MilesReimagined表紙半分

【Vol.7】坪口昌恭さんに『Kind of Blue』を分析してもらったこと for 『MILES Reimagined』

『MILES : REIMAGINED 2010年代のマイルス・デイヴィス・ガイド』➡ https://www.shinko-music.co.jp/item/pid1643178/

坪口昌恭さんに会った時の立ち話で、「今度、マイルス・デイビスのガイド本を作るんで何か書いてもらえませんか?」と軽く言ったときに、「面白そうだね、じゃ、エレクトリックだよね?」って言われたときに、僕はやっぱり!(これは裏をかける!)と思って、うれしかったのを覚えている。

東京ザヴィヌルバッハDCPRGなどでキーボードを弾いていて、尚美ではもともとシンセやコンピューターを教える授業の講師(で、今は音楽表現学科 ポップス&ジャズコース准教授)。更には自身の作品でポリリズムを実践していたりする坪口さんに頼むなら誰もが、エレクトリックなサウンドの解析か、リズムの解析か、どちらにしろエレクトリック・マイルスの時代を、と思うだろう。

でも、僕は最初からアコースティック時代と決めていた。

坪口さんが主宰しているレクチャーイベントシリーズ《TZBOLABO》というのがある。僕も去年、ゲスト講師として出演させてもらって、今年もまた出演させてもらうことになっているのだが、これがね、すこぶる面白い。

いろいろ話をして、音源を聴いてから、これはと思う曲のところで坪口さんがピアノを弾いたり、正面にあるホワイトボードに音符を書き込んだりしながら、進めていく。と聞くと、音楽理論がわかっていないと辛そうだが、全然そんなことはない。

このTZBOLABOでの坪口さんのアナライズは譜面が全く読めなくても、なんとなくどこが面白いのか、どこがすごいのかがわかるようになっている。例えば、ホセ・ジェイムズがビリー・ホリデイをオマージュしたアルバムでのジェイソン・モランのピアノソロをピアノを弾いて実際に音を聴きながら確認しながら、それを譜面に書き込んでいって、「ここから普通はこの音に行くのが定石なんだけど、ジェイソン・モランはそこで敢えてこっちに行くから、今っぽい響きになるんだよ。気が利いてるんだよ。」みたいなのを一つ一つ比べながら、やっていくので、目と耳で実感できるようになっている。
※ちなみに坪口さんはヘッドセットマイクで喋るんだけど、無駄にボコーダーで声を変えたりする。意外とお茶目な人なんだよね

素朴に「これって、意外とありそうでなかった凄いレクチャーだ」と思って感動したのを覚えている。

その時に、いつか坪口さんに頼んで、自分が監修する本の中で《誌上TZBOLABO》みたいなのをやりたいなと思ってたところで、たまたまマイルス本を作ることになったから、このタイミングしかないなと原稿をお願いしたのでした。

『カインド・オブ・ブルー』は超名盤って言われてるけど、どこがすごいのか、どこが斬新だったのか、あと、実はあの完成度が高いといわれているアルバムの中ではどんなことが起こっていたのか、そういうことを、あのレクチャーの感覚を落とし込んだ感じで書いてもらえたら、専門的な部分と非専門的な部分の境界のような文章が出てきて、すごく意義のあるものが出来るんじゃないかと思った。実際にありそうで、これまでどこにもなかった『カインド・オブ・ブルー』解説が出来上がったと思う。コードがたくさん書いてあって、一見、難しそうだけど、なんとなくこのアルバムのすごさがわかるようになっているのが面白い。これは坪口さんならでは。

後、もう一つは、グラスパー含めて、坪口さんは現行のUSジャズをチェックしていることももちろん大きい。ただ、マイルスを語るってことだけじゃなくて、頭の片隅にでも、今のジャズシーンがどうなっているかをリスナー的な目線で意識していてくれる方に書いてもらわないと意味がないと思っていたから。マイルスとビル・エヴァンスについて書いていても、その中に2010年代のにおいがどんなにわずかでも織り込まれちゃうだろうなと思ったのも頼んだ理由ではある。

例えば、このRM jazz legacyの時のインタビューを見てもわかるけど、とにかく柔軟な方なんですよ。こういう人がガッチガチのモダンジャズを分析するってのがいいんだよな。
《DJ大塚広子×守家巧×坪口昌恭×mabanua―RM jazz legacyが新作で更新するジャズとクラブ・カルチャーの関係性を巡る座談会》

と、いう意味で、今更白状するが、実は少し迷った案がある。ロバート・グラスパーのファンのためにマイルス・クインテット在籍時代のハービー・ハンコックのピアノプレイの分析をしてもらうのはどうかと。グラスパーがいつもハンコックと比較されるし、その比較されるような類似点をマイルスと共演していたころの作品から読み取れたら、今のジャズに関心がある人にとっては興味深いんじゃないかなと。面白そうじゃない?

という感じで、坪口さんにお願いしたことなんてたくさんある。何か、本を作るときにはまた何かお願いしたいなと思っています。

ちなみに今年のTZUBOLABOのフライヤーはこんな感じの確信犯的なやつ(笑。
ラインナップは以下の感じでかなり豪華。僕も最終日に出ますので、興味ある方はよろしくお願いします。

■第1回・7月29日(金) モダンジャズ編(Cパーカー、マイルスD、Bパウエル、Tモンク)----大谷能生(Yoshio Otani)
■第2回・8月26日(金) ベース編(EW&F、ドナルドフェイゲン、スクエアプッシャー、スティーブスワロウ)----角田隆太(Liuta Tsunoda)
■第3回・9月30日(金) 作編曲編(中谷美紀、坂本龍一、ウルトラシリーズ、ジョンレノン)----伊藤ゴロー(Goro Ito)
■第4回・10月28日(金) ポップス編(ビョーク、きゃりぱみゅ、山下達郎、FKA twigs)----小田朋美(Tomomi Oda)
■第5回・11月18日(金) 鍵盤編(ブラッドメルドー、ジョーザビヌル、ハービーハンコック、ジョーサンプル)----桑原あい(Ai Kuwabara)
■第6回・12月23日(金・祝) 今ジャズ〜サウンドクリエイション編(Rグラスパー、ホセジェイムス、デビッドボウイ、フライングロータス)----柳樂光隆(Mitsutaka Nagira)
 □予約、お問い合わせ:荻窪ベルベットサン
  〒167-0051 東京都杉並区荻窪3-47-21 サンライズ ビル1F
  http://www.velvetsun.jp
  ice-nine@hotmail.co.jp


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