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私たちは、自分を嘆く必要も未来を憂う必要もない。

今から10数年も前のことです。

能登半島が大きな風に見舞われた翌日、半島の先端に位置する珠洲市見附島海岸まで三重県からのお客様をご案内する機会がありました。

見附島海岸は、通称”軍艦島”(=見附島)を眼前に見る美しい海岸で有名な観光地にもなっています。

嵐が過ぎ去った後の海岸は、まだ少し風があったものの、波の音が耳に心地よく清々しさが満ちていました。

海岸を歩いて見附島の真正面あたりまで来ると、折れた椿の木と枝が落ちていました。

あたりを見渡しても椿らしい木はありません。

(まさか、見附島から風に飛ばされてきたわけでないだろうけど、もしも、もしもそうだとしたらこの枝はとても貴重だ。)と思い、15センチほどの椿の枝=葉っぱをつけた枝=を一本手に取りました。

珠洲市にはヤブ椿が多く自生しているので、椿は市の花になっていて珠洲市を象徴する花でもあります。大好きな珠洲市を象徴するツバキの枝を手に取り、(もしもこの枝が大きく育ち綺麗な赤い花を咲かせたなら、すてきなことだ。)と思いました。

そう思って我が家に持ち帰った一本の椿の枝を一輪挿しに入れて、玄関に置きました。

それから何年も、時折一輪挿しの水を足すだけの世話を受けた椿の枝は目立つ変化もなく枯れもせず、我が家の玄関にありました。

どれくらい経った頃だったでしょう。枝の下から白い根が生えてきてその根はどんどん伸びて増えていきました。

今では記憶が定かではありませんが、持ち帰ってから5年ほど経った頃でしょうか。根がずいぶん長くなって枝も大きくなったので自宅の庭に直植えしました。

直植えした椿の枝は毎年少しずつ大きくなっていきました。

椿の枝が椿の木と呼んでもいいくらいに大きくなっても花をつける気配は一向にありません。

たった15センチほどだった枝が1メートルほどの木に育ち、毎年春になると新しい葉っぱが出るだけの年が5、6回過ぎていきました。

ところが、(花をつけるのはまだまだ先なのかなあ。この椿は花をつけることができないのかなあ・・)と諦めた3年前、ついに椿は蕾をつけました。

たまたま出かけた海岸でたまたま出会った一本の椿の小枝が、10年以上の年月をかけて花をつけました。


10数年前に一緒に見附島に行った友人に「あの時の椿が開花した。」と報告すると、「うちに持って帰ってきたのはすぐに枯れたのに。」と大変驚かれました。

枯れた枝と花を咲かせた枝。

どちらが良いのでもなくどちらが悪いのでもない。

それはたまたまのご縁だったのだ。と私は思う。

人生にもさまざまなご縁がある。

長く続き花を咲かせ実を結ぶご縁もあれば、すぐに切れてしまうご縁もある。

長くても短くても、どちらのご縁にも「出会い」と「別れ」の"その間"に、双方にとって大切な”宝もの”があるように私には思える。

私たちは、自分を嘆く必要も未来を憂う必要もない。

一期一会・・今の出会い、つまり今この時目の前にいる人を大切に思い、今この時していることを大切に生きていけたらそれだけで幸福が創造されるように思う。

幸福の創造とは、究極のところ、そこにあるのではないかと思う。




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