【書評】要件事実や事実認定の関連書籍

修習きっかけに読んでみたが,法務在籍時に読んでおいてよかったかもと感じた書籍【第2弾】です!

裁判修習では全体的に「事実認定」の手法を学ぶのですが,特に民事裁判では,事実認定に加えて「要件事実」の重要性も認識させられました。

そこで今回は,民事訴訟手続に関して「要件事実」と「事実認定」にスポットを当てた書籍を2冊紹介したいと思います。

「なにそれおいしいの?」と言いたい方もいらっしゃるかもしれませんが,書評の部分でイメージでもお伝えできればと思います。

1.「完全講義 民事裁判実務の基礎【入門編】(第2版)」

【概要】民事裁判実務における要件事実,事実認定,保全・執行等の基本を学ぶ
【難易度】★★★
【法務役立ち度】★★★

1冊目は,民事裁判実務における「要件事実」と「事実認定」等に触れた入門書を紹介します。

おそらく,この2項目を学んだことない方にとっては最適な本ではないでしょうか。
予備試験や司法試験受験のためのテキストとして本書を購入される方も多いと思います。

本書では,冒頭で民事訴訟の基本構造について基本的な説明があります。
基本構造は以下の3つのレベルとされます。

「訴訟物」レベル
「主張」レベル
「立証」レベル

裁判所は,概ね上記順番で審理し,最終的な判決により,証拠に基づいて当事者の主張(要件事実)が認められるかを決め,訴訟物の判断を行います。

例えば,売買契約に基づき代金支払い請求をしたい場合,

①「訴訟物」は,売買契約に基づく代金支払請求権となり,
②当事者は,相手方との間で売買契約が成立したと「主張」し,
③前記②の事実を「立証」するため,証拠として売買契約書を提出します。

上記代金支払請求権(①の部分)を発生させる法律要件の事実を証明することが必要であり,何が法律要件かを検討する必要があります。
これが「要件事実」(②の部分)であると説明されます。

つまり,「要件事実」とは,ある法律効果の発生が認められるために立証しなければならない必要最小限の事実とされます。

なお,③の部分について,当該証拠から一定の事実を認定し,②の要件事実に該当するかを判断します。
これが「事実認定」となりますが,2冊目の部分で詳細を説明します。

こうした冒頭の説明に続き,訴訟物や要件事実の総論にも触れておりますが,その後に要件事実の各論として以下の項目の説明があります。

・売買に関する請求
・貸金・保証に関する請求
・不動産明渡し等に関する請求
・賃貸借に関する請求
・動産・債権譲渡等に関する請求

この部分が本書の目玉となっておりますが,具体的な事例で学べるので要件事実の基本的な考え方を身につけることができるでしょう。

自身も法務の時に契約交渉に携わった時、要件事実の考え方がアドリブでの条件調整や文言作成に役立ったことがあります。

要件事実の考え方を一通り学んだ後は,事実認定のパートもあります。
次に紹介する「ステップアップ事実認定」を凝縮したような内容ですが,簡潔に纏まっていて比較的分かりやすいと思います。

人によっては敢えて「ステップアップ事実認定」を購入しなくても,本書で全体像を把握するだけでよいかもしれません。

2.「ステップアップ事実認定(第2版)」

【概要】民事裁判における裁判官の事実認定の手法・プロセスを学ぶ
【難易度】★★★★
【法務役立ち度】★★

2冊目は,「事実認定」にスポットを当てた書籍です。

大前提として,以下の記載があります。

裁判=事実認定+法令の解釈適用

事実認定は裁判官により行われますが,日常生活上抱く感覚(経験則)が重要であり,それを民事訴訟の中でどう活かされるかをイメージできる素材です。

重要部分の記載は太字となっており,メリハリつけて読むこともできるでしょう。

ただ,理論面に慣れていない方が1回で理解するのは難しいかもしれないので,事実認定のざっくりとしたイメージを掴む程度には有用といったところでしょうか。

事実認定とは,特定の事実(争いのある主要事実)が真実かどうかを証拠によって判断する作業と説明されます。
つまり,裁判官が,当事者間で争いのある事実について証拠に基づいて真偽を判断していく過程です。

名探偵コナ○君も「真実はいつも1つ」とか言ってますよね。

争いのない事実(動かしがたい事実等)は,当事者の主張通り認定できます。
争いのある事実は,提出された証拠をベースに,証拠構造のパターンに従って当該事実の有無が推認されます。

以下の図は無視してもらって構いませんが,理解が難しい場合,要は特定の事実は証拠から認定されるくらいのイメージでよいかもしれません。

・直接証拠→(認定)→主要事実
・間接証拠→(認定)→間接事実→(推認)→主要事実

かかる認定・推認プロセスにおいては,前述した経験則が重要となります。
例えば・・・

ex: 他人同士で大金を貸し借りすれば,通常は契約書や借用書が作成されるはず(→当該書面がなかったら実際に貸し借りはなかったかも)
ex: 実印は通常厳重に保管されている(→印影があれば,保管者たる本人により押印されたかも)
ex: 契約書の原本について,紙が変色していたり,ステープラーがさびていたり,折り目がついていたりする(→契約締結時期が大分昔かも)

特に法務部門の方々をはじめ,会社では様々な書面に触れることでしょう。  

契約書面や電子メール等もその一つですが,紛争となった場合はこれらの書面が「書証」となります。

本書では,民事裁判における書証の重要性に触れ,事実認定における書証の位置づけについて手厚く述べている点が実務に役立つポイントの一つと思います。

契約関連書面について,署名押印にいかなる意義があるか,署名押印がなかったり偽造されたりしたら証拠力にどう影響を与えるか,といった形式面も気になると思いますが,こうした文書の形式的証拠力については一度学んでおくとよいでしょう。

形式的証拠力が認められても,実質的証拠力が問題となります。
つまり,契約書等の処分証書,公文書や領収書等の類型的信用文書,その他報告書,メモ等の報告文書について,それぞれ記載内容どおりの事実をどの程度認めてよいかについても解説があります。
(「二段の推定」の議論は,慣れないうちは難しいかもですが…)

法務やってても,契約関連書面をどう作成すべきか,諸事情により契約書が作成できない場合にどう対応するか,といった悩みを抱えると思いますが,こうした問題へのアプローチにもなるかもしれません。

なお,司法修習生使う(白表紙の)事実認定教材は「事例で考える民事事実認定(ジレカン)」なのですが,人によっては本書はその代用品にもなりうるのかなとも思います。

後半は演習問題ですが,読むだけでも学べる形式となっており,事実認定に必要となる経験則がいかなるものか「ざっくり」と学ぶことができます。

特に以下の問題は,法務部門の方々が読んでも参考になるかと思います。

1 売買代金請求事件(売主は誰か)
2 保証債務履行請求事件(契約書は真正に成立したか)
6 請負代金請求事件(注文者は誰か)
7 売買代金請求事件(黙示の意思表示による売買契約の成否)
8 株主の地位確認+新株発行無効請求事件(売買契約は虚偽表示か)
14 退職金請求事件(退職金規程の変更に係る労働者の同意の有無)
15 損害賠償請求事件(インターネット上の名誉棄損の成否) 
16 システム(SW)開発関係訴訟(仕様の内容の立証+認定)

コラムも充実しており,実務を踏まえた問題意識が反映されてます。




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