。
都会人への苦手意識と年々重症化する人見知り。それに比例するように1人で古着と本に囲まれたお部屋に籠って、音楽を流しながら編み物をするのが楽しくって仕方がないの。
ジンジャーブレッドティーにクリスマスの圧をかけられてクリスマスには、まだかまだかと急かされる。けれど天沢聖司はまだ現れないみたい。
しんどいよね。自分が誰の1番でもないってこと、思い知らされるっていうか。
朝井リョウも正欲の中でそう言っていた。
大した人間じゃないのに理想ばかり大きくなっていく。この感情は醜いはずなのに捨てきれない。ポケモンパンのシール貰って好きになるような世界でずっと生きてたかった。
結局、幾つになっても王子様を夢みてるんだよ。
いつか、オランダ坂の頂上まで自転車押しながら王子と登るんだ。
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