見出し画像

映画取材ルポ 石井岳龍監督最新作『自分革命映画闘争』支援として過去作の特集が開催。『ERECTORIC DRAGON 80000V』上映後、石井と永瀬正敏、浅野忠信が当時を懐かしむ

タイトル写真(左から)永瀬正敏、石井岳龍監督、浅野忠信

 石井岳龍監督の最新作『自分革命映画闘争』が3月25日より、東京・ユーロスペースで上映中だ(兵庫・元町映画館では、3月18日より先行公開)。2006年より、神戸芸術工科大学教授に着任した石井が、映画創作研究活動の集大成として、神戸芸術工科大学・映画コース関係者有志と共に作り上げた、実験精神にあふれる、2時間45分の大作だ。

『自分革命映画闘争』サイン入りポスター

  本作の支援上映として、特集上映「石井聰亙解体新書」が3月18日~24日に元町映画館、3月25日~4月7日にユーロスペースで開催。石井映画を読み解くキーワード”ROCK”、”INNNER”、”HYPER”、”8mm考古学”に解体し、『狂い咲きサンダーロード』など厳選された10作品が上映。3月26日には、2001年に公開された『ERECTORIC DRAGON 80000V』がユーロスペースにて、35ミリフィルム上映された。上映後には、石井岳龍、W主演の永瀬正敏、浅野忠信が登壇。当時の思い出話に花を咲かせた。
『ERECTORIC DRAGON 80000V』は、55分のモノクロによるSF活劇。電気と感応し爬虫類と心を通わせるペット探偵・竜眼寺盛尊(浅野忠信)と、電気を修理し怪電波をキャッチする謎の男・雷電仏蔵(永瀬正敏)。破壊衝動をエレキギターの爆音で鎮める竜眼寺、電波を正しく使わない者を仕置きする雷電。共に帯電体質の2人が夜の都会を舞台に、激しい感電バトルを繰り広げる高圧電流スパーク映画だ。
 3人そろったトークイベントという形で本作に向かい合うのは、本日が初めてかもしれないと話す石井。当時の貴重な話が聞けるとあってか、ネット販売分のチケットは上映日前にソールドアウト。場内に集った観客を前にトークが始まった。
 日本よりも海外の方が熱狂の度合いが高いという本作。日本未発売の海外版ブルーレイを持参した石井が語る。「ヨーロッパでは、”『ERECTORIC DRAGON~』の石井”なんですよ」と日本ではカルト映画扱いされているこの映画が海外で絶賛されていることを説明。
 浅野も、ベルリン映画祭に参加したときのエピソードを話す。「向こうで知り合った、『ERECTORIC DRAGON~』が大好き方がいて。“お前、俺の家に来い”と言われ、遊びに行ったら、その人の家の冷蔵庫の上に(『ERECTORIC DRAGON~』の)ポスターが貼ってありました」と述懐。
 ドイツではサントラ付きのDVDが発売されていたと石井が説明。日本との熱量の違いがうかがえる。永瀬も「ドイツの映画祭で、ある映画評論家の方が熱狂的なファンで。『ERECTORIC DRAGON~』の話しかされなかった(笑)」と話すが、「家にまでは行きませんでしたけど」と笑いを誘った。
 撮影現場の過酷さについて、浅野がまず振り返ったのは寒さだった。2月の寒い時期の撮影だったそうで、「夜のビルの屋上で。みぞれがチラついているような日だったんですよ。火薬を担当されるスタッフの方が“寒いな浅野君! もう我慢できないからコレ!”と言って、ワンカップ大関を懐から出して。酒飲みながら火薬扱うんだ(笑)」と笑いながらも当時を懐かしそうに語った。
 ナイトシーンが多くを占めるため、連日、撮影が終了したときには明け方だったそう。「皆で電車でうとうとしながら帰った」と浅野が明かす。それは、劇中で激しいバトルのあとに浅野演じる竜眼寺が電車でうたたねするシーンと重なる。スタッフ、キャストの全員がそうやって戦い抜いた撮影の日々だったことがうかがえた。
 永瀬演じる雷電は、右半分が仏像、左半分は人間という特殊なキャラクター。石井が「顔の左半分は出てるから大変じゃないように見えるけど、口も半分仏像になっているので、うまくしゃべれない。ストローで飲み物を飲んでた」と特殊メイク後には不自由が多かったことを明かし、永瀬に「大丈夫でしたか?」と心配そうに質問するも、永瀬は「大丈夫ですよ」とけろりと答え、場内を沸かせた。
 竜眼寺がかき鳴らすギターは、映画のために浅野を含めた皆で考え、デザインされたもの。撮影後は浅野がもらって持って帰ったそうだ。いまも浅野の兄の自宅で大切に保管されているという。
 街の中で演奏するシーン。通行人の反応について、浅野は「かなり白い目で見られたというか。迷惑で、様子がおかしいですし(笑)」とムチャをした当時を振り返る。石井は「いまは、ああいうことはできないんですよね。いままで私がやってきたことは、二度とできない」と変わりゆく映画制作の状況を語る。
 本作のプロデューサーは仙頭武則。石井が「監督生活で初めて、“好きなものを撮ってくれ”」と仙頭から言われたという。ただし、10分くらいにしてほしい、と条件を付けられたそうだが、最終的には55分の尺にまで拡張されることになった。
 石井映画と言えば、破壊的な激しいサウンドが特長。ハイスピードなロックサウンドが彩る本作の音楽を手掛けたのは、映画音楽家・小川浩幸と「MACH 1.67」(浅野、石井、小川、そして浅野の兄であるアーティスト・佐藤久順で結成されたグループ)。特に音へのこだわりが強いという本作は仕上げも豪華だった。石井が語りだす。「ハリウッドのヒッチコックスタジオに持っていって、『グリーンマイル』などでアカデミー賞を獲ったチームに、音のマスタリングを限界までやっていただいた。彼らはひと言、“狂っている”と(笑)」とハリウッドの熟練したサウンドチームも驚いていたことを明かした。
 本作は白黒の35ミリで撮影された(撮影:笠松則通)。同じ笠松撮影で、浅野忠信も出演している、1997年公開の白黒映画『ユメノ銀河』は16ミリだが、本当はこれも35ミリで撮りたかったそうだ。
 白黒撮影について、石井は「カラーフィルムだと退色して、正しい色が再現されなくなる。当時、そのことが問題になっていて、そういうこともあり、白黒で撮りたかった」とコメントしたが、白黒の効果は他にもあった。「鋼鉄の感じ。メタル感。無限性というか、現実を越えて、ひとつのフィルターがかかった、映画ならではの独自な、夢見るようなすごく別次元の世界」と白黒によって、別世界を表出することができたことを語った。また、2000年公開の『五条霊戦記 GOJOE』(撮影は『ERECTORIC DRAGON~』のあと)でも白黒撮影を希望していたが、仙頭から却下されたという。
 自身が出演した白黒映画について問われた永瀬は林海象の私立探偵・濱マイクシリーズの一作目『我が人生最悪の時』をあげる。「(林監督は)映画の歴史を追いたいと仰って。モノクロからパートカラー、そしてカラーへ」と濱マイク三部作の色の変遷について言及。
 石井が白黒撮影の難しさを語る。「いまはデジタルだからそんなに難しくないんですけど、フィルムは感度が低い。きちんとライティングをしないと映らない。白と黒だけで映像表現するので、カメラマンと照明マンの腕が試される」とシビアな状況だったことを明かす。
 永瀬が石井映画の現場について、「浅野ともしゃべるんですけど、石井監督の現場は120%ではダメで。200%以上を出さないと、監督の思いに追いつかない」と石井組の現場では気合が入ると述べた。それには浅野も同調し、「すごく覚えてるのは、皆で叫ぶ音を録りたいとなったときに、ワーワーと叫んでたら、“違うんだよね”と監督が来て、すごい声で叫んだんですよ。それを見たときに、そうか!と。僕らは中途半端な叫びをやってたので、内面的な何かを常に出していかないと、この監督には通用しないと思った」とエピソードを披露した。
 浅野は石井と一緒にバンドをやっていたこともあり、「現場で演出を受けただけの俳優が知らないことを、僕はいろいろバンドのときに吸収させてもらった」と話す。「『パンク侍、斬られて候』のときもそうですけど、僕と監督の間で通じ合っているものが何かあると思っていて。だから、芝居をやっていても見えないコミュニケーションが取れてるなというのがあったんですけど、他の俳優さんたちがたまに面食らってるなという顔をしてるときがあって(笑) ヤバい、これは『ERECTORIC DRAGON~』になってる(笑)」と観客を笑わせつつ、石井と自身の特別な関係を嬉しそうに話した。
 最後に石井は「どんなに緻密に組み上げたとしても、ライブ感ってことをとても大事にしたい。永瀬さんも、浅野さんも、スピリットと言ったらいいのか、映画を本気で愛してると言ったらいいのか、本物の演技を追及してる。そういうところに共振する。自分では勝手にファミリーと思ってます。まだまだやり尽くしてないことがあって、ぜひまた掘り下げていけたら」と永瀬、浅野とのコンビネーションによる新たな映画づくりを願っていた。【本文敬称略】

『自分革命映画闘争』は2023年3月18日(土)日より兵庫・元町映画館、3月25日(土)より東京・ユーロスペースで公開中。
 永瀬正敏は、『雑魚どもよ、大志を抱け!』(足立紳監督)が3月24日(金)より公開中。『GOLDFISH』(藤沼伸一監督)が3月31日(金)より全国順次公開。
 浅野忠信は、自身が率いるバンド「SODA!」が神奈川・F.A.D YOKOHAMAで4月30日(日)にライブ出演。
(取材・文:後藤健児)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?