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きれいな涙と初恋と。

なぜか突然に、ある女優さんに一目ぼれしたことがある。何かのドラマだったか、ちょっと寂しげな物憂げな瞳で、でも、海辺で走りまわる彼女がいたりして・・・。

今まで、彼女に対して、そんな気持ちは、まったくと言っていいほど、なかったのに、彼女がそれほど魅力的になったのか?それとも、私の女性を見る目がレベルアップしたのか?(なんだそれは?)

まぁ、どちらにしても、今まで気にもしていなかった存在が、急に気になるなんて・・・あぁ、なんだかこれは、まるで初恋みたい。

そういえば・・・
私のオリジナルの初恋もそうだった。

中学1年生の時だったか、今も忘れられない出来事があった。そのとき、クラスでちょっとした事件があって、疑われたある生徒が、ひどく先生に叱られていて、本当はその叱られている子は悪くなくて、教室にいる僕達はみんなそれを知っていて、でも、誰も何も言えなくて、だから、先生は何も知らないままに、ずっとその子を叱り続けていて・・・。

みんながしょんぼりとした気持ちの中、誰もが黙ってうつむいていたら、ある女の子が、とても静かに泣き始めたのだ。

・・・自分のことじゃないのに、叱られてる子の友達でもないのに、その女の子は、その哀しみを、まるで自分のことのように受け止めて一生懸命に、声を殺して泣いていたのだった。

みんながそんな彼女のことを、”変なヤツ”と後で笑っていたけれど、そのとき僕は、すでに恋に落ちていた。そんな自分にビックリした。それまでは、まったく気にもしていなかったのに、彼女以外、何も見えなくなっていたのだった。

本当にあれは不思議な感覚だった。その理由が、自分の中のどこを探して見つからない。なんだ?これは一体?という感じ。

で、結局は、彼女とはいろんなことがあったけど、結果的には、気持ちを伝え合うこともなく、お互いの片想い(どう表現していいのかわからない?)で終わった変な初恋だった。

今、思えば、なんであのとき・・・と言うような、ありがちな後悔は、どうしてもあるけれど、それでよかったと思える自分がとても誇らしく思える。

あれから長い時が流れた。

彼女はとっくに忘れているだろう。自分があのとき泣いたことを、そして、それを見て恋した男の子がいたことも。ましてや、こうして思い出として懐かしむ人がいるなんてことも。

私もいつか忘れるのかもしれない。けれども、あの頃が輝いて見えるのは、人はいつしか忘れることを、心はすでに気づいているから・・・なんて、そんなふうに思う私がいる。

どこかの街で、きっと誰かと生きている彼女は、きっと幸せだと思う。何の理由もなくそう思う私を、とても不思議に思う。ただ、それでも、私はそれが、うれしくてたまらない。

今も彼女のきれいな涙は、13才のまま、私の中で時を止めたままだ。

最後まで読んで下さってありがとうございます。大切なあなたの時間を使って共有できたこのひとときを、心から感謝いたします。 青木詠一