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頼んだぞ、沢村。 #2

では、みなさん。教室に残ったのは12名といったところ
でしょうか。男子は、沢村、朝長、松尾、成沢、荒柳、の
5名。女子は、皆川、高松、大久保、佐々木、日村、ブレ
ナン、の6名。

黒板には音もなく再び文字が羅列され始める。

私はそれを見ている。教室に残った、人数が三分の一以下になってしまった同胞たちとともに。

「朝長くん、やっぱり、これは……現実?」

朝長くんは歯をくいしばる。

「わからない……。ただ言えることは、俺たちはこの黒板に出てくる文字に従うのが、今は懸命らしいってことくらいだ」

「心配するな、バスケットボール」

沢村くんがこちらに近寄ってきた。

「お前たちは何も怯えなくていいぞ。俺がいるんだ。どうやら出題者は問題に正解しさせすれば、俺たちに危害を加えないように見える」

沢村くんは悪魔的な笑みを浮かべて私たちを見た。大人しく従え、というか、お前らの命は俺次第だ、とでも言うように。

「まぁ見とけよ。ここからは俺の舞台だ」


こうして、沢村くんの3年4組での逆襲が始まったのだった。


では、ルール説明を始めます。
1.出題は15分おき、30分を1セットで行います。
先程の3問の出題はチュートリアル的なものです。人数を少し
減らしておく目的もありました。
したがって次からは30分続けざまに出題があり、その後同じ
時間だけ休憩が与えられます。その間、教室の扉は開きます。
ただしくれぐれも、時間は厳守するように。

私はめまいがした。あの悲劇が……、また?

「なるほどチュートリアルか……。なめやがって!」

朝長くんが机を拳で叩いた。目には怒りの感情が浮き出ている。私は彼の手を握った。

「ねぇ大丈夫。きっと。犯人は必ず捕まるから」

犯人? 言った自分自身に私は疑問符を抱いた。これは、本当に人知の範囲内で行われているのかな……?

「ああ……、そうだといいが、人が死んだって言うのに……くっ」

朝長くんは床に座り込んだ。私も彼の隣に座る。

「とにかく、いまは沢村くんを信じよう。私たちは、それしかできない……」

2.問題に回答すると、時間ちょうどにその正誤が判定され、
正解だった場合は教室内の全員が生き残ります。誤答の場合
は回答者が死にます。
教室の人数がゼロになった、そのクラスは敗北です。
これは勝ち残り戦です。
現在のトップは3年1組で22名、5位、すなわち最下位は
3年4組で12名
です。

「い、いやーー!」

窓際で、へたり込んでいる大久保さんが急に大きな声で叫んだ。

「麻里、大丈夫よ、ほら、こっち見て。あなたは生きてる。心配したって仕方がないでしょ?」

高松さんが彼女の肩を揺すって励ましている。大久保さんの目はどこか虚ろだ

3.問題の難易度は次第に上がります。
最後まで生存者がいたクラスが優勝です。

私は朝長くんを見た。彼は唇を噛み締めている。こんなゲームのようなことで人の命が失われることに耐えられないということ?

私は、沢村くんを見た。彼は不気味とも言えるような面持ちで笑っている。野田くんは死んだ。沢村くんにとっては、これは正しい制裁だったのだろうか。

では、出題を9:00ちょうどに開始します。
今しばらくお待ちください。

私は息を飲んだ。また始まる……!

心臓が強く拍動している。この音は体の外側を通って耳にまで届いている。どくんどくん。

ふと、右手に強い感触。朝長くん?

彼は私の手を強く握っている。脈が早いのは、もしかしてこのせいなのかな……。

彼でも、バスケ部の主将で毎年全国に出ている朝長くんでも、いまは怖いのかな。

私は、彼の手を握り返した。

心なしか、ほっぺたが熱くなった。

二等辺三角形の二つの辺の長さが等しいことを証明しなさい。

「ふっ……はははは!」

沢村くんは迷いなくチョークを手に取った。



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