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挾間美帆 plus 十 “The Maiden Voyage Suite”を観てきた

挾間美帆 “The Maiden Voyage Suite”を観てきました。

挾間美帆はNYで活動しているジャズ作曲家で、近年僕が最も注目している音楽家の一人です。海外でも高い評価を受けている方です。挾間美帆については以下の2つの記事を参照ください。

挾間美帆 ジャズ・オーケストラの最先端を切り拓く作曲家に柳樂光隆が迫るロング・インタヴュー

➡ 挾間美帆、米・ダウンビート誌「ジャズの未来を担う25人」に選出

USジャズの権威でもある『ダウンビート』でもこれまでの2作は毎回高評価を受けていて、2016年には注目の若手ミュージシャンを紹介する特集でも取り上げられていました。そんな挾間美帆が日本でもライブをやるというので、見に行ってきました。

今回のライブのコンセプトはこんな感じ

今回は、リリースから50周年を迎えたハービー・ハンコックの傑作アルバム『処女航海』を丸ごと編曲した大叙情詩「The Maiden Voyage Suite」を中心に、"海" をテーマに創り上げた壮大なステージを繰り広げる。10人の先鋭プレイヤー達と共に音楽の大海原へと臨む彼女の"初航海" 、その全貌をぜひ共に体感してほしい。
                  Motion Blue yokohamaより引用

つまりハービー・ハンコックの名盤を挾間美帆がビッグバンドにアレンジし直して作った『処女航海組曲』の日本での初演だったんだけど、これがとても素晴らしかった。

ハンコックの名盤のあの幻想的でドリーミーな感じや、アルバム全体に漂う透明感みたいなものに、ビッグバンドでさらに細やかに色彩やダイナミズムを加えていって、楽曲自体が持っている情景をより感じやすくなっていたと思う。それによりあの名盤がもつストーリー性や世界観をわかりやすく見せてくれていたとも思う。オリジナルのハンコックのアルバムが5人による2管のクインテットだったのを、倍の10人のオーケストラで7管を配して演奏することで、管楽器の重なり方のバリエーションで表現できる世界が全く違っていたのを聴いて、改めてビッグバンドにはいろんな可能性があるんだなと思った。

                ※ぜひ、オリジナルも聴いてみてください

ただ、個人的に挾間美帆ぽさを強く感じるのは力強さの部分で、あんなにロマンティックな楽曲をテーマにしても、叙情性みたいなものに流れないのは実に彼女らしいなと思った。とても親しみやすいんだけど、甘くならないビターな魅力みたいなのが全快でした。この組曲はライブでまたやるといいと思う。バンドも慣れてきたら、さらに良くなるだろうし。

しかし、ビッグバンドはダイナミクスや爆発力みたいなものを持ってるから、それでしか表現できない情景もあると思うし、こういう曲では威力増すなと何度も思った。わかりやすいところでは、ドルフィンダンスで2つのサックスが交互に入れ替わりでソロを繰り返すところとかあって、イルカが戯れてる感じがシンプルだけど視覚的だったり、他にも波だったり、風(嵐)だったり、穏やかな時間を感じさせる柔らかくて明るい光だったり、7人の管楽器で作るグラデーションがあれば、いろんなものが描けるんだなと。

そういえば、現代ビッグバンドシーンの最重要人物マリア・シュナイダーは「Sky Blue」とか「Hang Gliding」とかを聴けばわかるように彼女なりのやり方で、音楽によって、鳥や風や空を描いたと思うんだけど、

この「The Maiden Voyage Suite」は挾間美帆が処女航海をテーマに海を描いたものでもあるのかなと、目を瞑って音だけを感じながら思ったりした(ら、サイトに「海をテーマにした叙事詩」って、そのままのことが書いてありましたね。)。ものすごく映像的で情景的でした。ちなみに挾間美帆はこれまでのアルバムでは今のところ「都市」を描いてることが多い印象がある。曲名がトーキョーやシティー、アーバンだったりする。

それで思ったんだけど、挾間美帆とマリア・シュナイダーに決定的な違いがあるとすれば、そういう意味での曲のテーマの選び方というか、書いた曲に付ける曲名の付け方が違う気がしてて。マリアは自然について書きたがるけと、挾間美帆はもっと人工的だったりする。アントニオ・カルロス・ジョビンやミルトン・ナシメントなんかにも顕著だけど、ブラジル含む南米音楽とか、それと通じるパット・メセニー(『"As Falls Wichita, So Falls Wichita Falls 』)なんかもそうだと思うけど、彼らは割と自然を描きたがる傾向があるけど、挾間美帆にはその感じがあまり無いのが面白いなと思う。

なんというか、サウンドスケープとしてのあり方が違う気がするなと。曲作りのやり方もあると思うけど。例えば、スムースであること、ナチュラルであることに固執せずに時にカットアップしてコラージュしたみたいな、切断面を敢えて見せるようなこともしてみせる時もあるような気がするんだけど、そういうところからどこか人工的な面白さが出ているかなと。もしくは自然というよりは、想像上のものだったり、脳内で作り出した架空のものだったり、そういうものを超自然みたいなファンタジックなものを好んでるイメージもある。川ではなくて、「Time River」だったりね。「Urban Legend」「Journey To Journey」の動画はそれぞれジャズには珍しくアニメーションだったりするんだけど、それは彼女の音楽のイメージにぴったりだったと思うし、彼女なりの狙いがあるんだろう。(今度理由を聞いてみたい

そういう意味では、この海をテーマにした処女航海組曲は彼女の中では珍しい自然をテーマにしたものかもしれない。観に行って良かったと思いました。

あと、「自然」みたいなものの捉え方っていうか、距離感みたいなものとして、音楽を考えてみるのも面白いかなと思ったり。そんな音楽の観方に関する新たな発見もありました。

※この動画を偶然見かけたけど、これ僕が知ってるステージ降りた後の挾間さんの印象に近いかも。いい映像作品。


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