映画紹介<7>「しあわせのパン」
どのシーンを切り取っても絵になり、ある心優しい夫婦の日常を描いた作品をご紹介したいと思います。
三島有紀子監督作品、「しあわせのパン」です。
刺激的な場面や大きな出来事はなく、非常に穏やかに物語が進んでいきます。映画に非日常感を求めている方には、物足りなくなるかもしれません。
私はこのゆったりと進む速さが心地よく、登場人物が話す言葉や北海道の美しい映像にじっくり入り込むことができました。
日常が猛スピードで進む世の中です。映画の中くらい、心穏やかに言葉や場面ひとつひとつを味わいたい、と思うのは私だけではないはずです。
観た後に、じんわりと優しい余韻の残る味わい深い作品です。
【あらすじ】
北海道洞爺湖の月浦の岬に移り住み、小さな泊まれるパンカフェ「カフェマーニ」が舞台です。
原田知世さん演じる水縞りえと、大泉洋さん演じる水縞尚の夫婦が主人公です。
りえがお気に入りの「月とマーニ」の絵本にちなんで、「カフェマーニ」と名付けられたカフェでは、尚が焼くパンとりえの入れるコーヒーをいただくことができます。
夏には彼氏に振られた東京からの一人旅の女性、秋には登校拒否の小学生、冬には大雪の中に老夫婦など、「カフェマーニ」には季節ごとに個性豊かなお客様が訪れます。
【感想】
■「カンパニオ」=「仲間」
映画を見ながら「パンを分け合うシーン」が印象的な映画だと感じていました。
パンを半分にちぎり、もう一方を相手に渡して、相手が口にする、そして笑顔になる、というシーンが何度も出てくるのです。
それもそのはず。調べてみたら、この映画のキャッチフレーズは「わけあうたびに わかりあえる気がする」でした。
「分け合う」というシーンに監督がいかに丁寧に描いたかが、キャッチフレーズから伝わってきます。
劇中、尚のセリフの中に「カンパニオ」という言葉が出てきます。元々は「パンを分け合う人」という言葉からきており、「仲間」という意味があるそうです。
「誰でも一人から二人になる瞬間があります。」
「一人じゃなかったらできますよ。誰かと一緒ならできることがあるはずですよ。」
一人で食べるごはんも自由で美味しいですが、誰かとその美味しさを分かち合うことは、食べる以上の意味があると思います。
それは、同じ時間と同じ気持ちを共有したという、絆みたいなものなのかもしれません。
最近、食べ物を誰かと「分け合う」ということが世の中的に難しく、忘れかけていた気持ちです。
■誰かと食事をする幸せ
「大切なのは君が照らされていて、君が照らしていることなんだよ。」
劇中に出てくる絵本「月とマーニ」の言葉です。
食べることは生きること。
お腹が満たされればいいと急いで胃の中に収めるような食事もありますが、久しぶりにゆったりと美味しいものを大切な人と「分け合い」ながら、食事をしたいと思いました。
「美味しい」と誰かと同じものを味わうことの幸せが、いかに大切で素晴らしいことかを教えてくれる映画です。
今日も最後までお読みいただき、ありがとうございました!
Emi
(※網掛けは映画からの引用です)
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