見出し画像

【一日一文】吉田兼好「花はさかりに、月はくまなくをのみ、見るものかは」

9月16日。
鎌倉末期の歌人・吉田兼好の「徒然草」より、一文をご紹介します。

「徒然草」は、日本を代表する随筆の一つ。
「つれづれなるままに」から始まる冒頭文に、なじみのある方も多いのではないでしょうか。

花はさかりに、月はくまなきをのみ、見るものかは。雨に向かいて月を恋い、垂れこめて春の行方を知らぬも、猶(なお)あはれに、なさけ深し。
咲きぬべきほどの木末(こずえ)、散りたりしほれたる庭などこそ、見どころ多けれ。

徒然草第百三十七段より抜粋


桜の花は満開のときだけ、月は満月のときだけ見るものでしょうか。
「そうではない」とはっきり主張しています。

雨の日に、見えない月を恋しく思うこと。
暖簾を下げて家にひきこもり、春の行方をただ思い浮かべること。どちらも趣が深いとつづっています。

これから咲こうとする花の梢も、散ってしまった庭も見どころ。

月のありようも同じです。
新月も満月も、雨の日も雲ひとつない日もひとしく見どころなのです。

ありありと、四季の情景が目に浮かびます。
命あるものも、月のありようもそのまま受け入れ、すべてを肯定する温かさにみちたまなざしに癒やされました。

美意識の何たるかを言葉にしたこの随筆が、現代まで詠みつがれていることに感謝したいと思います。

昨晩は、雨中に新月でしたね。
ついつい、月の存在を忘れがち。

太古から私たちの周囲をまわる月に思いをはせ、今晩は空を見上げたいと思います。



「一日一文」不定期に更新を始めます。
哲学者・木田元(きだ げん)氏編纂の本「一日一文」から、心にとまった先人の言葉をご紹介したいと思います。

ひとつは自身の学びのため。
ひとつはすこしでも豊かな気持を分かち合うため。おつきあいいただけると幸いに思います。

この記事が参加している募集

最近の学び

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?