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エルサルバドルは危険な場所?

1.殺人事件数の急増による非常事態宣言

(長文になってしまいました。読んでいただけると嬉しいです・・)
エルサルバドルでは、3月下旬から2大ギャングである「マラ・サルバトルチャ(MS-13)」「バリオ18(18ストリート)」による殺人事件が急増し(3月26日の週末だけで、国全体で87件の殺人事件が発生)、30日間の非常事態宣言(State of Emergency)が発令されています。エルサルバドル内戦(1979年-1992年)以来、最大の殺人件数として一時混乱が生じたものの、その後殺人件数は収まっています。

エルサルバドル政府は裏でギャング組織と取引をしていると報じられることが多いです。ギャング組織による犯罪を減らす代わりに(実際に減少しているのか、公にならないようにしているのかは不明)、エルサルバドル政府がギャング組織に便宜を図っているという構図。

今回の被害者の中には一般市民の人々も含まれていることが公表されていて、一部のメディアではエルサルバドル政府の対応に不満を覚えるギャングからのメッセージではないかといわれています。

今回の「非常事態宣言 」を通じ、具体的には以下が適用されるとのこと。
・結社・集会の自由の制限
・裁判所の命令なしに手紙の開封・電話や電子メールが傍受可能となる
・逮捕理由無しに当局による72時間以上の拘束が可能となる
・拘束後の弁護士への接見が制限される

憲法で認められた自由が制限されることに対し、人権侵害じゃないの?という声も国際団体等から多くあがっていますが、一部のローカルの方々からすると、警察の取り締まりが厳しくなり安全が維持されている、という見解。サンサルバドル市内では平常通りの日々が続いていますが、路上で見かける警察の数が増えた気がします。

エルサルバドル警察のツイッターによると、4月18日までに1万3,000人のギャングが拘束された模様。ちなみにこのツイッター、拘束された人々の詳細を顔と共に逐一公表していて衝撃的。見るからに怖そうな人が多い。

2.エルサルバドルのギャング事情

エルサルバドルには、人口の約1%にあたる70,000人がギャングに属しているといわれています。彼らの家族も含めると、人口の5~10%にあたる人々がギャング関連により生計を立てていることになりますね‥😲

エルサルバドルでは「マラ・サルバトルチャ(MS-13)」と「バリオ18(18ストリート)」と呼ばれる2大ギャングが抗争を繰り広げていますが、両組織はエルサルバドル内戦時(1979年-1992年)、安全を求めて米国へ逃れたエルサルバドル避難民が、米国で組織されていたギャンググループに加わったことがはじまりだそうです。

エルサルバドルの内戦終了後(1992年)、エルサバドルでは政治的にも経済的にも不安定、そして司法制度も機能していないという状況が続きますが、そこに米国で「不法移民・移民責任法」が成立(1996年)し、エルサルバドル人の強制送還が行われます。

不安定な情勢下、米国でギャング化した大量のエルサルバドルの若者が流入し、エルサルバドルでもギャング組織化が加速。知り合いのエルサルバドルの人に見解を聞いてみると、「それまでエルサルバドルは平和な国だった。ギャングが輸出されてきた。」という見方(あくまで彼女の主観であります)。

ちょっと話が細かくなりますが、そもそもこのエルサルバドルの内戦、エルサルバドル政府と左翼ゲリラ勢力(FMLN: ファラブンド・マルチ民族解放戦線)による衝突が原因ですが、裏では旧ソビエト連邦と米国の冷戦が深く関わっています。1959年にも近隣国キューバで社会主義国家が誕生していますが、エルサルバドルにおいても政府に不満を感じるゲリラ勢力に旧ソビエト連邦が、エルサルバドル政府には米国がそれぞれ支援を行い、紛争が加速していったという背景があります。

この流れを踏まえると、エルサルバドルのギャング組織による社会情勢の悪化は、米・ソによる冷戦の影響、両国からの直接的・間接的な資金・武力介入そして干渉政策等が発端となっており、エルサルバドルの今の状況が生まれたのは世界システム(というか大体米国)そのものの責任・・・と痛感します。

自分が慕っているエルサルバドルのスペイン語の先生によると、「エルサルバドル人で米国が好きな人はいない」そうですが(あくまで彼女の主観であります)、中南米を支配しようとしてきた経緯等調べる程に、確かにアンチ米国になってもおかしくないなあ…と思いました。

3.エルサルバドルは危険なのか?

Googleで「エルサルバドル」と検索すると、全身にタトゥーを入れた囚人たちの写真が出てききて、とりあえずなんか怖い国という印象を植え付けられます。

実際のところ、エルサルバドルの(表向きの)殺人件数は一時に比べ格段に減少しています。2015年は10万人あたりの殺人件数は103人と世界最悪だったようですが、2020年には10万人あたり19.7件で(下図参照)、中南米では8番目。ちなみに米国のワシントンD.C.は10万人あたり24.4人ともっと多い。(日本は殺人件数率より自殺件数率のほうが高い

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「エルサルバドル=凶悪犯罪」というイメージはギャングや一時の殺人件数の多さ故であり、今現在では国は少しずつ変わろうとしている…と個人的には思います。

そもそもギャングがいなくならないのはなぜ?と思うのですが、エルサルバドルにおけるギャング組織の平均加入年齢は15歳で、世帯収入平均は月収250米ドル以下。機能不全な家族から逃れ、生きる手段としてギャング組織にたどり着く若者が多いようです。

彼らはエルサルバドルの治安を脅かす存在であるものの、どうして犯罪組織に若者達が惹かれる必要性があったのか?ということを突き詰めると、責任の所在を彼らギャング組織だけに押し付けるのはおかしな話だと気づきます。国全体として、貧困層が社会から排除されてしまう仕組みが出来上がっていることや、更生できる仕組みが足りていないことも、ギャング組織が根絶されない理由としてあげられます。

外国人として今すぐに何かできることがあるとすれば、エルサルバドルで凶悪犯罪が多かったのは前の話であることや気を付けてさえいれば外国人がギャングの抗争に巻き込まれることは滅多にないことをまず理解すること。そして常識の範囲で注意しつつ、微力ながら観光等を通じ雇用や収入源が多様化できるよう貢献できればいいなあと思います。

冒頭のニュースもそうですが、エルサルバドルの「危険な国」という一部のイメージだけがメディアで大きく取り上げられ、エルサルバドルの平和なニュースを日本のメディアで見たことが無いのは悲しい!

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▼話は飛びますが、エルサルバドルのギャング「MS-13」に関連する映画が面白いのでお勧め。ホンジュラスがメインではありますが、コミュニティが出てくる風景や、MS-13加入時の通例儀式等リアルです。ネットフリックスで見られたので是非!▼


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