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ゆーくんと青いボール。

昔のこと、ゆーくん(当時5才の息子)が、とてもお気に入りの青いボールがあって、ある日のこと、そのボールが木の枝に引っ掛かってしまったことがあった。(どうもサッカーをしていたようだ。)

それでゆーくんが、うちの奥さんに泣きながら”ボールが取れなくなったー”って訴えていたとのことで、仕方なく彼女が木に登って、とても苦労をしてボールを取ってあげたことがあった。(どうやって木に登ったのかは個人的にとても不思議に思ったけど。)

うちのゆーくんは、幼稚園では私の子供にしては意外(?)というか、かなり人気者なのだった。女の子たちからはお昼になると「ゆーくん、わたしと一緒に食べましょ」なんてあちこちから誘われていたようだ。でも、家にいるときは本当に泣き虫な幼稚園児になるんだよね。なんだかそのギャップの大きさがとても可笑しく思った。

幼稚園の顔。そして家の顔。そんなふうにちゃんと使い分けているみたいで…。なんだか要領のいい大人みたい。この頃の幼稚園児って、みんなそうなのかなぁなんて。

ある日の参観日のこと、うちの奥さんがこんなことを話していた。その日もゆーくんは、お昼のお誘いが女の子達からあったらしい。でも、ゆーくんは、女の子達の猛烈なラブコールもお構いなしに、ミキちゃんというとてもおとなしい女の子の隣にチョコンと座ったのだそうだ。

ミキちゃんは、とてもビックリしていたそうだけど、ゆーくんと楽しくお昼ご飯を食べたとのこと。ミキちゃんは、おとなしい性格のためか、いつも一人ぼっちでいるのだそうだ。ゆーくんのその行動を見たうちの奥さんは、あぁ、ゆーくんってなんて優しい子なんだろう!と一人で勝手に親バカぶりを発揮したそうだ。

あとでゆーくんそのことを聞いたら「だって、ミキちゃんの隣のイスが空いていたから」って言ったそうで。な、なんてクールなんだ。

・・・・・・・
実は、奥さんがボールを取ってあげたことには続きがある。その日の夜、ゆーくんが、ひとりで一生懸命に何かをしていたとのこと。彼女がそれに気付いて見に行くと、なんと、ゆーくんがひとりで、みんなのお布団をひいて、寝床を作ってくれていたらしい。

布団って結構重たいものだ。ゆーくんの小さい体では本当に大変だったと思う。で、それを見た彼女はとてもビックリして「どうしたの?ゆーくん?お布団はお母さんがするからいいよ」と言ったら、ゆーくんはとても照れくさそうに「だって、今日、お母さんがボクのボールを一生懸命に取ってくれたからだよ。サンタさんは、よい子にプレゼントするよね。だからこれはボクからのプレゼントなんだよ」と答えたとのこと。

「あぁ、ゆーくん、ありがとう!お母さんうれしい!」

うちの奥さんは、もう、こんなゆーくんのことが、かわいくてかわいくて、思いっきりギュっと抱きしめたのだそうだ。こんなところが、ゆーくんが女の子にもてる理由なのかなぁなんてね。天使の顔して眠っているゆーくんを見ながら私はそう思ったものだ。

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”だって、ミキちゃんの隣のイスが空いていたから。”

あのセリフも、本当はミキちゃんが、ひとりで寂しそうだったからじゃないのかなぁと私は思った。それがゆーくんなりの本当の隠れた優しさなのだろうなぁ・・・なんて

いかんいかん、私もつい、親バカぶりを発揮してしまったようだ。

でも、そうやって夫婦は子供に教えられるのだろうな。

愛しいって、何だろうなって。

最後まで読んで下さってありがとうございます。大切なあなたの時間を使って共有できたこのひとときを、心から感謝いたします。 青木詠一