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【双極症と生き方】デジタルテクノロジーとの関係を見直して生きがいのある生活をつくる

現代社会において、デジタルテクノロジーは私たちの生活に欠かせません。しかし、その便利さの裏で、精神的な健康に悪影響を及ぼす可能性も指摘されています。

双極症がある人の場合、デジタルデバイスやインターネットの過剰使用は、症状を誘発させるきっかけになり得るのではないでしょうか。

この記事では、双極症の症状を誘発させないためのデジタルテクノロジーとの付き合い方について考察します。


デジタルテクノロジーは双極症への影響があるか?生活を見直してみた

実際、デジタルテクノロジーの過剰使用によって、双極症の症状が誘発されることはあるのでしょうか?1日の使用量や、どのくらい熱中しているかなどは個人差があります。ここでは私自身の例をあげて、生活の中でどのような影響があるのか調べてみました。

デジタルテクノロジーのメリットとデメリットは?

デジタルテクノロジーにはパソコンやスマートフォンなどのデバイスをはじめとして、メール、テキストメッセージ、SNSなどのアプリやツール、さらには身体測定用のウェアラブル機器などが含まれます。メリットとデメリットについて考えてみましょう。

これらのデジタルツールやアプリ、インターネットのおかげで、即時のコミュニケーションが可能になりました。また、キャッシュレス決済の普及により日常の支払いが便利になっています。世界中の情報を瞬時に入手でき、同じ立場や興味を持つ人々とつながることが容易になりました。

さらに、デジタルテクノロジーの医療への応用は今後広がっていくと予想されています。例えば、VR(ヴァーチャルリアリティ)を利用したSST(ソーシャルスキルトレーニング)がありますSSTは生活技能訓練とも呼ばれ、地域社会への復帰訓練として医療機関や就労支援事業所などで用いられている技法です。ほかにもVRを使えば、外に出られない患者や近くに実施している施設がなくても、認知行動療法などのセラピーを受けられる未来が来るでしょう

しかしこのようなメリットがある反面、現時点ではデジタルテクノロジーの使用にはデメリットも存在します。SNSを通じて不安を煽られたり、広告によって不必要な買い物への欲求を操作されることはもはや日常です。

この問題は、特に青少年の精神的な健康に悪影響を及ぼしているとして、ニューヨーク市が複数のSNS企業を訴えるほどの社会問題となっていることからも明らかです。ニューヨーク市の訴えでは、これらのSNS企業が中毒性のあるプラットフォームによって、青少年の健康を著しく害しているとしています。

双極症がある場合は年齢に関係なく刺激に対して過敏であることが多く、デジタルテクノロジーのデメリットによる影響を受けやすい可能性があるのではないでしょうか。そのため、デジタルテクノロジーとの健康的な付き合い方を見つけることが重要です。

ある日、デジタル依存症だと気づいた私

最近、私は自分がデジタル依存症であることに気づきました。YouTubeを見てコメントし、そのことが1日中頭から離れずまた次の日に動画を見てコメントするということを繰り返していたからです。このように行動している人は多くいるでしょうが、私はこの行動で気分が悪くなりました。コメントがどう思われるのかが気になり、もっと注意をひく発言をするにはどうしたらいいか考え始めます。そうなると楽しい気持ちは消え、不安やイライラが現れました。これがデジタルテクノロジーに関する行動を変えようと思ったきっかけです。

私は双極症を発症する前からインターネットを使っていますが、自分が依存症だと感じたことはありませんでした。徹夜でチャットして翌日のテストで居眠りした結果、赤点をとったことがあります。しかしそれは1回限りのことで、大した問題にはなりませんでした。

初期のインターネットは電話回線を使用していたため使用料金が高く、長時間使えません。また、あるゲームに熱中した時期もありましたが、ゲームをクリアした後は遊ばなくなりました。その時代のブラウザゲームは動作が重く電力を多く消費するため、長時間の使用は難しかったためです。

しかし、最近になって動画コンテンツの視聴に没頭している自分に気づきました。昔とは異なり、動画が途中で止まることもなく、画像のダウンロードに時間がかかることもありません。自動再生機能のおかげで、一度視聴を始めると次から次へと動画が流れます。気がつけば数時間が過ぎていることも珍しくありません。さらに、インターネット接続の料金が大幅に安くなったため、使用時間を気にすることなくずっとオンラインでいられます

気づけば、1日の大半をスクリーンの前で過ごすことが日常となっていました。大量の情報に溺れることで感情的にも消耗し、慢性疲労やイライラの原因となっていたと思います。私にとってイライラは軽躁症状のサインであるため、原因を特定して対処する必要がありました。

このように自分の生活を見直してみて、どれだけの時間が動画視聴やSNSによって失われているかに気づかされました。現在は、デジタルデバイスやツールの使い方を見直し、自分の問題を明確にしているところです。

デジタル依存症から脱するには?仕組みを知って計画しよう

デジタル依存症の問題を解決していくためには、依存症それ自体のメカニズムやテクノロジーの仕組みについて知る必要があります。

何が問題なのか?現代のテクノロジーと依存症の仕組み

依存症という言葉を耳にしたとき、人々がまず思い浮かべるのはアルコールや麻薬といった物質への依存でしょう。これらは長年にわたり社会問題として認識され、多くの研究や治療法が開発されてきました。しかし、インターネットや最新テクノロジーの普及にともない、新たな形の依存症が注目されています。これらはプロセスへの依存症と言われ、物質を直接摂取する形ではないにもかかわらず、人々の生活に深刻な影響を与えかねないものです。

アダム・オルターの著書『僕らはそれに抵抗できない』では、依存症とテクノロジーとの関係が脳科学の観点から詳細に解説されています。最新の科学的理論では、単に何かが好きという理由ではなく、プロセスが報酬として脳に学習されてしまうから依存症になるということです。そして、そのプロセスが自分にとって悪影響を及ぼしていることを知りながらも、やめられなくなるという問題が生じます。

脳科学の研究によれば、物質でもプロセスでも、脳内で起きる依存症の反応は同じであることが示されています。プロセスへの依存症では、物質依存と比べると1回の影響は穏やかかもしれません。しかし、現代社会はテクノロジーへの依存を促す商品やサービスであふれています。したがって、誰もが環境やタイミングによって依存症になる可能性があると、同書では強調しています。

このようにデジタル依存症はプロセスへの依存であり、依存症になる人がその行為を好きであるとは限りません。きっかけがなんであれ、一度ハマると抜け出すのが難しく感じるのは意志が弱いからではなく、テクノロジーと脳の働き、そして環境の問題です。

テクノロジー企業が用いるテクニックが中毒性を生む

デジタルテクノロジーと健康的に共存するためには、依存症になるメカニズムと、テクノロジーの中毒性を理解することが不可欠です。『僕らはそれに抵抗できない』では、依存症が環境に基づく記憶によって引き起こされると説明されています。したがって環境を変えることが有効な対策のひとつです。

テクノロジー企業は、消費者がより長い時間をその製品やサービスに費やしてくれるよう巧妙に設計しています。例えば、動画配信サービスで用いられるクリフハンガーというテクニックです。この手法は、物語を完結しないまま最も興奮する部分で終わらせ、視聴者に次も見たいと思わせます。未完了のタスクは記憶に残るという人間心理を利用したものです。しかし、このようなトリックを理解していれば、自分で視聴をコントロールできるようになるでしょう。

同書ではほかに「いいね」などのフィードバック機能や、社会的な承認欲求、他人と比較したい欲求など企業が人間心理を操作して用いるテクニックが紹介されています。

依存症の仕組みと、依存を促すテクノロジー企業のテクニック、両方を知ることで適切な対処ができます。私の場合は、今まで受動的に行ってきた行為を企業側のテクニックという視点で見直せたことで、より客観的に自分の行為を見れるようになりました。

「デジタル・ミニマリスト」になってみる

カル・ニューポートの著書『デジタル・ミニマリスト』では、デジタルテクノロジーとの健康的な関係を築くための実践的なアプローチが提案されています。ニューポートが提唱しているのは、厳選されたデジタルテクノロジーのみを使用することで、生活の質を高める「デジタル片づけ」です。

ニューポートは、生活をよりよくするため主体的にデジタルテクノロジーを用いることが重要だと言っています。そのためにはデジタルテクノロジーの使用を控えた空き時間に、代わりに取り組む余暇活動を計画しておく必要があるということです。

「デジタル片づけ」には使用ルールの設定、リセット期間、厳選したツールの再導入という大まかなステップがあります。私自身は、2024年4月現在、このプロセスのリセット期間を経験中です。このステップでは、これまで使用してきたアプリやツールを徹底的に見直し、使用していないものはすべて削除しました。また、残したものについてはそれが本当に必要かどうか検討しています。最終的には、私の生活の中で生きがいとなっている活動を、後押ししてくれるツールのみを再導入する予定です。

この機会に多くのアプリやツール、アカウントを削除しました。結果として、使用するデジタルツールの数を減らし、それによって注意散漫が減ったと実感しています。また、過剰なインプットがなくなったおかげで頭の中が静かです。以前は視聴した動画の内容などが頭の中に残っている状態で、イライラの原因になっていました。使用をやめたことで、これに気づけて本当に良かったと思っています。

このように、ニューポートが提案する「デジタル片づけ」は、単にデジタルデバイスの使用を減らすデジタルデトックスではありません。むしろ自分にとって本当に必要なデジタルテクノロジーを発見し、より生活の質を高めることを重視しています。

双極症の症状に注意しながら「デジタル片づけ」をするには

『デジタル・ミニマリスト』においては、短期集中で生活環境を変えることでデジタル依存症から脱することを推奨しています。しかし双極症がある場合、このような急速な変化はストレスであるため、気分変動を引き起こすリスクがあります。この点から、双極症の症状に配慮しつつ「デジタル片づけ」をする方法を検討しました。

小さな実験をくりかえす

重要なのは自分自身のペースで進めることです。小さな変更から始めてその影響を観察し、問題がなければ次のステップへと進みます。小さな実験をくりかえすと考えればわかりやすいでしょう。どれだけ時間がかかっても一つひとつ着実にやります。体調に注意を払いながら進め、症状のサインが現れた場合はいったん休止するとよいでしょう。必要に応じて頓服薬を使用するなどの対処法を準備しておくこと、場合に応じて主治医に相談することが重要です。

アクティブで能動的なアウトプット活動をする

デジタルテクノロジーの使用を減らすことで生じる空き時間には、運動や手を動かして何かを作る活動を取り入れると充実した時間を過ごせます。私の場合は、ブログの執筆や趣味の絵を描くこと、パンやピザを作ることがアクティブなアウトプットです。パソコンやタブレットも使いますが、できるだけアナログ作業も取り入れるようにしています。自分にとってストレス発散となる活動を準備しておきましょう。

自分に厳しくし過ぎない

あまりにも自分に制限をかけ過ぎ我慢していると、逆に依存症の対象が気になってしまいます。前述したように、依存症は脳の反応や環境の記憶などと関係して起こる複雑なものです。意志や気持ちで我慢しても意味はありません

私は動画を見ることが特に依存的だったため、まずはデスクの向きを変え窓の外を見れるようにしました。以前は壁に向かって座っていたためパソコンのスクリーンのみが目に入るようになっていましたが、こうすることでスクリーン以外を眺める時間が増えます。そして時間制限はせず、決めた時間帯には見たいだけ見ることにしました。不思議ですが、そう決めていると「別に見たくないな」と思うことが多いです。また例外として、体調がよくない時の気晴らしで見ることも使用ルールに含めています。

デジタルテクノロジーを使わない時間が増えた当初は空いた時間に戸惑ったり、急に不安になったりすることがありましたが、その時はとにかく歩きました。30分から1時間くらい歩いていると、不安が消え気分がよくなることがほとんどです。数年前に禁煙した時も同じように最初は不安やイライラが出ることがありましたが、1〜2週間で消えます。辛いのは最初だけだとわかっていると、少し気が楽です。

このように、双極症の症状に注意しながら環境や行動を変えていくには、ゆっくりを意識してやる方がよいと思います。速さよりも着実さに注目して小さく変えていきましょう。行動を変化させる際は、自分自身がどのように感じているかに注目します。あまりにも無理し過ぎると逆効果になることもあるため注意が必要です。もちろんこれは私なりのやり方ですので、自分に合う方法を見つけていくことがより重要でしょう。


まとめ:自分にとっての幸せな生活とそのために必要なものは何か考えよう

今回は、私自身のデジタル依存症と対策について取り上げましたが、双極症の症状を誘発しかねない影響があるとわかりました。特にインプットが多過ぎる状態によって、イライラしやすくなっていたと思います。

デジタルテクノロジーが溢れている多様な現代の生活で、何が正解かを決めるのはきっと難しいでしょう。しかし、自分にとっての幸せな生活に必要なものは何かを改めて見直してみると、新たな発見があります。


参考書籍
アダム・オルター『僕らはそれに抵抗できない「依存症ビジネス」のつくられかた』2019年、ダイヤモンド社

カル・ニューポート『デジタル・ミニマリスト スマホに依存しない生き方』2021年、早川書房


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