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あの頃の夕暮れの中で。

どうでもいいことをふと、思い出すことがある。

あれは、なぜだったんだろう・・・とほんの少したそがれるような。

幼い頃・・・中学生になる前くらいだったか・・・私は家でトイレに行くとき「トイレに行く」といちいち親に言ってた気がする。(そのときの私は、たぶん無表情で不機嫌だったと思う。)

そのたびに、親はちょっと困った顔して「そんなこと、いちいち言わなくていい」と私に言ってたような気がする。

私はトイレの小さな窓から、夕暮れを眺めていて、心はとても哀しかったのを、なんとなく覚えている。それはたぶん、一ヶ月くらいの短い間だったと思うけど、どうしてそんなことをしたんだろうか?そんなことを、しばらくの間、考えていた。

今となってはわからない。わからないけど、思うにたぶん、親に叱られて・・・「何かあったらちゃんと話しなさい!」とか、そんなことを言われて、その小さな反抗からそんなことをしたのだと思う。

あぁ、そうだ。たぶんそうだ。あぁ、そうか、そうでしたかと、心がすとんと落ち着いた感じ。今もそんな似た態度をとってしまうことがある。誰かに言われて、それになんとなく傷ついて、なんだかどうでもいいような気持ちになって、投げやりな態度をとってしまう。

あの頃のあの性格は、今もあんまり変わっていない。

本当は哀しかったんだ、あの頃のこの私は。「ねぇ、つまらないことで、くよくよしないで。さぁ、ほら、大丈夫だよ」って、幼い頃の私の頭をなでなでしてあげたい気分だ。

かろうじて、ふと思い出すこんな記憶も日々のあふれた出来事の中で、やがてかき消されるんだろう。どれだけの想い出をなくしていって、どうでもいい記憶を私は、どれほど溜め込んできてるんだろう。

大人になると仕事のせいか、効率ばかりを求めすぎて、心の内を求めるような、あやふやな気持ちはどっかに追いやってしまう。大切なものは、たぶん、こんな忙しさの中では、簡単に上書きされてしまうんだろう。

それはなんて、切ないことか。こんなどうでもいい記憶でも、私はちょっと大切にしていたい。あの頃の気持ちはたぶん、こんな私にしてみれば「なくしたくないもの」だもの。

でも、それでも、いつか忘れたことさえも、忘れてしまうんだろう。
いつか、私は日々の中で。

あの思い出を思い出したとき
目の前には夕暮れが広がっていた。
なんでもない、いつもの夕日。

でも、隅っこに眠っていた
記憶が私に別れを告げる。

思い出して、と微笑みながら
あの頃の夕暮れの中で。

最後まで読んで下さってありがとうございます。大切なあなたの時間を使って共有できたこのひとときを、心から感謝いたします。 青木詠一