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僕の小さな妖精たち。

今朝の僕はついていない。
電車の発車時刻を10分も間違えてしまった。

こんなに急いでいる時に限って
ここでぼんやり待つしかないなんて。

悲しいほどに空は青く、
切ないくらいに静かな朝。

仕方ない。

こんな時はいつものように
僕だけのこの空想の中へ
しばし心を泳がせてみる。

少しだけ疲れたこの心を
海に揺らすようなそんな気持ちで。

あくびが出るような退屈な時間。

僕の中で生まれた妖精たちは
こんな人の気も知らないで
線路の上を、追いかけっこするみたいに
楽しそうに遊んでいる。

「あぶないよ」と言いかけたけど
きっと彼女たちには聞こえない。

突然、思いついたように、
ひとりの小さな妖精が
僕の肩に止まりながら、息を弾ませ、
こう言ったんだ。

”この錆びた2本の線路の向こうには
あなたみたいに、何かを待っている人達が
たくさんいるのね。ねぇ、それってとても
不思議なことね”

とても小さな笑い声。
羽根が頬にくすぐったい。

妖精たちは、時々そんな不思議なことを
この僕に教えてくれる。

この先に続く果てしない向こう側。
みんな何を待っているのだろう。

そして僕は、何を待ちつづけるのだろう。


電車はまだ、やって来ない。

最後まで読んで下さってありがとうございます。大切なあなたの時間を使って共有できたこのひとときを、心から感謝いたします。 青木詠一