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ARが都市活動や建築ファサードに与える影響とは

 ARデバイスはある意味、現実空間と仮想空間を接続する境界といえる。従来の仮想空間は、インターネットに接続されたデバイス(PCやスマートフォンなど)の中だけに存在し、人間がいる現実空間とは明確に区別されてきた。しかし、ARデバイスは現実空間の景色に、仮想空間の情報を重畳することを可能にする。このAR技術そしてデバイスは、建築・都市計画に対して根本から影響を与えるようになると考えられる。 

1.ARが変える都市計画の前提

 たとえば今までは、街路に面する建築物のファサードやその配置は、現実空間における人間の視野を重視して設計されてきた。商業施設や公共施設等の建築物は、自らが何のための空間なのかが街路から見て分かるようにその正面部分を設計され、また正面部分が人々にとって見えやすいように、建築物を配置することが求められていた。 そのような建物は、正面に看板や開口部が設けられて内部空間の様子を把握できるようになっており、なるべく多くの人々が通る街路に面するように建てられてきた。 

 しかしARデバイスによって今後、こうした建築・都市計画の前提は変化し得ると考えられる。たとえ建物の正面に看板や窓がなかろうと、ARデバイスを通して見ればその建物に関するメッセージが表示されて、内部空間に関する情報を得られるシステムが登場するかもしれない。また、ある建物が街路から死角になるような位置に建っていたとしても、その建物が位置する方向にARデバイスを向ければ建物に関するメッセージが表示されて、その存在を知ることができるようになることも想定できる。このようにARデバイスは、本来人間が持つ視野を大幅に拡張するため、建築・都市計画における設計の選択肢も拡張していくと考えられる。

2.具体的にどう変わるか

 では具体的に、ARによって建築・都市計画はどのように変化するのだろうか。たとえば前項の内容を踏まえると、建物は開口部を設けて外から中の様子が分かるようにする必要がなくなるかもしれない。さらに、大通りのような人目につく場所に優先的に建てる必要性も減るだろう。

 一方、建物の情報を可視化するARアプリケーションが開発されたとする。ARグラスやスマートフォン等のデバイスを通して、建物の位置や内部の様子を把握するためのツールとして人々に利用してもらう。このとき、情報の多さと視界の安全性がトレードオフの関係にあることに注意しなければならない。表示される情報の項目が多いほど、建物の位置や内部の様子は把握しやすくなるが、代わりに現実空間における視界が狭まり安全性が危ぶまれ、移動がしづらくなると考えられる。

 すると、ARで伝達される情報量は制限される必要がある。そこでやはり、現実の建物のファサードには建物の情報の一部を伝達することで、ARアプリケーションが表示すべき情報を肩代わりすることが求められる。ただここで問題になるのが、ファサードが伝達すべき情報の種類である。たとえば、街道沿いの建物でカフェが営業されている場合、その建物の中がカフェであることやカフェのジャンル、さらにカフェの開店状況や混み具合が伝達すべき情報だとする。このとき前者二つの情報を、現実の建物の看板やファサードの形状によって伝達することで、ARアプリケーションが表示すべき情報は後者二つに削減できる。代わりに、現実で外から建物内を覗き込めるようにして後者二つの情報を伝達する必要がなくなるため、(前述したように)建物のファサードに開口部を設ける必要がなくなるかもしれない。このようにファサードは情報伝達装置としての性格を強め、その情報も取捨選択するようになるだろう。反対に、建物を装飾する役割は弱まっていくかもしれない(極論、ARで装飾すれば済むことになる)。

3.まとめ

 従来の建物のファサードも、街路を行き交う人々に対して一定の情報を伝達する存在だったが、AR技術が普及した近未来では伝達される情報の質が変化していくだろう。またファサードが並ぶ街路における、人々の活動形態も変わり得ると考えられる。 ファサードの形態などが変化することで、ファサードを介した街路と建物の関係が変わり、街路から建物に出入りする人々の振る舞いも変化していくかもしれない。

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