海外ボードゲームに関する同人活動あれこれ

最近同人活動や二次創作に関する話題をいくつか見かけたので、海外ボードゲームに関して同人的な活動をする際に気をつけるべきこと(というよりもむしろ個人的に気をつけていること)をいくつか書いておく。特に“海外”・“ボードゲーム”に限らない部分もあると思うが、私自身の経験がある分野に絞って書いている。もっとも私は法律の専門家ではないので、内容の詳細については保証しかねるので悪しからずご了承いただきたい。

最も大きな問題は著作権周りになるが、国によって異なる上に著作権自体が法律と実態に乖離があるので何が正しいかはよくわからない。というか結局のところ裁判をしないと確定しない上に、裁判の結果も現状はこの程度が妥当であろうというレベルではないかと思う(著作権的にはOKだが不正競争防止法には引っかかる、ということも普通にあるのではないか)。そもそも著作権は(日本においては基本的に)親告罪なので問題になる可能性は低いし、別に迷惑をかけているわけではない(どころか販促になっているのではないか)という立場もありうるだろう。以下の情報を参考にして(必要であれば裏を取って)どうするべきかを考えていただきたい。

ルールシステムは著作権で守られない:よく言われることだが、ゲームシステム自体はアイデアであって創作物ではないため、基本的に著作権の対象にはならない。これは日本でも海外でも基本的には同じである。
ルールの文面自体は著作権で守られる(可能性が高い):一方でルールブックの文面自体は著作権の対象として保護される可能性が高い。説明書などの機能的な文書は著作権の保護対象とならない(必要な情報を伝えるための文章は誰が書いても似たようなものになるだろうから)、という話も聞くが、実際には取扱説明書に著作権が認められるケースもあるし、ゲーマー諸氏なら御存知の通り、ゲームのルールブックでもよく書けているものといまいちなものでは理解のしやすさ・遊びやすさには雲泥の差があるものであるからして、誰が書いても似たようになる、などということはない。したがってルールブック自体が著作物として認められる可能性は十分に高いと考える。この場合当然翻訳権も発生するし同一性保持権も問題になりうる。
アートワークやイラストは著作権で守られる:アートワークやイラストは著作権が発生するので勝手に使ってはいけない。出版時の契約によっては、パブリッシャーが再利用を許可することすらできなかったりする。

上記の権利に抵触しない同人活動としては以下のようなものが考えられる(が、当然確約はできないので各自調査検討を。また言うまでもないことだが著作権だけの問題ではないのでコミュニティマナーとしてどうなのか、という問題は常について回る)
ルールサマリー・ルール解説:元のルールブックをそのまま訳すのではなく、自身でまとめ直したルールサマリーやルール解説などは基本的に問題ない。アイコンやイラストの流用は権利に抵触する可能性があるので注意が必要だ。またタイトルその他が商標登録されている場合があるのでこちらも気をつけよう。
ゲーム紹介・内容レビュー・カード解説など:ゲームの内容紹介やカードの分析などがメインであれば、引用の範囲内として著作物の使用が認められる可能性は高い。
私的利用の範囲内:であればかなりのことが許されるわけだが、インターネット時代における私的利用の範囲内ってどこまでなのよ?と言うのは難しい問題で……10人程度までのクローズドゲーム会で配るのは(二次配布がないのであれば)おそらくOK、オープンゲーム会で配るのは駄目だろうけどプレイ後に回収したらまあ許されるのではないか、Google Docに上げて全体公開にするのは駄目だろうけどリンクを友人に送るだけならまあ、実際にゲームを持っている人でないとわからない情報をパスワードにして公開する場合は不正競争防止法やフェアユース的な意味では予防線になるだろうが私的利用という意味では駄目なのでは、くらいの感覚。これは実際に裁判をやらないとわからない(しこの10年でもずいぶん感覚が変わった気がする)。もちろんこれは私的利用の定義だけの問題で、活動の是非とは関係ない。

一方でルールブックやコラムの翻訳(私のメインとなる活動内容)は、基本的には著作権者による許可が必要。以下私の経験からの印象。
6割くらいは問題なくOKしてくれるよ:「(既に公開されているルールブックの)日本語訳をインターネットで公開したいんだけど」とお願いすると大体6割くらいはOKしてくれる。2割はNGが出て(大抵の場合日本のパブリッシャーと交渉中とか日本語版の話が進んでいるから、と言われる)、2割はそもそもレスポンスがない、みたいな感じ。「BGGにあげたいんだけど」とアップ場所を限定すると話が進みやすい。時々「BGGにあげるならいいよ(他にはあげるな)」という条件がついたりする。
ちなみに日本語版の話が進んでいるから、と言われた場合は大抵本当に日本語版が出るのだが、稀にまったく出ないことがあって、単に交渉が決裂した残念なケースなのか、体よく断られただけなのかはよくわからない。
更にいうと「6割OK」というのはインディーズパブリッシャーが相手の場合で、大手パブリッシャーが相手だと格段に率は悪くなる印象。そもそも最近は大手パブリッシャーのゲームはかなりの割合で日本語版が出るので個人の趣味的活動が入り込む余地はないような気もする。
ブログやBGGの記事の和訳なら大抵OK:最近あまりやってないけれど個人の記事ならOKしてくれることがほとんど(というか多分断られたことがない)。元記事へのリンクを張れとか、そういう常識的なことは言われるけれど。大手メディアに載っている記事とかだとまた面倒そうではある(のでやったことがない)。大手メディアの記事の場合は一般向けにこなれた英語で書いてあることが多いしDeepLあたりでもそこそこ読めるんじゃないだろうか。
有償配布は難しい:ルール和訳を販売したいとか言い始めるといきなり面倒なことになる。別途契約が必要になるのでハードルは高くなりそう。一方で和訳をこちらからパブリッシャーに提供/BGGにアップした結果として謝礼を頂けることも偶にある(主に現物支給)。ありがとうございます。もちろん先方から依頼を受けて仕事として和訳を制作する場合もあってこれはまた別の話。国内のディストリビューターやローカライザーから依頼される場合も当然違う話で、この場合権利関係は既に話がついているはず。多分。あんまり詳しく聞いていないのでどういう契約をしているのかよく知りません。お仕事ご依頼お待ちしております(専業翻訳者ではないですけど)。
投げ銭をもらうのはOK:国内でも投げ銭が一般的になりつつあるように思うが、有償配布は駄目だけど、投げ銭を受け取るのは特に問題ない(という文化が英語圏では成立しているようだ)。販売ではなくとも「お金を払った人だけが見られる」方式にすると(PatreonとかFanboxの限定公開も含めて)商業活動として権利者と別途契約が必要になるが、「全体に公開」した上で応援として投げ銭をもらう場合は非商業活動という扱いで良さそう。私がnoteに全文公開した上で記事販売や投げ銭を受け入れしているのはそういう意味です(もともとこうした活動がどのくらいの“利益”になるのかのテストとして始めたんですよね……その後長い間休眠していましたけど)

こうした状況を踏まえて、私個人の活動方針は、というと。
権利者の許可を受けた上で翻訳を公開する:現行の著作権法にはいろいろと不満もあるのだが、それはそれとしてルールを守って活動している方が気分が良い。自分の活動が基本的にパブリッシャーの不利益にならないと感じているのであれば、問い合わせして損することなどないだろう。一昔前ならいざしらず、今時はメールやTwitterで簡単に連絡がとれるのだから(とはいえ外国語で連絡を取る事自体が負担となることは否定できない)。また、例えば私は既存のゲームのテーマとイラストを差し替えただけのコピーゲームに対しては否定的なのだが、法律的に言えば無断翻訳公開はコピーゲームよりも悪いわけで(無断翻訳公開は高確率で著作権法違反、コピーゲームは法律的にはOKになる可能性が高い)、後ろめたさなくコピーゲームを批判するためにも最低限のルールを守っておきたいという気持ちがある。
なるべく他の人の活動と被らないように:これは単純に他の人がやっていることと被っても二度手間になって無駄に思えてしまうからだし、多くの人が興味を持つようなタイトルはちゃんとプロが動かしてお金を回す方が良いと思っているから、でもある。一方で、世の中にはゲームが多すぎて、全てのゲームが日本語化・日本語訳付で販売されるというのは現実的ではない(ビジネスとして成立しないでしょ)側面もあり、そういう中でメジャーにはならないだろうけれど面白い試みをしているゲームを応援したい広めたいと思っているし、それが私にとってのファン活動となっている。そして単純に他の人が知らないようなゲームを見つけ出して紹介することに楽しさを感じている面も否定しない。とはいえ最近はこんなゲームまで?と思うようなゲームが日本語化されたりして、それ自体は大変にありがたいことなんですが、隙間狙いの私としては難しい部分もあったりなかったり。

日本語で入手できるボードゲーム関連情報も充実してきて(というか私自身追い切れていないのだけど)、私がこうやって情報発信する意味も薄れてきた気もするのだけど、意味や意義とは別に趣味として続けていきたい気持ちもあり、少し目先の変わったことをしてみたいな、とおもっております。海外デザイナーに直接インタビューする、なんかも再開したいなー。

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