エミール松永

美術館勤務の若手研究者(学芸員)です。日本美術を研究しています。 こんなにも愛おしい日…

エミール松永

美術館勤務の若手研究者(学芸員)です。日本美術を研究しています。 こんなにも愛おしい日本の文化財は、しかし脆弱で、保護を必要としています。 普及を通して、100年後の文化財を護ります。

最近の記事

【帰りの電車で展覧会寸評!】♯16 静嘉堂文庫美術館「饒舌館長ベスト展」

軽妙にして深長。饒舌館長がついに展覧会に!  今回は、かなりレアリティの高い展覧会。静嘉堂文庫美術館で開催されている「饒舌館長ベスト展」です。  静嘉堂文庫は、二子玉川にある文庫。美術館施設としても長く活動されていましたが、展示室機能は昨年「静嘉堂@丸の内」として、丸の内の明治生命館に移転しました。しかし今回の「饒舌館長ベスト展」は、現在使われていない二子玉川の展示室で開催される8日間限定の展覧会です。   饒舌館長とは、静嘉堂文庫文庫長・静嘉堂文庫美術館館長にして東京大学

    • 【帰りの電車で展覧会寸評!】♯15 三井記念美術館「どうする家康」

      3館合同の巡回展 大河ドラマ「どうする家康」が人気を博していますね。テレビを持たない私は、ドラマ自体の視聴者ではありませんが。 ここまで観光が喚起され、大規模な経済効果が出るのは流石としか言いようがありませんね。(だからと言って、NHKが素晴らしい組織というわけではありません。) さて、今回は3館合同開催のどうする家康展。東京の三井記念美術館でまずは拝見しましたので、その感想を。 刀剣・茶道具の名品展  どうする家康と銘打っていますが、ドラマ未視聴だと楽しめないという

      • 【帰りの電車で展覧会寸評!】♯14 東京国立近代美術館「重要文化財の秘密 問題作が傑作になるまで」

        近代美術の粋を集めた入門編 さて、この展覧会、並べられている作品がすべて重要文化財というスゴいもの。これは出品までに、なかなか苦労されたのではないかと推察いたします。その甲斐あってか、なかなかの反響のようです。  後述するように、国宝や重要文化財という、いわゆる「国の指定文化財」が全てではありません。しかし展覧会でも示されているように、それは時代を代表する作品として評価されてきたもので、近代美術史の軸となるものたちです。これらの作品を抑えておくことで、近代美術史のおおよその

        • 【帰りの電車で展覧会寸評!】♯13 府中市美術館「江戸絵画お絵描き教室」

          面白おかしく見せるだけでいいわけない 拝見しました。 あまり感情的になっても仕方ありませんが、好意的なことは書けそうにありません。 今回は「お絵描き教室」。必然的に、江戸時代の画家を取り上げ、「これが◯◯の絵の描き方!特徴!」という見せ方になるわけです。そうであれば、より一層、その作品の「判定」には慎重にならなければなりません。ですが並んでいた作品のほとんどは、プロなら誰でもすぐにそうとわかる「●物」。何も知らない一般の方に、これが応挙だ、これが芦雪だ、と思われるのかと思う

        【帰りの電車で展覧会寸評!】♯16 静嘉堂文庫美術館「饒舌館長ベスト展」

          【帰りの電車で展覧会寸評!】♯12大阪中之島美術館「大阪の日本画」

          いとさんこいさん やっぱ恒富はいいですね。 ポスターになっている「宝恵籠」ももちろん素晴らしかったですが、やはり「いとさんこいさん」は名品です。 この微笑ましい感じは、東京や京都にはありません。情感もたっぷりで、個人的には恒富の最高の一作と思っています。 3代目米朝を聴きながら、見たいような作品です。 深田直城の凄み この人も、今回光っていました。 ここまでの力量を備えた人はなかなかいないでしょう。 大阪というには京風にすぎる気もしますが、四条派の正統後継者の感あり。円

          【帰りの電車で展覧会寸評!】♯12大阪中之島美術館「大阪の日本画」

          【帰りの電車で展覧会寸評!】♯11 静岡市美術館「東海道の美 駿河への旅」

          静岡という土地の意味 とても面白い展覧会でした。 いまでも東京〜名古屋間を東海道新幹線を使って行き来するとき、およそ半分の時間は静岡を通過します。それは江戸時代とて同じこと。東海道を通過する際、駿河は最も多くの時間を費やす土地です。 もちろん、京・大阪・江戸の「三都」や名古屋には規模では敵いません。しかしここは紛れもなく交通の要衝であり、文化の交差点だったわけです。そして、徳川家康が拠点を置いた場所でもありました。そうした静岡という地の歴史と文化を垣間見ることができる展示で

          【帰りの電車で展覧会寸評!】♯11 静岡市美術館「東海道の美 駿河への旅」

          【展覧会 予習と復習】♯7 板橋区立美術館「椿椿山展 軽妙淡麗な色彩と筆あと」

          R5.3.2 公開 R5.3.30 更新 【予習】 品の良い江戸絵画。春の訪れに、花を愛でましょう。 長い冬を越え、もうすぐ春がやってきますね。みなさん、この冬はいかがでしたか? 私はというと、この冬はなんだか妙に長く感じました。忙しかったからでしょうか? 燃料費の高騰も厳しく、春の到来がこれほど待ち遠しいのも久しぶりです。 春といえば、展覧会シーズン。各地で、「勝負ネタ」の展覧会が開催されます。 今回ご紹介するのは、その中でもとくに春を感じられるであろう東京は板橋区立

          【展覧会 予習と復習】♯7 板橋区立美術館「椿椿山展 軽妙淡麗な色彩と筆あと」

          【帰りの電車で展覧会寸評!】♯10 東京都美術館「レオポルド美術館 エゴン・シーレ展ウィーンが生んだ若き天才」

          行った方がいい。 けど、「シーレのすべて」は期待するな 今回はめずらしく、西洋美術をお届け。というのも私、ミーハーでして、クリムトやシーレといったウィーン分離派が大好きなのです。 今回の「シーレ展」も期待していましたが、残念さが拭えない結果となりました。 この「シーレ展」は、ざっくりいうとレオポルド美術館の所蔵品展。「シーレ展」ではなく、「レオポルド美術館展」と言うべきものです。こうした、絵画の美術館のコレクションをまとまって見られる機会は、現地に行くなどしない限りそうそ

          【帰りの電車で展覧会寸評!】♯10 東京都美術館「レオポルド美術館 エゴン・シーレ展ウィーンが生んだ若き天才」

          【展覧会 予習と復習】♯7 サントリー美術館「没後190年 木米」

          【予習】青木木米、ブームの予感 今回ご案内するのは、江戸時代に活躍した陶工・青木木米の回顧展。 日本美術史には欠かせない存在でありながら、一般にはほとんど知られていないと思われる木米。そんな木米の芸術は、令和に生きる多くの庶民の心を鷲掴みにするのでは?と、個人的には思っております。 「格式」「堂々」「豪華絢爛」 そんな価値観とは対極に位置する「アナザー近世京都」の扉を叩いてみましょう。 💻 展覧会情報 会期 2023年2月8日(水)~3月26日(日) 開館時間 10:0

          【展覧会 予習と復習】♯7 サントリー美術館「没後190年 木米」

          【日本美術でChillする】♯3 川瀬巴水「芝増上寺」

          今夜はよく冷える。雪の晩は、不思議と静かだ。 ぎゅっ、ぎゅっ だんだんと大きくなるその音とともに、美人が歩いてくる。 傘が隠したその顔は 雪のように白いのだろうか。 ここは東京、芝の増上寺。 降りしきる雪は、色を刷らず、時の白を残すことであらわされている。赤と白、黒と白、ほとんど三色だけで表現されているのに、情景をここまで雄弁に伝える。 真っ赤な建物は、今もそびえる増上寺・三解脱門。今はこの門の向こうに、同じく赤のランドマーク・東京タワーが見える。 小走りに通り過ぎる女性

          【日本美術でChillする】♯3 川瀬巴水「芝増上寺」

          【展覧会 予習と復習】♯6 出光美術館「江戸絵画の華」

          R4.12.29 公開 R5.1.8 更新 【予習】ついに公開!プライスコレクション受贈記念展! はい、エミールでございます。 今回は、私自身2023年一発目の展覧会になるであろう、出光美術館で開催予定の江戸絵画の展示についてお伝えいたします。 日本美術の一大蒐集家・プライス氏。早く若冲を見出だした彼の慧眼によって集められた「プライス・コレクション」は、日本美術のもっとも重要な個人コレクションとして憧憬を集め、数多くの研究者に影響を与えてきました。 今回の展示「江戸絵

          【展覧会 予習と復習】♯6 出光美術館「江戸絵画の華」

          【日本美術でChillする】♯2 国宝 「十便十宜図」のうち 池大雅筆「釣便図」

          ここは、人里離れた山中の粗末なすみか。 不便なこともあるけれど。 いやいや、ここにはここの「便」がある。 窓の外には渓流が流れている。 わざわざ大仰に用意しなくとも、 窓から糸を垂らせば、釣りが楽しめる。 客が来れば酒を振る舞う。 釣れた魚をアテにしよう。 リラックスした表情で釣り糸を垂らすのは、この家の主人か。線描は思わず目で追いたくなるほど表情豊かで、見る者を飽きさせない。色も華美になりすぎず、しかしメリハリがあって面白い。 絵を描いた大雅は、書家としても名高い。

          【日本美術でChillする】♯2 国宝 「十便十宜図」のうち 池大雅筆「釣便図」

          【日本美術でChillする】♯1 国宝 「那智瀧図」

          山を分け入った先に現れたのは、見上げるような巨大な瀧。  ここは熊野の聖地、那智の御瀧。  信仰を持たざる者でも、その神々しさには心を打たれる。 聞こえるだろうか?岩をうつ水の音が。 感じるだろうか?肌をしめらす水のしぶきが。 それは不思議と、心を静かに落ち着かせる。 画面の下には、那智大社の社殿や、卒塔婆が描かれる。この那智御瀧は、那智大社の御神体。カミそのものとして崇められてきた。 縦長の画面を活かした大胆な構図が目を引くが、細部に注目すると、緻密な描写も見応えがある

          【日本美術でChillする】♯1 国宝 「那智瀧図」

          【帰りの電車で展覧会寸評!】♯9 根津美術館「将軍家の襖絵」

          つい昨日まで東京は青山・根津美術館で開催されていた展覧会「将軍家の襖絵」。遅まきながら見ることができましたので、レビューします。 美術史とは何か? その一つの例。 今回の展示はズバリ「室町将軍の邸宅ではどのような絵画が鑑賞されたのか?」 中でも中心となるのは、襖絵。 それは当時の美的感覚だけでなく、為政者に求められる精神を示すものであり、また権威を示す装置でもありました。 例えば、人が農業に励む耕作図や、絹の製造に励む養蚕図。庶民の労働を、なぜ武家のトップである将軍が襖絵

          【帰りの電車で展覧会寸評!】♯9 根津美術館「将軍家の襖絵」

          【展覧会 予習と復習】♯5 福島県立美術館「没後200年 亜欧堂田善江戸の洋風画家・創造の軌跡」

          R4.11.16 公開 R4.12.3 更新 【予習】アジアとヨーロッパを一つの画面に。田善の魅力が集結。  さて、久しぶりの予習と復習。長い記事を書く時間がなかなか取れず、寸評も誤植だらけの乱文乱筆で失礼しています。  今回の紹介は、福島市にある福島県立美術館で開催予定の、亜欧堂田善(あおうどう でんぜん)の回顧展です。  田善は、本名を永田善吉といい、須賀川の住人でした。家業の傍ら趣味で画を描いており、それを白河藩主・松平定信が目に止め、本格的な洋風表現を学ばせたと

          【展覧会 予習と復習】♯5 福島県立美術館「没後200年 亜欧堂田善江戸の洋風画家・創造の軌跡」

          【帰りの電車で展覧会寸評!】♯8 国立能楽堂「柴田是真と能楽 江戸庶民の視座」

           今回は、東京は千駄ヶ谷にある国立能楽堂、その資料展示室で催されているこちらの展覧会のレビューです。無料で楽しめるものですが、満足度は高い者でした。 是真とは  柴田是真は、幕末から明治時代に活躍した漆工芸の職人です。絵描きとしても、よく知られています。町人に生まれた是真。10代にして蒔絵師に入門して研鑽を積みます。そして最後には、帝室技芸員に任命されるまでの高名な名工となります。そんな是真の作品を取りまぜながら、とくに能楽との関係に焦点を当てたのがこの展覧会です。 近

          【帰りの電車で展覧会寸評!】♯8 国立能楽堂「柴田是真と能楽 江戸庶民の視座」