田所さんは毎日楽しくない。
田所さんには楽しいことが全くないわけじゃないけど、殆ど毎日楽しくない。出来れば毎日楽しく生きたいと思っている。これからずっと「明日こそ楽しくありますように」と願い続けなければいけないのか。田所さん大学2年生。彼女が楽しく生きられる方法はあるのか。そんな彼女の観察日記。14日目。

耳触りの良い言葉を探す。ここで言う耳触りの良いとは、同意を示す言葉。全然言ってくれない。田所さんは納得がいかない。

旧友達にマルチビジネスに誘われたこと。もう友達ではなくて、旧友達だということ。あなたの意見が聞きたいわけではない。ショックだったね、最悪な人だよね、そうやってこっちが用意してる言葉をなぞってくれるだけでいい。

だけど友達は、そんなことは絶対言ってくれなくて、持論ばかり繰り返す。田所さんはうんざりする。こっちの気持ちを慮って、相手を貶す。たったそれだけ。簡単なことだ。どうしてそんな簡単なことをしてくれないのか。ただただ意味がわからない。田所さんは大きくため息を吐く。

そうやってみんな否定をするんだ。どうせ。あなたもみんなと同じ。こんな風にいじけてしまえば、後は心を閉ざすだけ。田所さんにとってはベタな展開、である。

立ち上がる友達。
さようなら。あなたも旧友達になるのね。そう思って寂しくなる田所さん。

「ラーメン食べるよ」
はっ？

むかついたんなら、辛かったんなら、それでももう十分吐き出せたんじゃないの？友達はそんなようなことを言う。
「私の感想は違うから同意はできない。でもあなたの気持ちはわかったよ」
それは、するりと耳から入って、冷たくなった気持ちを温めてくれた。

実はさっき、おにぎりを食べてしまった田所さん。お腹いっぱいだけど、彼女とラーメンが食べたいと思った。
もちろん無理して食べたせいで、お腹が痛くなってしまった田所さんだった。