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【いつメロ No.5】幸せな夏は来る前に去っていった

夏が憎い。

カラッとした暑さ、花火大会のポスター、浴衣 etc…。夏を連想させる全てが憎くて仕方ない。
分かってる。こんなのはバカバカしいってことくらいは。でも、そうでもしないと、突如私の元を去っていった彼に心を荒らされそうだった。

なんで去っていったのか分からなかった。
「もう終わりにしよう」と突然告げられ、そのまま去っていった。その瞬間、今日明日の幸せと夏の約束が風に吹き飛ばされ、2人で過ごしたあの部屋は梅雨のようにどんよりとした空気が充満していった。それに耐えられず、こうして部屋を飛び出した。彼を追うことはなかった。いや、追えなかった。追いついても結果は変わらないと直感したし、何て声をかけるべきか思いつかなかった。だから、外でカラッと輝く夏を憎むしか出来なかった。

反抗期のごとく部屋を出たが、帰る場所はあそこしかないから帰るしかなかった。部屋の中は相変わらずどんよりとしていて、何だか時間の流れが逆を向いたような感覚になった。帰ったはいいが、彼がいた痕跡と空気に押しつぶされそうになった。何かしていないとほんとに潰されてしまいそうだったから、気を紛らわすためにラジオをつけ、ランダムに周波数を合わせる。時折流れる音に興味を持てず、クルクル回し続けた。これでは紛れないかと諦めかけた時、どこか90年代を感じさせるイントロが流れた。そのメロディが何だかカラッとしていて、部屋の空気を少し乾かしてくれたような気がしたからこれで気を紛らわすことにした。

だが結局、聴き終わった時には気が紛れなかった。部屋の空気は少し軽くなった気はする代わりに、今度は心にくるものがあった。あのカラッとしていて軽やかなメロディとは裏腹に歌詞は「別れ」を物語っていた。同じ時間にこれを聴いていた人の中で一番効果抜群だったという自信すら湧く。歌詞の世界では二人の愛はとに冷めていて、型にはまった恋を演出していて、それに嫌気が差して別れたという流れだった。

この歌を聴き終えた時ふと、別れを告げた瞬間の彼の疲れたかのような表情が脳裏によみがえった。もしかしたら、彼も型にはまった恋に嫌気が差したのかもしれない。愛の言葉を求められる毎日に疲れたのかもしれない。「あんたの愛ってちょっと重いよね~」って友達に言われたことがあったけど、あの時はそんなことないと笑っていた。それが普通だと本気で思っていた。それで幸せを感じている自分が確かにいた。けど、その愛は彼には重かったようだ。

この歌は何だか彼の気持ちを代弁している気がした。彼が作った曲かとすら思ったが、作ったアーティストは街中でよく聴くあの4人組のロックバンドだった。この前、靴屋でも聴いた気がする。

夜風に当たろうとベランダに出て、あの歌と彼の疲れた表情を思い返した。そういえば、ある時から彼の言葉から気持ちが抜けていった気がしていて、満たされないでいた。だから余計に求めたのかもしれない。今思い返せば
、確かに重い。けど、今更気づいたってもう遅い。すでに彼と紡いだ幸せは儚く散った後だ。

愛し方が自由だってことが分かれば、彼は戻ってくるのかな?
そんな問いを彼に投げる代わりに、夏を迎えた夜空に問いかけた。
当然返事はなく、代わりに少しだけ涼しい風が頬を撫でた。


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