MilesReimagined表紙半分

【Vol.6】渡辺貞夫さんにマイルスの話を聞きに行ったこと for『MILES : REIMAGINED』

『MILES : REIMAGINED 2010年代のマイルス・デイヴィス・ガイド』https://www.shinko-music.co.jp/item/pid1643178/

この本を作るときに、最もやりたかったことのひとつは渡辺貞夫さんに話を伺うことだった。実をいうと、この本の企画が始まった時に、これを提案して、OKが出たら、本を作ろうかなくらいの感じだった。このインタビューはそのくらい重要なものだと思っている。


マイルスと同時代を生きたジャズミュージシャンであり、60年代にアメリカ(バークリー音楽院)に留学されていたこともあり、当時、マイルスが急速な進化を始めた時期のジャズシーンの雰囲気を肌で感じていた方にその頃の話を伺いたかったというのが理由の一つだった。

また渡辺貞夫さんは、マイルスへの憧れや尊敬が強すぎず、エレクトリックなサウンドを取り入れたり、ロックの楽曲をカヴァーしたりはしながらも、全く違う方向性で独自の音楽をやりながらも、そのキャリアの様々な点で、マイルスの周辺の人脈と交流したりと、完全に無関係でもない絶妙な距離で活動されていたことも話を伺いたいと思った理由だった。
今回に関しては、敢えて同時代のトランぺッターに話を聞くのは避けたというのもあるし、共演経験があるミュージシャンにも話を聞かなかったというのもある。僕としては、これまでに沢山あるような「尊敬するマイルスのことを熱く語ってもらう」タイプのインタビューよりも、「そのアーティストの話から、マイルスがいた時代が浮かび上がってくる」ような記事が読みたいと思ったからだ。そんな人は渡辺貞夫さんしかいないんじゃないかと思った。

トニー・ウィリアムスウェイン・ショーターとの交流に関する話は是非、多くの若い読者にも読んでもらいたいし、ジャズ激動の時代に渡辺貞夫さんがどんなことを思いながら、自分らしい音楽を作るためにどんな活動をしていたのかの話はすごく刺激的だ。
※もし、『MILES:Reimagined』を見て関心を持った方は是非、渡辺貞夫さん関連の本を読んでみてほしい。オススメは『ぼく自身のためのジャズ』

そして、マイルスがエレクトリックに突入した60年代終わりから70年代半ばまで渡辺貞夫さんとマイルスはCBSソニーのレーベルメイトだったことも僕が関心を持った理由でもある。日本では正にマイルスの国内販売を担当していたスタッフが渡辺貞夫さんのリリースに携わっていた。当時、渡辺貞夫さんがどういう風にシーンを見ていて、何を考えていたかがわかれば、それはマイルス・デイビスを考えるための大きなヒントになるんじゃないかと思ったし、そこから日本のジャズシーンや世界のジャズシーンが見えるんじゃないかと思った。そんな大きな話に繋げられる組み合わせは《渡辺貞夫×マイルス・デイビス》くらいしかないんじゃないかなと。

というのもありつつ、単純に僕が渡辺貞夫さんのファンだったからというのもある。渡辺貞夫さんが日本のジャズ史の中でも最重要人物であることは疑いようがないことだと思う。バークリーに留学して、現地でジャズを学んで、持ち帰ってきたものを惜しみなく後進に伝えようとしていたことも含め、その存在は絶大だ。

そして、60年代には自身のジャズボッサ作品やゲイリー・マクファーランドガボール・サボの作品で奏でてきたクロスオーヴァーなサウンドや、アフリカへの関心から始まった70年代の偉大過ぎるアフリカ×ジャズな作品群は、世界のジャズ史の中でも特筆すべき個性を持っていた。こんな自由なジャズ観を持っていたジャズミュージシャンは世界にもなかなかいない。

ただ、そんな渡辺貞夫さんの作品を聴き継ぐような、次世代に繋げるような動きがジャズ側からあったかというと正直言うと全くなかった。ジャズDJが再評価したという話もあるが、具体的に形になっているようには思えなかった。ジャズ外では『モンド・ミュージック 2』スカイグリフォンといったレーベルのイージーリスニング的なジャズを再評価する動きと共に渡辺貞夫さんの活動を素晴らしい形で同時代にプレゼンテーションしてくれていたのに、だ。

マイルス本で、このインタビューを掲載したのは、ジャズ関係者は、渡辺貞夫というジャズジャイアンツをきちんと紹介してこなかったのではないかという批判も込めて、という意味もある。やっぱり90年代以降はジャズに批評が足りなかったなという気持ちもあり、そろそろみんな渡辺貞夫を聴こうかという思いも込めて。ちなみに僕が最も好きな作品は『パモジャ』です。

さて、そんな渡辺貞夫さんに取材するために僕が作った資料をシェアしておこうと思う。
マイルスが『ネフェルティティ』を作っていたころに『ウィー・ガット・ア・ニュー・バッグ』でインド音楽を取り入れたサイケデリックな作品をリリースしていて、マイルスが『イン・ア・サイレントウェイ』を出したころには『パストラル』でどこかフォーキーな作品を、マイルスが『ブラック・ビューティ-』を出していたころにアフリカ路線の中に高柳昌行のノイジーなギターを加えた『サダオワタナベ』をリリースしていたり、これらをいろいろ想像しながら聴き比べてみると面白いと思う。

右端にはその同年にリリースされた作品を並べておいた。マイルスが『スター・ピープル』を出してた頃にアフリカ・バンバータ『デス・ミックス』を出していたって考えると、復帰後のマイルスへの見方が変わってくるかも。『ドゥー・バップ』ATCQ『ロウ・エンド・セオリー』よりも後にリリースされているのとかね・・・

※取材の資料用にざっくり作ったので間違い等あるかもしれません。ご了承ください。

『MILES : REIMAGINED 2010年代のマイルス・デイヴィス・ガイド』https://www.shinko-music.co.jp/item/pid1643178/

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