21世紀のジャズ・チューバ入門:UKジャズとUS南部の新世代 || インタビュー:東方洸介《Jazz The New Chapter for Web》

「最近チューバをよく見るなぁ」と思ったのはいつのことだったか。

僕はジャズと並行して、ニューオーリンズのブラスバンドをよく聴いていた。現代のニューオーリンズのブラスバンドはヒップホップとも融合したサウンドを奏でるソウル・レべルスリヴァース・ブラス・バンドホット8ブラスバンドが00年代に出てきていて、めちゃくちゃ面白いことになっていたからだ。

その延長と言ってもいいと思うが、生演奏ヒップホップバンドの先駆者ザ・ルーツは自身のバンドにスーザフォンを入れてしまっただけでなく、こんなライブをやってたり。

なので、そういう流れで聴けるサウンドを現代のジャズの中でも探していた。そうしたら、ぽつぽつと見つかるようになり、いつの間にかチューバ奏者が目につくようになっていた。それまでチューバ奏者はジャズの中でもいるにはいたが、希少で滅多に見ることがなかった。むしろバルカンブラスとかで聴く楽器という印象だった。

ひとつはアメリカのルイジアナ出身のピアニストのジョン・バティステのバンドのステイ・ヒューマンを聴いたとき。ニューオーリンズのジャズとR&Bやソウルを混ぜたこのバンドではチューバ奏者が演奏していた。

このサウンドの中にチューバ奏者Ibanda Ruhumbikaがいる姿には新しさを感じたのを覚えている。

そして、UKから新しいジャズミュージシャンが出始めているのを感じていた時に、シャバカ・ハッチングスというサックス奏者がやっているサンズ・オブ・ケメットというバンドが気になり始めた。ここでもチューバ奏者が演奏していた。

このチューバ奏者はテオン・クロス。めちゃくちゃ早いリズムの中でもチューバでベースラインを吹き切っているし、現代のヒップホップやクラブミュージックのセンスも持ち合わせているように見えた。

そんなところからぼんやりと気になっていたところで僕はこういったチューバが入ったジャズをニューオーリンズのブラスバンドやアフロビート、ラテンジャズなどと並べて、DJの時によくかけていた。これが僕のDJの定番になった。

ある時に、渋谷のTangleというバーでDJがかけた曲に合わせて、2人のサックス奏者が自由に演奏するというイベントがあって、そこにDJとして参加したことがあった。その時にサックス奏者の村上大輔さんが連れてきたのが、チューバ奏者の東方洸介くんで、彼はチューバを持ってきてそこで流れていた曲のベースラインにチューバのラインを重ねたりしていた。この人、普通のチューバ奏者じゃないなとすぐにわかった。

彼と話していたら、僕と同じようにステイ・ヒューマンサンズ・オブ・ケメットが好きで、ブラスバンドも好きで、新しいチューバ奏者の話ができる人を探していたという話になり、ジャズ・チューバ話でおおいに盛り上がった。

後で知ったが、東方くんはこんなモノネオンやルイス・コールの音楽のベース部分をチューバでトレースする動画もアップしてる。彼が目指してるところはこういうところなのかとひどく納得した。

その直後に、東方くんから、「ケヴィン・バトラーというダラス在住のチューバ奏者が日本に来て演奏するから見に来ないか」と誘われて見に行って、驚いた。その時の演奏は以下の動画で。

ケヴィン・バトラーがやっているThe Hirsuteというバンドで、ドラムとのデュオで、チューバにエフェクターやラップトップを繋いで、ネオソウルやヒップホップ、エレクトロっぽいサウンドをやっていた。これはニューオーリンズのファンクの定番ミーターズのカヴァーだが、エフェクトが入ると全く違うフィーリングになっている。

この時点で、どうやらチューバ界隈がかなり進化していることはわかったし、これは僕が追っている音楽と完全に地続きだとも思った。というところでこのチューバ周辺の話について、東方くんと話したいなと思ったのがこの記事の趣旨だ。一応、「今、チューバがやばい」って話だが、これを読むともう少し広くいろんなことが見えてくる。特にテオン・クロスについての話では、UKジャズを読み解くためのヒントが得られたような気がしている。

ちなみにチューバスーザフォンの違いは、重くて機動性が低いチューバをマーチングバンドに使うのが大変なので、軽さと機動性を求めて開発されたのがスーザフォンとのこと。なのでシチュエーションに合わせて吹き分ける人も多いそうです。

     (取材・編集・構成:柳樂光隆)

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ノース・テキサス大学とダラスの音楽シーン

――東方くんがチューバを始めたのは?

最初はサックスをやりたかったんですけど、チューバやれって言われて。男子だから重いチューバも行けるだろって感じで。でも、チューバやりたくなくて。チューバがかっこよく思えるようなものを今までに見てこなかったので、チューバをかっこいいって思わなかったんですよね。そんな時にブラック・ボトム・ブラス・バンドとかが雑誌に載っていたり、ポルノグラフィティーの「Mugen」って曲で、ザ・スリルって日本のホーンセクションが演奏してて、そこで関島岳郎さんがチューバを吹いてて、チューバもいろいろあるなって思うようになって。そこからダーティー・ダズン・ブラス・バンドとかも聴くようになって、チューバやスーザフォンでもこういうのがあるんだなと思うようになったので、だったらジャズをちゃんと勉強しようと。とりあえずチューバでかっこいい音楽をやるためにはまずクラシックの技術をつけて、それからジャズを勉強したら、最終的にどんなジャンルでもできるんじゃないかなみたいな感じで、最初は愛知芸術大学の音楽の学部に行きました。

――その後、ノース・テキサス大学に行くきっかけは?

その後にジャズを本場で勉強するためにアメリカに行きたいくらいにざっくり考えていたら、ノース・テキサス大学でユーフォニアムでジャズ専攻をとってた照喜名(テルキナ)俊典さんって愛知芸術大学のOBの方がいて、帰国してすぐのころに学校に遊びに来てたんでうしょ。その時に、照喜名さんから大学の話を聞いて、それで19歳の時にノース・テキサスを見に行ったら雰囲気も良かったので、帰ってからすぐに留学の準備をすることにしました。ノース・テキサスって公立大学なので、バークリーよりも安いけど、プログラムもしっかりしていたんですよ。僕は照喜名さんがやってたからジャズ・ユーフォニアム科があるのかと思ったんですけど、なかったので、結局、クラシックのチューバの学部に入って、授業だけはどの授業でも受けられるからジャズの授業をとって、そこでチューバを演奏してました。

――ノース・テキサスの学生時代はどんなことをやってたんですか?

四年半アメリカにいたんですけど。ノース・テキサスは学校の特徴として、モダンジャズというか、ビバップを大切にしてて、そこに重点を置いてるので、保守的とも言われる学校なんですよ。だから、ノラ・ジョーンズやスナーキー・パピーとかが出てきてるのって学校としては割と特殊なことなんですよね。ノース・テキサス時代のプログラムはビバップとハードバップが中心でした。

――チューバでジャズって演奏する場所はあるんですか?

ジャズでチューバだと誰からも呼んでもらえないので、ダラスにあるクラブに自分が演奏しているビデオとかを送って、文章を添えてプレゼンをしてました。ニューオーリンズバンドとかセカンドラインのバンドとかで演奏したいんですけどって。

ダラスにフリーマン(The Free Man Cajun Cafe & Lounge)  っていうケイジャン・カフェがあって、そこのオーナーが「うちのハウスバンドがチューバを探してるから入りなよ」って言ってくれて、そこのハウスバンドに入りました。フリー・ローダーズ(Free Lorders)ってバンドで、5人編成で、そのオーナーがドラムを叩きながら歌うんですけど、音楽的にはネオスウィング系で、ビッグ・バッド・ヴードゥー・ダディ(BIG BAD VOODOO DADDY)とかブライアン・セッツァー・オーケストラとか、ああいう感じで、デューク・エリントンとかキャブ・キャロウェイみたいな曲をやってました。僕は2軍で、そこで1軍でチューバを吹いていたのがケヴィン・バトラー(Kevin Butler)ってチューバ奏者でしたね。 

――フリーマンってどういう店ですか?

ルイジアナ州の伝統料理ケイジャン・フードのレストランなんですけど、そこに小さいステージがあって、夜七時になったら毎日レギュラーバンドが演奏して、それが終わったらまた別のバンドが入ってって感じで。遅い時間はけっこうDOPEなものとか、ブラスバンドとかそういうのが演奏してましたね。早い時間はジプシージャズ/マヌーシュスウィングみたいなのをやってて、そういうものの中で、店のオリジナルバンドもあって、それがオーナーがやってたフリーローダーズ(Free Loaders)ってバンドでした。そこは毎日、エンターテインメントなジャズをやってた場所で、スナーキー・パピーとか、スナーキーのレーベルからリリースしてるファンキー・ナックルズ(Funky Knuckles)とか、あの辺のバンドのメンバーがレギュラーをやってたらしいです。今でもそこでファンキー・ナックルズの人はたまに演奏してますね。

――へー。

そのフリーマンがあるのがダラスのディープ・エルム・ストリート(Deep Ellum Street)って通りで、そこがクラブ街なんですよ。20年前とかはギャングがたむろしてる通りで、昔は絶対に一人で行っちゃダメって言われてた場所で、今は浄化されて、そういう危険な感じもなくなって、今は音楽に力を入れていて、ニューオーリンズみたいになろうって言うか、いろんなカフェとかライブハウスとかクラブがノーチャージか安いチャージで演奏できる場所が増えて、そこでファンキー・ナックルズとか、ゴースト・ノートとかのメンバーが定期的にライブをしてて。

――ダラスはブラスバンドは多い場所なんですか?

ブラスバンドをやろうって動きは最近増えたみたいですね。今、ダラスで人気あるのがビッグ・アス・ブラス・バンド(Big Ass Brass Band) っていうケヴィン・バトラーがリーダーのブラスバンド。それはフリーマンのハウスバンドのフリー・ローダーズのホーンセクションだけのスピンオフみたいに始めた企画で、毎年、マルディグラとかのイベントでニューオーリンズみたいに演奏したいよねってところからブラスバンドも始まって、今年はダラスのミュージック・アワードでもノミネートされてて、勢いもあります。ダラスの音楽シーンはこの5年、10年くらいですごい勢いで成長してますね。

――スナーキー・パピーが輩出されたり。

それはかなり大きいですね。

――ノ―ス・テキサス大学も注目されてますよね。卒業生にはエリカ・バドゥのバックバンドのRC&ザ・グリッツ(RC & The Gritz)のRC・ウィリアムスとかもいるし。

エリカ・バドゥやロイ・ハーグローヴもダラスだし、人はたくさんいたんですけど、外に出ていくので。

――そこはアメリカのNY、LA以外の都市はどこもそうですよね。でも、ジャマイカン・キャッツで、RFファクターにも参加してるバーナード・ライトがダラスにいて、マイケル・リーグの師匠的な感じだったとか、少しづつ土壌ができつつあるのかもですね。ところで、すごいチューバ奏者ってケヴィン・バトラー以外にもダラスにいたんですか?

ケヴィンくらいしかいなかったですね。チューバを吹いてて、同時に同時代のジャズや、R&Bとかヒップホップ、エレクトロも追っているのは、テキサス全体を見てもケヴィンだけっていえるかもしれないですね。アメリカ全体で見てもケヴィンみたいなチューバ奏者はなかなかいない気がします。

チューバが目立ち始めたジャズシーンのこと

――とはいえ、近年、僕が追ってるジャズのシーンとかでもチューバをよく見るので、何か起きてるのかなと気になってるんですよ。

まず有名なのがジョン・バティステ(Jon Batiste)のバンドのステイ・ヒューマン(Stay Human)のチューバ奏者のIbanda Ruhumbikaですね。ジョン・バティステが出てる人気コメディー番組「ザ・レイト・ショー・ウィズ・ステファン・コルベア」にも出てて知名度が全国区なので。彼は筆頭ですね。

――Ibanda Ruhumbikaはやっぱり大きいんですね。

そうですね、彼が登場したのは大きいですよ。でも、そう思っていたところにイギリスからシャバカ・ハッチングス(Shabaka Hutchings)のバンドのサンズ・オブ・ケメット(Sons of Kemet)のテオン・クロス(Theon Cross)が出てきたんですよ。彼の登場もすごかったですね。

――それ以前に、ダーティー・ダズン・ブラスバンドカーク・ジョセフ(Kirk Joseph)みたいなベースラインを吹くスーザフォン奏者はいて、そういう人はリバース・ブラスバンドとか、ソウル・レベルズとか、ホット8ブラス・バンドとかのニューオーリンズのブラスバンドにはいたじゃないですか。

そうですね。

ーーでも、最近はニューオーリンズのブラスバンドの枠じゃないところからチューバ奏者が出てきてますよね。

シカゴのヒプノティック・ブラス・アンサンブル(Hypnotic Brass Ensemble)とか、オレゴンのヤングブラッド・ブラス・バンド(Youngblood Brass Band)とかは、ニューオーリングとは違うフィールの音楽をブラスバンドっていうフォーマットでやっていて、面白いですよね。ヤングブラッド・ブラス・バンドのチューバのナット・マッキントッシュ(Nat McIntosh)はクラシックのチューバもやってるで、大学で教えたりしてる人です。クラシックのアンサンブルもやっているので、ブラスバンドに限らずチューバ奏者全体の中で有名だったりします。

――例えば、Ibanda Ruhumbikaはどの辺がすごいですか?

ジョン・バティステのステイ・ヒューマンはジュリアード音楽院時代の仲間で作っているので、イバンダもジュリアードのHPとかを見るとクラシックのオーケストラに座ってる写真とかもあるので、クラシックから出てきた人なんですよ。でも、彼が聴いている音楽のセンスがジョン・バティステがやりたい音楽性と合っているのがいいと思います。スティービー・ワンダーの曲のベースラインを暗譜してチューバで吹きますみたいな動画をあげてて、それがチューバ界隈では話題になったんです。その時に「だからジョン・バティステのバンドに入ったんだよな」みたいな感じでみんな納得しましたね。

――ジョン・バティステはスティービー・ワンダーだけじゃなくて、マイケル・ジャクソンをカヴァーしたり。その辺のソウル好きなセンスというか。

マイケル・ジャクソンで言ったら、サンズ・オブ・ケメットのテオン・クロスの前のチューバ奏者のオーレン・マーシャル(Oren Marshall)って人がいて。サックスみたいな形のチューバを吹く人で、サンズ・オブ・ケメットの一番最初のアルバム『Burn』はテオンじゃなくて、彼なんですけど、彼も一人でマイケル・ジャクソンの「Smooth Criminal」をチューバでやってる動画があって、それも面白かったですね。


――へー、ソウル系が得意なチューバ奏者が増えてるんですね。他にはどんな人がいますか?

アメリカだとドラム&チューバ(Drum & Tuba)ってロックバンドがあるんですけど、それのチューバのブライアン・ウルフ(Brian Wolff)ですね。エフェクターやペダル使ったり、モジュラーを繋いだり、たぶんケヴィン・バトラーもそっちをフォローしている気がします。

テキサスにマット・オーウェン(Matt Owen)ってチューバ奏者がいて、彼はあらゆるエフェクターを使ってチューバのそもそもの音が聴こえないくらいに音色を変えてて笑 チューバを楽器としてっていうよりはシンセのコントローラーとして使ってる感じですね。

あと、ジャガジャジスト(Jagga Jazzist)にもチューバがいるんですよ。そこではホーンセクションとして使ってますね。スライ・フィフス・アヴェニューのアルバムに入ってるチューバも同じですね。

現代のチューバ奏者としてミュージカル『ブラスト!』のメンバーだったビル・ミューター(Bill Muter)はスナーキー・パピーのショーン・マーティンモノネオンジェイムズ・フランシーズなど、いまのジャズプレイヤーと多く共演しています。

ーーそういえば、トランぺッターのデイブ・ダグラスがやってるブラス・エクスタシーってプロジェクトにもチューバがいたような…

マーカス・ロハスですね。彼はメデスキ―・マーティン&ウッドビリー・マーティンとも共演してますよ。チューバってアバンギャルド系の人からの需要がある楽器なんですよね。

ヨーロッパだとウィーンにジョナサン・サス(Jonathan Sass)っていう人がいて、チューバでスラップベースっぽい演奏をする教則本を出してます。「ずっと俺はマーカス・ミラーとかジャコ・パストリアスとかを聴いてきたからそれを演奏したかった」みたいな。その人も音大でクラシックとか教える教授なんですけど。

――ちなみにそのスラップ奏法ってどうやるんですか?

スラップではないので、スラップっぽい音を作るためにゴーストノートを作るとかはケヴィンとかもやるんですよ。人それぞれなんですけど、僕は音程にならない息の破裂音というか、ボイスパーカッションのスネアの音みたいな音を出してゴーストノートを作ってます。ジョナサン・サスの教則本では、舌を思いっきり歯に当てて出た音をスラップにするみたいに書いてました。僕はできなかったんですけどね。テオン・クロスもサンズ・オブ・ケメットの最新作で重音を使ってて、吹きながら声を出す奏法をやってたり、ああいうのはチューバで現代音楽の曲を演奏をする人では多いですね。

――そういう特殊な奏法ってチューバやってたら普通にやることですか?

いや、やると言っても宴会芸みたいな感じですね。クラシックとかをやっている人で現代音楽の曲をやらない限りはそういうのをやる機会は全くないと思いますね。でも、ここから新しい音楽ができていくのに比例して、そういう奏法が必要になることが増えていくとは思いますね。

――では、次はテオン・クロスのどこがすごいかを教えてもらっていいですか?

テオンは音がいいですね。そもそも楽器がうまいっていうのはありますね。チューバってずんぐりむっくりっていうか、鈍い音っていうイメージがあると思うんですけど、テオンはパーカッシブで、早いスピード感にチューバでついていけるんすよ。サンズ・オブ・ケメット『Lest We Forget What We Came Here to Do』に収録されてる「Afrofuturism」って曲(4:20くらいから)でダブステップみたいなことをチューバで表現している曲があって、それには感動しました。


サンズ・オブ・ケメットではテオンがチューバソロを吹くことってないんですけど、モーゼス・ボイドのバンドとか、テオン・クロスのソロのプロジェクトを聴くと、コードチェンジとかをしっかりやってるんですけど、今までのチューバ奏者ではそういうソロをする人は少なかったんですよ。きちんとジャズを勉強したうえで吹けるソロをやっていたんですよね。尚且つ今の新しい音楽にチューバで参加してて。そういう場所にチューバを持って行った功績もあるし、チューバ界ではスーパースターみたいな感じだと思いますね。

――ケヴィン・バトラーはどうですか?

僕が生演奏で見た中では一番うまいですね。彼はベーシストでもあるので、ベーシストのアプローチを昇華して、それからチューバを演奏しているのも特徴です。

ケヴィンは今までのチューバの在り方に疑問を感じていて、新しいやり方を考えて動いている人ですね。もちろん、昔から、そういう人もいたんですけど、今はインターネットの力もあってそれが同時多発的に起こっていて、そこは面白いですね。

――フェイスブックとかでシェアされるチューバ奏者のコミュニティーがあるわけですよね。

僕もテオンとフェイスブックでやり取りしたりするんですけど、そうやってチューバ奏者同士でいろんなものが共有されてるのがいいですよね。

チューバ奏者のコミュニティー

――ステイ・ヒューマンとかサンズ・オブ・ケメットとか急にチューバが使われたバンドが出てくるようになって、僕もチューバが気になり始めてるんですけど、チューバのコンペティションとかあるんですか?

世界チューバ・ユーフォニアム協会( International Tuba Euphonium Association )って組織があって、2年に1回、国際チューバ・ユーフォニアム会議みたいなのがあって、そこでコンペティションがあって、クラシックとか、チューバアンサンブルとかある中にジャズチューバのコンペもあります。
ノース・テキサス大学リッチ・マチソン(Rich Matteson)っていうジャズ・ユーフォニアム奏者がいて、その人がジャズインプロの教授だったんですね。彼はルイ・アームストロングとかと演奏してた人で、その後はクラーク・テリーとやってたり、ハードバップ全盛期くらいの世代の人でユーフォニアムでトランペットみたいなソロをやっちゃうんです。だからユーフォニアム奏者がサックスの生徒にジャズインプロを教えていた時期があって。その人の名前をとって、リッチ・マチソン・ジャズ・コンペティションっていうのがあるんですよ。課題曲はジャズスタンダードですね。
チューバって演奏するにも役割や解釈がいろいろあって、チューバをフロントと捉えてソロ楽器として吹くのか、ベースとしてベースソロ的なアプローチをとるのか、大きく分けて二つあると思うんですけど、僕やケヴィンはベースとしてのチューバなんですけど、そのコンペでは下にベースを鳴らしている人がいて、その上で演奏するので、僕らは少しスタイルが違う感じではありますね。デイブ・バージェロン(Dave Bargeron)っブラッド・スウェット&ティアーズのメンバーがいて、彼はチューバを上モノとして吹く人ですね。レイ・ドレイパーとか、ギル・エヴァンスのオーケストラでソロを吹いていたハワード・ジョンソンもそっちですね。

――昔の人だとアーサー・ブライスのバンドにもチューバがいましたよね。

ボブ・スチュワート(Bob Stewart)ですね。彼はベースとしてのチューバですね。僕はアーサー・ブライスのバンドが一番好きなんですけど、彼のバンドはベースがいないので、ボブ・スチュワートがベースラインを担当することが多いんです。一方で、彼はソロになってもちゃんとしたソロを吹いてるし、どっちのバランスもいいんですよ。

ベースラインを吹くチューバ奏者たち

――チューバがベースを弾くことの魅力ってどういうところだと思いますか?

僕は息を使ってて、有機的なところが好きですね。

でも、僕自身もチューバがベースをやる意味ってどこにあるんだろうなってのはずっと考えてたんですけど、モダンジャズを練習するとああいうスピード感でベースを敷き詰める部分はウッドベースの方が強いわけだし。

最近、テオン・クロスとか、アーサー・ブライスのバンドの時のボブ・スチュワートとかを聴いたり、あとはジャズの中にヒップホップが入ってきているものを聴いて気付いたんですけど、今ってモダンジャズに比べて隙間が増えてきたと思うんです。あとはノリが縦に近くなってきて。そういう時にチューバって一音一音の攻撃力はベースよりもあるかなって思うんですよ。僕はシンセのオーケストラ・ヒットに似てるなって思ってて。使用用途は違うけど、ダダダダって並べると殺されちゃうけど、隙間があると一音一音の説得力はすごくあるじゃないですか。チューバもそういうところがいいのかなと。

(※オーケストラ・ヒットをわかりやすく解説してる動画です)

――たしかにネオソウル的な引き算的で、かつ音色が重視されたベースの音楽にはチューバが合ってる気がしますね。それにリズムが縦っぽくなったらチューバが有効だっていうのは最近のプリザーベーション・ホール・ジャズ・バンドとかもそうですよね。

2年前くらいに出したアルバムとかすごい縦のリズムでしたよね。

――そもそもプロデューサーがロックバンドの人なんですよ。『That’s It』マイ・モーニング・ジャケットジム・ジェームス『So It Is』TVオン・ザ・レディオデヴィッド・シーテックがプロデュースしてて。

なるほど。

ーーあと、最近はエフェクターを使う人も増えましたよね。傾向とかあるんですか?

個人的にはチューバは弾力がある音なのでワウが相性いい気がしますね。ディストーションはけっこう難しいです。使ってる人もいますけど。

ニューオーリンズのボネラマ(Bonerama)ってブラス・ファンク・ロック・バンドがいて、マット・ペリン(Matt Perrine)ってやつがスーザ・フォンやってて、スタントン・ムーアとかジョン・エリスとかと共演してる人なんですけど、彼もワウを多用してますね。
テオン・クロスは最近出したマカヤ・マクレイヴン『Where We Come From (CHICAGOxLONDON Mixtape)』ではオクターバーを使ってるなって、あとはフィルターをいじっているのはわかったんですけど、それが音楽に合っててかっこよかったですね。マット・オーウェンは全部使ってます笑。
エフェクター事情だと、ダーティー・ダズン・ブラス・バンドカーク・ジョセフが1番有名でパイオニア的存在といって良いかと。

UKのチューバ奏者テオン・クロスの革新性

――最後にもう少しテオン・クロスの話をしたいんですけど、彼はどういう経緯で出てきたんでしょうね?シャバカ・ハッチングスのバンドのソンズ・オブ・ケメットでいきなり注目されましたが。

イギリスでニューオーリンズジャズをやってるバンドにテオン・クロスが参加している2014年の(超音質が悪い)動画がYouTubeにあるんですよ。2014年くらいから活動しているカンサス・スミッティーズ・ハウス・バンド(Kansas Smitty's House Band)ってバンドなんですけど。

――なるほど。このバンドは自分たちで企画したマルディグラとかで演奏してるとも書いてありますね。キティー・デイジー&ルイスのメンバーともコラボしてるんで、アメリカのオールディーズ的な音楽に憧れるUKのシーンの一部かもですね。ギャズ・メイオールとも通じるアメリカの古い音楽に憧れてる感覚かもです。

イギリス流のニューオーリンズ・ジャズ解釈ですよね。今、テオン・クロスはブラス・マスク(Brass Mask)というバンドに参加してます。これもニューオーリンズ・ジャズの要素があります。

――ブラス・マスクはニューオーリンズ音楽とゴスペルと南アフリカのタウンシップ・ジャイブを組み合わせたサウンドだって紹介されてるから、UK独自のこういうオールドスクールなジャズを演奏するシーンがあるかもですね。しかも、ここで南アフリカとも繋がるのもUKならでは。

今のUKの人たちって、カリブの要素があるんですけど、ニューオーリンズの音楽もカリブの要素がかなりあるので、チューバがはまりやすい気がします。テオン・クロスのリーダーバンドを聴くとかなりストレートにカリビアン・ミュージックなので、テオンってこっち側の影響なんだなって思いますね。

――ベースラインもレゲエっぽいのがすごくうまいですよね。

アメリカのボブ・スチュワートカーク・ジョセフはアメリカのベーシストからの影響が大きいと思うんですよ。モータウンのベースとかの影響ですよね、ベースっぽいチューバなんですよね。テオン・クロスはチューバらしさがあるベースラインなんですよね、そこは崩してないのはアメリカと違いますね。ニューオーリンズ的って言うか、セカンドライン的なベースラインがうまいんですよ。

いろんなチューバ奏者をまとめて聴いてみると、一人一人のチューバの使い方に対する解釈や考え方が違ってて、チューバってそこが面白いですね。

――いろんなジャンルで使われるための新しい使い方とかふさわしい使い方をみんなで試行錯誤しながら作ってる途中なんですかね。まだ発展途上感があるのは面白いですね。

そうですね。その中でテオン・クロスは一つ方向性を提示した気がしますね。レイ・ドレイパーとかはチューバをモダンジャズに持って行った第一人者ですけど、今、あれを聴くともやもやが残るし。ちょうどコルトレーンが新しいことをしようとした時期にその一環でしかなくて、あのアルバムはレイ・ドレイパーがソロをした後にコルトレーンがソロを吹くんですけど、その瞬間にリズムセクションがリラックスした演奏になって遊びだすんですよ。バンドがチューバに気を使ってたのがわかるんですよね。
ボブ・スチュワートもすごい人なんですけど、アヴァンギャルドな世界で知る人ぞ知るって感じでもあるし。

そんなところでジャンルを超えて広いところにも届けられるタイプの新しいチューバ奏者としてテオン・クロスやIbanda Ruhumbikaが同時期に出てきて、今はすごく面白い時代だなって思いますね。■

※以下の記事を読むとUKジャズがより深く理解できると思うので、併せてどうぞ。

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柳樂光隆

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