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連作の分析【月刊 俳句ゑひ 水無月(6月)号 『贈る』を読む〈前編〉】

 こちらの記事は、月刊 俳句ゑひ 水無月(6月)号の『贈る』(作:上原温泉)を、若洲至が鑑賞したものです。まずは下の本編をご覧ください!

連作を分析してみよう

 先月の鑑賞文で、上原は若洲の全句に触れながら考察を展開しました。一方の若洲(筆者)は、いくつかの句をかいつまんで、そこから広がる世界や前提にしている考え方を捉えるという手法を取っていたために、句そのものに触れる文章は比較的少なかったと認識しています。

 若洲も全句に触れる解説をやってみようと思ったのですが、それをやり始めるととりとめがなくなる予想がついたので、それとは別の手法で読んでいくことにしました。具体的には、若洲的連作の読み方を、始めからそのままお見せしてみよう、という目論見です。

季語で分けてみる

 まずは季語や切れ字など、句の属性となり得るものをもとに、探っていきます。今回は明らかな切れ字を使った句が少なかったため、季語についてのみ見ていきます(季重なりの句は、筆者の感覚でより重要度の高い方を採用しました)。

 ざっくり見ると、「水中花」と「十薬・どくだみ」の句が5句ずつある以外は、まんべんなくさまざまな季語が使われていることがわかります。行事の季語(忌日や祭祀の季語)はそれを体験していないと読解も難しいので、今回は除いたのでしょう。

その他特徴を考える

 他に、20句の持っている特徴にはどんな物があるでしょうか。ぱっと見で印象的だった要素で分類してみます。

『贈る』において俳句の季語が始めに現れた位置の分類

 上五とは、五七五の最初の5音、中七は次の7音、下五は最後の5音に当たります。カッコでくくったものは句またがりの位置に季語が来ている場合です。この表を見ると、こちらも分類してみるとかなり均等に分類している気がしますが、中七に季語がある句が5句もあるのは、かなり多い方かもしれません。俳句の季語は上五か下五に置くと心地よくなることが多いのですが、こうしてみると、そうした特性を無視した数理的な作品のようにも思えます。

 その他気になった特徴で抽出してみたのがこんな感じ。判定は筆者の独断と偏見です。なお番号の説明は本稿末尾においてあります。

  • 五七五のリズムではない句 =11句(②③⑤⑧⑨⑫⑭⑮⑯⑲⑳)

  • 動詞が2つ以上用いられた句=9句(②⑤⑧⑩⑪⑭⑮⑯⑳)

  • 終止形・体言で終わらない句=8句(②③⑥⑧⑩⑫⑬⑲)

  • 対句的表現を用いている句 =6句(⑤⑧⑩⑪⑭⑯)

  • オノマトペを用いている句 =4句(④⑥⑬⑲)

 20句を並んだ中では、「◯◯◯◯◯/◯◯◯◯◯◯◯/◯◯◯◯◯」に意味もリズムにピタッとはまる句のほうが少数派(9句)でした。それ以外は意味の切れ目と五七五のリズムの切れ目が必ずしも一致せず、いわゆる破調はちょうの句が多かった印象です。その他、俳句の世界ではセオリーとして嫌がられることの多い、複数の動詞が入った句も半分近く。セオリーに対して忠実ではないようです。数は少なくなりますが、対句法やオノマトペを用いた句の割合も、20句の中で見ると多いように思います。これが上原の今回の連作の特徴の一つだと言えるでしょう。

 ひとまずここまでで形式的な属性に従った分析はやめてみることにします。もちろん前から順番に味わいながら読んでからの属性分析ですが、このように自分以外の作った連作を見ていくと、表現だけに惑わされない作者の特徴が現れることがあります。


 今回は内容に踏み込まないまま終わりになってしまいました……。次回は、具体的に句を取り上げながら連作を読み進めていきます。

〈補足〉文中で用いた俳句の番号は下記の通りです。

①十薬の庭に開かずの蓋があり
②十薬を抜いて賃貸料上げて
③十薬の要は業者のみ知ると
④どくだみへ親のぐんぐん入り込む
⑤どくだみを抜くどくだみが好きだつた
⑥夏ぐにやりすつぽんの目は水の辺を
⑦柵に折る上半身が滝の側
⑧白靴へ寄る白靴を恥ぢながら
⑨万緑の中に知人の混みあへる
⑩大きな木くわくこう居ても居なくても
⑪客ありてメロンスイカと繰り返す
⑫分度器と定規ときどき目高減り
⑬犬困る噴水ぱつと消えたれば
⑭ハンカチに差が出る夏の月が出る
⑮タッパーを持つて白夜を漕いで来ぬ
⑯下りて行く店下りて行く水中花
⑰丸椅子に小さき背もたれ水中花
⑱部屋すこし傾いてをり水中花
⑲せまくるしくて水中花ばらばらに
⑳こんなにもひらく水中花や贈る

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