黒装束の花嫁
ミラノから北に約50kmほどの、コモ湖近くにスキニャーノという、
⼈⼝わずか900⼈ほどの⼩さな村があります。
古くから伝わる伝説では、その地で結婚が決まった娘は頭から⾜の先まで
なぜか⿊づくめにする事になっていたとか。
若い娘なのに、アクセサリーを身にまとう事も全くなく、
つまりお葬式の時とそう変わらない⾐装だったと言われています。
スキニャーノでは、代々の領主が「結婚初夜の前に花嫁と添い寝する」と
いう所謂「初夜権」が常となっていたそうで、それを避けるために
「結婚する」という事を領主や⼟地の権⼒者に悟られないための、
若い娘たちの密やかな抵抗が、黒装束ということだったらしいのです。
そして⿊づくめである、という事はすなわち「まだ領主のお⼿つきに
なってない」との意思表⽰でもありました。
スキニャーノに住むカルリーナとレンツィーノはある10⽉の
肌寒い⽇に密かに結婚式をあげました。
もちろんカルリーナ は「⿊装束の花嫁」です。
結婚式の次の⽇の朝もカルリーナは⿊装束のまま、新郎のレンツィーノと
⼀緒にミラノへ新婚旅⾏へ出かけました。
もちろんミラノ⼤聖堂を⾒学し 、少し霧の出た⽇でしたが、
大聖堂の頂上の⻩⾦に輝く聖⺟マドンニーナを拝みに⼆⼈は
頂上へ上がります。新婚らしく⼿はしっかりとつないだ ままで・・・
聖母マドンニーナに近づくにつれ、霧はどんどん深まり、
視界が遮られたと思った瞬間、いきなり⿊い「物体」が新郎新婦の前に
現れ、恐れおののいたカルリーナは思わず夫の⼿を離してしまいました 。
それからカルリーナは何かに取り憑かれたように急に⾛り出し、
彼⼥の中でわだかまっていた「⼤きな罪の意識」と共に
彼⼥の「精神」までマドンニーナへ向かっていきます・・・
その後カルリーナは「もぬけの殻」同然になりました。
次の年の8⽉、カルリーナの胎内に新しい命が宿っていましたが、
なんと彼⼥は夫レンツィーノには何も⾔わず、沈黙したまま
姿を消してしまいました・・・
レンツィーノはそこら中を探し回り、また新婚旅行先のミラノまで
探しに⾏きましたが、カルリーナを⾒つける事は出来ませんでした。
それから何年かして、ミラノ⼤聖堂の頂上、聖⺟マドンニーナの
近くで写真を撮ると時々⿊っぽい、なんとなく⼥性のような物体が写り、
うっすらと真珠のような⽩い涙を流しているらしいという噂が
流れましたが、真相は定かではありません・・・
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この話は『ミラノの秘密』という2000年頃に発⾏された本に
載っていたのを訳したものです。
著者シモネッタ・ヴァレンツィアーノが後書きに
「こうした事(初夜権)は今からほんの30〜40年前まで
⾏われていたらしい」と。
イタリアに限らず、古今東西、こうした伝説や伝承は色々と
あるみたいですが、実際のところはどうなんでしょうね。
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