マガジンのカバー画像

一日一文 英知のことばから学ぶ

13
哲学者・木田元(きだ げん)氏編纂の本「一日一文」から、心にとまった先人の言葉をご紹介したいと思います。
運営しているクリエイター

記事一覧

ほとんど書かない人は、何を持つ必要があるとベーコンは説いたのか

イギリスの哲学者フランシス・ベーコンは言います。 さらに続きます。 書くことについての分析が興味深く、引用させていただきました。ベーコンが生きた400年前も令和の時代も、考え方の根幹は同じです。 文章を書くことで、自分の思考を言語化することができます。論理的に考え、より正しい道を見出すことができると感じます。 ほどんど書かない人は、それらのメリットを享受できないうえ、「強い記憶をもつ必要」があるのです。背筋がヒヤッとする状態です。できれば避けたいですね。 私たちは書

【一日一文】フランシス・ベーコン「少しばかりの書物がよく噛んで消化すべきものである」

1月22日。 「知は力なり」の格言で知られたイギリスの哲学者フランシス・ベーコンの随想集から、一文をご紹介します。 ベーコンは帰納法を提唱した人物として知られています。帰納法とは、「一切の先入観・偏見を取り去り、経験(観察と実験)を唯一の源泉とする思考方法」です。 ベーコンは、「経験」に重きをおいています。 読書もまた、ひとつの経験です。人の心をゆたかにしたり、新たな知識を得たり、世界を広げる一翼を担ってくれます。経験を得て、私たちは思考し新たな行動に移せるのです。

【一日一文】清少納言「雪は檜皮茸、いとめでたし」

1月16日。 平安中期の女房。歌人・随筆家の清少納言「枕草子」より、一文をご紹介します。 雪のある風景が、風情ゆたかに表現されています。平安時代につづられた随筆の中に、今も同じ風景を垣間見ることができるのです。 1月。都内では初雪のころ。神社に行けば、檜皮茸(ひはだぶき)につもる雪も見られるかもしれません。瓦の目ごとに雪が入りこめば、瓦の輪郭がぼやけて「まろ(丸く)」にみえるのも楽しみです。 白い雪と檜の皮。茶色い屋根に苔むす緑。自然に生まれた色がそれぞれ隣り合い、さら

【一日一文】ゴッホ「ぼくの眼にはもっと興味深いもの」

12月19日。 オランダ生まれの後期印象派の画家ファン・ゴッホの書簡全集から、一文をご紹介します。 ゴッホは荘厳な建造物よりも、人物を描きたいと断言しています。 画家として、一人の人間の魂と向き合おうとする姿は高潔そのものです。 後世まで100年以上の長きにわたってゴッホの絵が鑑賞されてきたのも、情熱的な筆致や波乱万丈の人生だけではなく、人間の眼と向き合おうとする姿勢が軸にあったからだと思います。ゴッホは、多くの自画像を残しています。絵筆を手に、ゴッホもまた描写を通して内

【一日一文】ル・コルジュジエ「色彩とは、生命のしるしである」

10月6日。 フランスの建築家ル・コルビュジエの「伽藍が白かったとき」より、一文をご紹介します。 「色彩とは、生命のしるしである」と断言しています。 色彩に対する記述がみずみずしく、心あらわれる読後感でした。 空の青さも、咲く花の鮮やかさも、四季を経て色彩が移りゆくさまも、すべては「生命」が宿った証なのです。 さらに「くすんだ協和音」への賛歌もつづられていました。身の回りへのあたたかい目線、色彩に対する感性の高さに、ただ敬服するのです。 ル・コルビュジエは、近代建築

【一日一文】夏目漱石「人間食事の旨いのは幸福である」

9月23日。 英文学者・夏目漱石の「漱石日記」より、一文をご紹介します。 夏目漱石は修善寺で胃潰瘍療養中に、大量に吐血。九死に一生を得たのち、回復に向かう心境を日記につづっています。 食事のありがたさ 日常のありがたさ 命のありがたさ 看病の人々の献身に触れ、感謝の気持ちを記しているのです。 大病をして、生き永らえた経験をした方も多いと思います。救ってもらった命は、自分だけのものではありません。生きる原点を思い出しました。 長い禁食期間を経ていただく食事は、どれほど

【一日一文】吉田兼好「花はさかりに、月はくまなくをのみ、見るものかは」

9月16日。 鎌倉末期の歌人・吉田兼好の「徒然草」より、一文をご紹介します。 「徒然草」は、日本を代表する随筆の一つ。 「つれづれなるままに」から始まる冒頭文に、なじみのある方も多いのではないでしょうか。 桜の花は満開のときだけ、月は満月のときだけ見るものでしょうか。 「そうではない」とはっきり主張しています。 雨の日に、見えない月を恋しく思うこと。 暖簾を下げて家にひきこもり、春の行方をただ思い浮かべること。どちらも趣が深いとつづっています。 これから咲こうとする花

【一日一文】湯川秀樹「苦心惨憺の後に」

9月8日。 理論物理学者・湯川秀樹の回想録より、一文をご紹介します。 「考える喜び」にあふれた文章、一気に引き込まれました。 ヒントそのものは、苦心の末に得られるもの。 考え続け、努力し続けた結果なのですね。謙虚な姿勢に、人となりをうかがい知ることができました。 学ぶ喜びがストレートに伝わります。 それは、生きがいに通じるもの。シンプルに教えられました。 湯川秀樹は中間子の存在を予言し、戦後間もなく日本ではじめてノーベル賞を受賞しました。晩年は平和運動に貢献したことで

【一日一文】宮沢賢治「おれはひとりの修羅なのだ」

8月27日 作家・宮沢賢治が記した詩集より、一文をご紹介します。 生前に出版された宮沢賢治の本は、わずかに2冊。そのうち1冊が、自費出版で出した詩集『心象スケツチ 春と修羅』です。 いのちが芽吹く「春」と、いさかいの絶えない「修羅」。 あえて、相反するものをならべるこころみ。 表裏一体。 春に、修羅。 修羅とは、仏教の六道の一つ。 人間が死んだあとに輪廻転生する道が六つあると言われています。その総称が六道。 宮澤賢治は、あえて自身を「修羅」に例えました。読み取り方は

【一日一文】世阿弥「秘すれば花なり、秘せずは花なるべからす、となり」

8月8日 世阿弥が記した「風姿花伝」から、一文をご紹介します。 世阿弥は室町時代の能役者。 8月8日が忌日とされているため、この日のご紹介になったのですね。 ここでいう「花」とは、「人の心に思ひも寄らぬ感を催す手立て」を指します。 諸芸道において、おもしろさや芸の素晴らしさなど、多くを磨く大切さが説かれています。 本来の「花」とは、観客が喜んでくれるかどうか。この一言に尽きると思うのです。 相手の立場をおもんばかる心が、示されているのですね。 「一日一文」不定期に

【一日一文】後白河法皇「心の澄むものは、霞花園夜半の月、秋の野辺、上下も分かぬは恋の道、岩間を漏り来る滝の水」

7月22日 後白河法皇が編纂した歌謡集から、一文をご紹介します。 後白河法皇は平安後期の法皇。 「鎌倉殿の13人」に登場していたことは記憶にも新しいですね。 親王時代に今様(当時の流行歌)を好み、歌集「梁塵秘抄(りょうじんひしょう)」を編纂しました。 口伝えで残された、趣のある歌謡が集められています。 「遊び」には、子供の遊びと、遊女との遊びと、二つの意味が類推されますね。 ありありと目に浮かぶ四季の光景に、気持ちも安らぎます。紫式部や清少納言の生きた平安の時代から

【一日一文】鈴木大拙「東洋では霊性的美の欠けたものを、ほんとうの美とは見ないのである」

7月12日 仏教哲学者・鈴木大拙の一文をご紹介します。 日本の禅(ZEN)についての著作を、英語で記したことで知られています。2020年、コロナ禍において生誕150年を迎え、注目を浴びたことは記憶に新しいですね。 現代においても、鈴木大拙の残した言葉は心のみちしるべとなっています。 スティーブ・ジョブスが禅に傾倒したことは有名なお話。世界的なリーダーたちが、禅や瞑想に関心を持つきっかけとなったのが、鈴木大拙の記した著作でした。 のちの「マインドフルネス」のベースになっ

心あらわれる表現との出会い「一日一文英知のことば」の本を手に取ってみた

哲学者・木田元(きだ げん)氏編纂のこの本。 一年三六六日の名文がおさめられています。 なぜこの本を手にしたかというと、新たなテーマがあるといいかなと思って本棚を見ていたから。ふと、この本を再発見したのです。 「先人たちの英知は、明日を生きる心の糧。」 この言葉に感動し、数年前に購入したもののそのままでした。 おさめられているのは、自分ひとりの読書ではとうてい出会うことのない先人や偉人の言葉ばかりです。 しかも、あまりにも有名だったり教訓めいたりした言葉を採らないとい