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【麒麟がくる】脚本家 池端俊策氏 講演会 内容まとめ⑤

池端俊策氏(脚本家)講演会
脚本家の仕事~NHK大河ドラマ「麒麟がくる」を振り返って
講演内容まとめの続き

池端先生の講演会 内容まとめ
①はこちら
②はこちら
③はこちら
④はこちら



緒形拳さんと光秀は一流を知る《凄い二流》

光秀という人物をやっていて思ったのは
人物として、一流か二流かといったら
《自分の中では》二流だった

特に、ドラマをつくるうえでは信長は一流で、
その側でじっと様子を伺っていた光秀は二流なんだと 


1 一流の師匠を知り二流の役を行った緒形拳さん

大変親しかった俳優の緒形拳さん
30年以上公私ともにひじょうに親しく、
話もよくした「次、何する・どうしようか」
という話をしながら30年近く過ごした
ちょうど大河を始めるぐらいの年に、
(※おそらく先生が 坂の上の雲 の脚本監修をされた頃)
緒方さんは若くして71歳で亡くなった 
 
僕は緒形さんに
『何度も言いますから、緒形さんは二流だよね』と、
言っていた

一流とは緒方さんの師匠にあたる辰巳柳太郎
緒形さん辰巳さんに憧れて、新国劇に入った

国定忠治の代表的な出し物の舞台を
見に行ったたことがあり、 
辰巳柳太郎が白い衣装で(人を?)切った後、
(刀を)紙で拭いて、紙を上に上げる
紙がばーっと舞台上に落ちてかっこいい
緒形さんはそれをやったが全然かっこよくない
なぜかは分からない。舞台ではあまり映えない人

辰巳さんは、
顔が大きくて舞台映えするイイ男
緒形さんは、
どちらかというと顔が小さくて、
背がやや高く、どっしりした感じが無かった

緒形さんは辰巳さんに一生太刀打ちできず
それで新国劇を出た。そして、
テレビドラマ隆盛の頃の大河ドラマ太閤記に抜擢され
スター

辰巳さんは緒形さんに 
「おまえのような役者でも
 世の中通用するようになったんだな」と

それくらい美男子でもない普通の顔した緒形さん

緒形さんは手を見せて
「見ろよこの手、本当にごつごつしていて
 岩みたいな手をしている。役者の手じゃないだろ」と
言っていた
辰巳さんは綺麗な手をしていた
 

だから緒形さんの中に
自分は辰巳柳太郎になれないという
コンプレックスがどこかにずっとあった

それが分かっているから、
緒形さんは二流だよね、
 だけど一流を知っている二流だから凄い

 皆一流を知らないまま終わってしまう

 だから、二流というのは
 一流というのを知っているから、二流


二流の人をやりなさい、ヒーローをやりさんな
 という話をして、

緒形さんも、
「そうだよな、そうだよな、僕は二流だ」と

そういった二流の役を緒形さんに
意識的にやってもらっていた
 


2 憧れを一流から《二流》に変えた緒形拳さん


緒形さんが映像面で尊敬していたのは笠智衆さん

会場のご年配の方々、ほ~!と 盛り上がっていた

緒形さんの書斎に行くと笠智衆さんの本があった

笠さんは
「池端、俺は演技は何もやらんからな」と言っていた

笠さんは、演技は何もやらない人だから、
小津安二郎監督は、笠さんに
「はい、こうしてああして」と指示を出して、
「悲しそうな顔をするときは、
 床のアリが足元に来ると思ってアリを見なさい
 アリがゆっくり自分のところに近づいてくる
 それが悲しみの表情
 演技なんかさせない。あんたは下手なんだから、
 いう通りにやりなさい」と 笑
                     

だから、笠さんは小津さんの言うとおりに、
「はい、目はこのぐらいのスピードでこうしなさい」
と、全部あてがわれて演技した

それでも、映画を見ると素晴らしい
当時の日本人の役を自然に見事に演じているように
見える
 
緒形さんはそういう何もしない笠さんに憧れていた 

その奥底には辰巳柳太郎には演技ではかなわない
そういういうものがあるから演技をしない人間として、
(笠さんに憧れるような)
どこか舵を切ったんだろうと思う


会場のご年配の方々、
小津さんと笠さんの話でだいぶ笑われていた

市の人権研修の一環の講演会だったので、
地元の参加者と思われる方々の参加が多く、
中には、麒麟パートより
緒方さん辰巳さん笠さん小津さんパートに
アツくリアクションを取られていた方々も
いらっしゃった印象 笑

小津さんと笠さんの映画気になる。見なくては!




脚本家と生涯学習

1 生涯学習は好きなことをすればいい

最後に、生涯学習とは
楽しいことをやればいいと思っている
緒形さんは新国劇辞めてでも楽しい役者をやった
役者をやりたかった。テレビに出て映画出て、
役者を全うした

我々も生きる中、いろんな仕事をしていて
50、60を過ぎて残りの生涯を
どういうふうに生きていくかと考えた時、
好きなことをやればいい


2 好きなことの一流になれなくても過程を楽しむ

好きなことを行う上で大事なこと

①映画《あつもの》の緒形拳さん演じる男の話
緒形拳主演で、
あつもの》という映画を撮った

※(参考)あつもの 予告編こちら

菊を作る普通の人の役で、消防署に勤め、
退職をして何かやろうかといったときに、
菊を作ろう

中年の頃から作り始めた。
その中で菊づくりでどうしても敵わない人がいる
菊はコンクールがある
厚物咲といって三本仕立のものがあり、
その世界に魅せられて、
一流と呼ばれる名人を訪ねていく
(役は笈田ヨシさんというパリで活躍している役者さん)
(その役で毎日映画のコンクールで助演男優賞取った)

笈田さんのところに行って、秘密を盗もうとする
ところが、一流と呼ばれている男(名人)は
嫌な男だが、どうみても敵わない
お願いだから教えてくれと言うと、
一つだけ、土の作り方を教えてくれる


厚物 盆養(ぼんよう)(三本仕立て
大菊の基本的な仕立て方で、一本の苗から三本の枝を伸ばし
三つの花を調和させて咲かせたもの
こちらの菊の大会から抜粋

〈あつものざき さんぼんじたて〉
漢字が分からないままメモしていて
後で調べたところこちらだと判明。知らない世界を知った


性格の悪い男だけど作る花は見事
嫌な男は自身の駄目さ加減を
ちょうどバランスを取るように美しいものを作る
緒形拳さんの役は最後まで勝てないで終わる話

その一流の男はひじょうに無頼でどうしようもなく、
菊のことしか考えていないような
そういった生き方は自分にはできない

でも、無頼なその人が作る
一流の花のすばらしさは分かる
それが分かったところで自分はヨシとする
とても真似できない生き方であり、
自分には自分の生き方がある、だから緒形拳演じる男は
自分は二流に甘んじよう”と納得する
 
菊が大好きだから一生やっていこうと思い、
その一流を見たということで、
それを目指して生きていける

一流の人はさらに上っていくから
一生かかっても追いつけない


絶対的なものに到達することは絶望的だからこそ
 上を目指す過程を楽しむ

世の中の真理はそうだと思う
絶対的なものを手に入れようとしても
絶対というものは見つからない

絶対に行きつこうとするプロセスが充実し楽しかったらいい。学ぶということはそういうことだろうと

人間、学んでも真理にはたどり着かない
哲学にしてもギリシャ哲学から始まって、
今だに神がいるとかいないとか、人間て何だろう、
死とは何だろう、ということをギリシャから
ずっと言っていて、いまだ答えが出ずに
同じことを言っている

人間、一生真理に到達することほぼ絶望的
だけれど、それで人間は絶望するかというと
絶望しない

それを目指すというプロセスがひじょうに楽しい
一流の花を作ろう、今度はうまくいった、
そういう過程がとても楽しい

生涯学習の真理というのはそういうところで、
一生かけてそのプログラムを楽しむ
自分が好きなものの、
頂点を上っていく、階段を上げがっていく、
という楽しさがある

先生自身、人物像をつくるのは楽しくてしょうがないと
本当に楽しそうに熱く話されていたことが
ここで思い出された



 さいごに(講演の結論)


結論として、ドラマというのも
生涯学習の話と同様に、絶対的なものはなく、
絶対のヒーローを演じようととしても無理
人間というのは必ずどう生きようかというのを迷う

光秀のように迷いながら、ある答えや、
本能寺という答えを出すけれど、
それが本当の解決方法だったか、正しい道だったか、
これは分からない。分からないけれども
彼はこれが正しいと思ってやった。そこが大事

**************
ドラマというのは、
人間いったい何なんだ、どう生きれば正しいのか、
どう生きれば幸せなんだ。それを探す話
その結論が本当に正しいかどうかは分からない
神のみぞ知る
****************


《脚本とは》

脚本というものは人間を描くもの 究極は、
出てくる人物がどういう生き方をするかということ
脚本とは人間を描くのが最終テーマ
 
※講演会冒頭にあったこの“脚本とは”の話に繋がる内容

           ―まとめー
ドラマの光秀の生き方
ヒーロー(一流)でなくても、
迷いながら生き・答えを探し、
自分が正しいと思う結論を出した
生きる中で迷い・答えを探す過程が大事
(その生き方に絶対的な正しい結論は無い)
 
生涯学習
楽しいこと、好きなことをすればよく、
たとえその分野の一流ではなかったとしても  
上を目指し、その過程を楽しむことが大事
(目指すものに絶対的なものは無い)

講演内容はここで終了一



池端先生舞台袖からチラリで会場盛り上がる


司会の方「池端先生ありがとうございました!」
なんとなくこれで全て終了、という雰囲気
池端先生は舞台袖へ退場 
そこで「質疑応答の時間がある」とアナウンスが
 
すぐさま、舞台袖カーテンから先生が顔だけ出され、
あれ、これはまだ終わってない…??と
不思議そうな表情で会場内伺う
 
顔だけ出ている構図があまりに面白くて、
会場内笑いに包まれる 笑

イメージ図 
忘れたくなさすぎる熱意で、作ってしまう

 
あの奇跡の瞬間、記憶に焼き付けた 笑

 
最後の最後にこんなに皆を笑顔にして下さり、
先生、本当に愛くるしかった~ 
(ありがとうございます)
 

質問時間


質問時間は1名の方が挙手して指名された

先生にお話しを始められ、
けっこうお話されても、なかなか質問部分に到達せず
会場内、いまかいまかと質問部分を待っていたら、
最終的に質問ではなく、ドキドキフレーズとともに
「スピンオフして下さい」という要望で終了

一同 「質問じゃないんかーーーい!」

という、壮大なコント状態 笑
周りの方、そのカオスに笑っていた
 
そしてすぐさま、

お時間が来てしまいました」アナウンス ←

あ、これはもうコント。このタイミングはコント 笑


講演会は終了となった一


関係者の皆様、蕨市の生涯学習講座で、
外部のモノも参加可能として下さり本当に感謝です
開催いただきありがとうございました
貴重なお話の数々に感動し、
今だに当日の興奮が残っています


講演内容まとめはここまで

※念のためですが、記事については
 あくまで個人作成のものであり公式ではありません
※うろ覚えのところもあり
 一部正確でない部分もあるかもしれません


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まとめの最後に
今回、蕨市に初めて伺った
蕨市開催はどういった経緯なのか気になっていたら、
冒頭すぐに、先生がお住まいだと分かった。
麒麟の原稿はあの場所から生まれていた感慨!

先生の言葉を直接伺える、なかなかないチャンス
できるだけ自分の記憶にとどめておきたかったこと、
人数制限や遠方、都合などで残念ながら
参加できなかった方も多いと思い、

できるだけ当日の様子、先生の言葉遣い、雰囲気を
鬼のようにメモした 
帰ってから地獄の殴り書きに途方にくれつつ、
なんとか綺麗なカタチにまとまった

当日はメモに必死で、
まとめながら、時差で理解した部分もあった
あらためて素敵なお話が伺えた感動でいっぱい!

可能な限り当日の内容そのままでまとめたので、
雰囲気を味わっていただけたら嬉しいなと

麒麟にハマり過ぎて
2021年2月、麒麟がくるロスは相当深刻だった
その時の自分に
あなた2年後、講演会行けるよ!と励ましたい 笑

何より、先生のお人柄が知られたことが大きい
あれほどチャーミングな方だったとは!

本木雅弘さんの”プロフェッショナル仕事の流儀”に
チラッと映っていた先生がずっと気になっていた
その時も役のことで本木さんから相談されていた

長谷川博己さんも頻繁に電話されていたという

先生〜!と相談してしまいたくなる、
そんなお人柄が十分、分かった
お話聞くと好きになってしまう

麒麟がくるの脚本を2020年11月に書き終え、
その翌月にあたる12月に開催された講演の映像があった↓
先生、本木さんではなく〈モッくん〉と発言 納得


↑ 当初先生のイメージはこちらの映像冒頭のものだった
実際お話を聞いてみると、これは公式用だと分かった笑

家に帰り、速攻で麒麟がくるを見て
このうえなくテンションが上がったことを報告します

池袋の喫茶店の日があって、
楽しい人物像作りの日々があって、
役者さんやスタッフの方々の試行錯誤があって
セリフ一つ一つ先生の頭の中から出てきたものを目にしている

感慨の深みが 深海レベル


一流二流のお話を聞きながら、
以前GACKTさんが、
 (※偶然格付けチェック唯一無敗の一流芸能人!)
父親と慕う緒形拳さんとのエピソードを
涙ながらにお話されていたのを思い出した  こちら
今回のお話で、お人柄がイメージできる内容だった

先生と親しかったことでも分かるように、
緒方さんは謙虚で飾らない人柄で
愛情深くて素敵な方だったのだなぁと
先生しか知らないエピソード、本当に貴重だった

池端先生×緒形拳さん 
あつもの
NHK広島放送局開局80年ドラマ・帽子記事  
俳優〜脚本家・池端俊策が見つめた緒形拳〜(NHK)
 2009年2月放送 2008年に死去された緒形さんを
 追悼するドキュメンタリー番組

配信があるものは見たい 
今見られるのは『あつもの』だけかな、、

と、思っていたら!!
なんと、この蕨市の講演会の2ヶ月後、映画「あつもの」の上映会&池端先生トークイベントが開催され行ってきました!



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