「ご〇んがススムくん」になった私。

私は昔、「ご〇んがススムくん」になったことがある。

なんのことだ?と思った人は正しいと思う。もしかしたら若い人は、ごはん・・いや、ススムくんが誰なのか?いや、何なのかさえわからないのかもしれない。

ススムくんはある食品メーカーのキャラクターだ。
(ヘッダーの画像は別キャラです。念のため)

1998年頃からその商品のキャラクターとして発売され、結構、奇抜なCMでわりと世間を賑わした(CMの中で突然、ススムくんが怒ってキレたりしていた。こんなCM、今じゃちょっとないだろうな)

昔、私が食品スーパーに勤め始めた頃。店で何かイベントをすることになった。店長から私が企画を考えるように言われてしまい、どうしようかと悩んでいたところ、某取引先の担当のMさんからこんな提案をされたのだ。

「青木さん、ご〇はんがススムくんになりませんか?」と。

その質問の投げ方に、最初は何の疑問も持たなかったのだけど、その内容を聞くと、メーカーのキャンペーンとして、ススムくんの着ぐるみを着て、店内を歩いて、商品アピールをするというものだった。

「お!それいいですね!今、ススムくんはとても人気だし、ぜひやりましょう!」と私はその提案に乗った。

そして、その当日がやって来た。売場も大々的に作った。これで準備は万全だ。取引先のMさんも満足顔で「いい売場が出来ましたね!これなら絶対に売れますよ!キャンペーンも大成功になりますよ!」とおっしゃってくれた。

「そうですよね!これで人気者のススムくんがいれば完璧ですね!それで、着ぐるみは誰が着るんですか?」と私は周りを見渡したけど誰もいない。

すると取引先のMさんは不思議そうな顔をして私に言った。

「何言ってるんですか?私の目の前にいますよ」

「え!?」

「あなたが着るんですよ、青木さん」

そう言って「がはは」と大きく笑っていた。
(私よりも年上だけど、冗談を言い合う仲だ。)

「またまた、そんなことあるわけないじゃないですか?そんな冗談、シャレになんないですよ!がはは・・・」と私も大きく笑ったけど、その約1時間後には、私はススムくんの着ぐるみを着て、売場にぽつんと一人立っていたのだった。

「だから言ったじゃないですか?ススムくんになりませんか?って。それじゃ、私は次の仕事がありますので、青木さん、がんばってくださいね!がははははは!」と、いつもより”は”を多くしつつ笑いながらも、とっととどこかへ行ってしまった。そんな光景を、私はひとり思い出していた。(くれぐれも、これは昔のことなので。今はそんな無茶はないと思うけど。)

あのかわいいキャラクターの中に、人はいないと信じている人には申し訳ないけど、結構使い込まれた着ぐるみの中は、それなりにくさいし、蒸れるし、湿気は多いし、無茶苦茶暑い。それに視界もすごく悪い。

私はパートさんの手にひかれながら、店内を歩いた。たちまち売場にいた子供たちが、私に、いや、ススムくんに寄って来た。

「あ、ススムくんだー」そう言って、笑いながら指をさしている。私は手を振りながら、子供たちの頭をなでなでする。女の子なんかは恥ずかしそうに握手をしてくれるけど、男の子はそうはいかない。

とにかく彼らは叩くのだ。

なんの恨みがあるんだと、小一時間説教をしたいほどに、モーレツに顔を叩くのだ。もちろん、着ぐるみの中の私はたいして痛くはないのだけど、これはメーカーの借りものだ。壊すわけにもいかないので、私は必死に男の子の頭を手で軽く押さえて、手が届かないようにする。ススムくんが、こんなにも大変だとは思わなかった。

しばらくすると目の前に、女子高生たち集まってきた。「あ、ススムくん!かわいいー!」と黄色い声で駆け寄って来た。

今思えば、それはとても不思議な光景だった。

当時、私は、まだ若かったけど、彼女たちからすれば、立派なおじさんだ。現実では、私が女子高生たちに抱きつかれるなんてことは、絶対にありえない。そのありえないが現実に起こっていることに、そのときはじめて、私はススムくんと一体化したような気持ちになった。(もちろん、私からは抱きつかなかったけど。というか、私にはできない。)

あぁ、そうか。コスプレとかする人たちが、あんなに一生懸命なのは、こうして新しい自分になれるからなんだろうなぁなんて、その気持ちが、ほんの少しわかるような気がした。

私は照れながらも、女子高生に手を振り、そして彼女たちは私に、いや、ススムくん、いや、私に抱きついてきた。(今だけ勘違いさせてほしい)

そんな中、意外なことが起きてしまった。ススムくんの顔には外を見るための小さな穴があるのだけど、抱きついた女子高生たちのうちの一人が、なんと、私と目が合ったのだ。

「あれー?もしかして、ススムくん、照れてるのぉー?」

私の顔が部分的に見えたらしく、それが余計に可愛く思えたのか、キャッキャと笑って、何人もの女子高生たちが、私に集まって抱きついてきた。若い男の子とでも思ったのだろうか?おかげで私にとって、顔を真っ赤にするような、ちょっぴり懐かしい青春を味わうことが出来たのだった。

そんなこんなで、私のちょっと照れてるかわいいススムくん効果(?)で、メーカーの商品がよく売れて、そのイベントは大成功で終わったのだった。

いろんな意味で本当にいい経験になったなぁと思う。そういえば、ススムくんはどうなったんだろう?

そう思ってネットで調べてみると、2005年ごろまでキャラクターとして商品も売られていたらしいけど、今はもうないとのこと。(別メーカーで同じ名称のキャラクターがいるらしいけど)

少し寂しいけれど、私の大切な想い出のひとつだ。彼に心から感謝したい。本当にありがとう。

そして、お疲れさま、ススムくん。
あの日は決して忘れないよ。

最後まで読んで下さってありがとうございます。大切なあなたの時間を使って共有できたこのひとときを、心から感謝いたします。 青木詠一