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【創作小説】なんて言うか君ってさぁ

「ほんと、鈍感よね、ミイって」

去年、私が小学校から上がってきた私立学校の、中学の卒業式に私の親友から言われたセリフだった。

「鈍感よ、ミイ」
その言葉の意味がわからないので私はその場では聞き返すことはしなかった。
私は、究極のめんどくさがり屋である。

あれから一年ほど経って、私はある公立高校の新しいクラスの中にいた。

両親が失業して、私は公立の高校へ進むことに決めた。

春。もう、桜はとうに散って、葉桜となり、木漏れ日が校舎をゆする。かさかさという葉擦れの音が、愛おしく、私は、窓から外をぼーっと見ていた。
かすかに遠く、小鳥の声。校庭にはハクセキレイがちょっと長めの尾を揺らし、挨拶をしているようだった。

林の中には、台湾リスが「グーッ」「グーッ」と、仲間を呼んでいるような声を出す。

クラスの教壇に近いところに、クラスの女子が一塊になって、アイドルやYouTube、最近行ったアニメの声優のコンサートの話をしている。
「今度、カラオケに行かない? 」
と、その中の女子が、一言発言する。
大概の女子が賛成する。
そして、その中の一部が、私の方を見た。

私は、その意を解釈することが出来なかった。
ちょっとチラッとこっちを見ただけ、のように思っていた。


「私は、誘われていないな……」

授業が始まる。
皆が、ばらばらと自分の席に着き、私も着席した。

「ほんと、鈍感よね、ミイ……」(クラスの女子)。

幹線沿いの道を歩いていた。ほんと、一人って気が楽。
『忖度』、『気遣い』なんて馬鹿馬鹿しい。
私は、一人で生きていける。
だって、一人で過ごしていても寂しくない。上を見上げれば太陽が眩しい。

喫茶店の近くで、かつての親友ケイに逢った。

「ああ、ミイ、久しぶり」

ケイと、喫茶店に入って、思い出話や、今の高校の話をする。
カラオケの時の女子の反応を話すと、
「あら、ミイ、またやってんの。それってミイに『来ない? 』って誘ってんのよ? 」
「何それ? 誘いたいんなら、誘ってくればいいじゃん」
ケイは、目を鳩のようにくるくるさせて、
「全く、ミイは分からん子ね」

喫茶店を出て、私はケイと別れた。日はとっくに沈み、街は翳りを帯びていた。

それから、十日ちょっとの間、雨の日が続いた。
道端で子猫の兄弟が身を寄せ合って親猫が帰ってくるのを待っていた。

学校が、何の特記することもなく、あっさり授業が終わると、私は、ケイと一緒に入った喫茶店に入ってコーヒーを頼んだ。

雨に濡れた窓ガラスから、ある少女が楽しそうに微笑んで、5人くらいで集いながら歩いているのが見える。

ケイだ……。

私は、コーヒーに目を落とし、黒い液体に深淵が覗けた。ちょっと怯んで急いでミルクを投入すると、慌ててかき混ぜた。
そして、コーヒーに砂糖も入れず、見つめていたが、そのまま残して店を出た。

(鈍感な子ね)
(誘いたければ、誘えばいいじゃん)
(それ、誘ってるのよ? )

私は、独りで透明な傘を差し、歩いていると、目の前を幼稚園児が歩いていく。
前の方に3人。後ろに出遅れて1人。
3人が、カードゲームの話をしている。
後ろの1人がためらっていたかと思うと、
「ねぇ、僕も混ぜてよー‼︎  」と、びっくりするような大きな声で、不満そうに言い、3人に駆け寄った。
幼稚園児たちは仲良く賑々しく歩いていく。

私は、じっと見ていた。

自分の幼稚園時代を回想する。

毎日のように友達と、絵本を読んだり、ゲームをしたり、かけっこをしていた。

今は……雨が、弱まった街角で、ポツリ……
「私、今 何してるんだろう」

遠くの街の角で、聞き覚えのある声がする。

私のクラスの女子だった。
「カラオケで、何歌うー? 」互いに話し、沸いていた。

その中には、いつも朝挨拶くらいはする女子がいた。
私は、その女子たちと、目が合った。
自分の幼い頃の誘い文句と、自分の声帯が重なる。

「ねぇ! 私も一緒に遊んでいい? 」


              おわり

©2023.12.20.山田えみこ




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