衰退企業に共通する「ファクト」の軽視 ー『衰退の法則』を読んで
昨年読んだ本の中ではぶっちぎりで面白い本だった。学術書ではあるが随所に示唆に富んだコラムが差し込まれとても読みやすい。
本書は元産業再生機構のメンバーとして数々の企業の再建に関わってきた著者の優良企業と低迷企業に対する知見を基にした学術研究を基に書かれている。
本書を要約すれば、古くからの日本企業には自走する厄介なサイレントキラーが潜んでおり、それは有事に牙をむき、一度走ると止めることは容易ではない、ということ。その一方で、優良と言われる企業においては、そうした性質を有しながらも、ファクトベースの規範と人事部局の統制に基づく公正な人事プロセスにより、サイレントキラーを食い止めることができている、ということらしい。
ファクトベースに関しては、例えば某化粧品メーカーの意思決定の場が典型的なダメな例として紹介されていた。該社で今季のトレンドカラーを決める会議を実施した際、データに基づく報告が、とある在籍の長い役員の「うちの妻が何々色が流行ると言っていたが・・・」といった与太話に覆されてしまったといった笑える笑えない話が紹介されていた。
これは極端な例だが、古典的な日系企業に勤めたことがある方であれば、似たような経験を思い当たる方も多いのではないか。
組織風土・カルチャーの問題というのは、往々にして内部にいる誰もがなんとなくおかしいと思いながら、しかし顕在化している問題が多すぎるゆえに全体像がとらえきれていない状況となっている。本書はそれを4つの簡潔な枠組み「トップの意思決定」・「ミドルの社内調整」・「人事プロセス」・「経営層のリテラシー」でとらえ、且つ、それを抑制するための仕掛けの可能性まで示唆してくれている。
しかも、従来この組織風土、いわゆるカルチャーの領域の分析の多くは、著者の主観に基づく仮説の域を出なかったのが、学術的な定量アプローチから解き明かしている点に決定的な重要性がある。
▼以下興味深かった箇所のメモ
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