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二十億光年の孤独

谷川俊太郎の詩である。

私は最近、本屋で詩集を立ち読みするようになった。

一人で詩のエリアの前に立ち、タイトルを眺める。

昨日は、かの有名な谷川俊太郎の詩集を手に取った。

パラパラと開くと、このタイトルに再会した。

「二十億光年の孤独」

これは、私が高校3年生の時、初めて出会った。

校内の合唱コンクールのために、クラスの自由曲として選んだからである。

ふと懐かしくなった。

詩をもう一度読みながら、当時、クラスの友人たちと黒板に絵を描きながら歌ったことを思い出す。

「二十億光年の孤独」
人類は小さな球の上で
眠り起きそして働き
ときどき火星に仲間を欲しがったりする
火星人は小さな球の上で
何をしてるか 僕は知らない
(或はネリリし キルルし ハララしているか)
しかしときどき地球に仲間を欲しがったりする
それはまったくたしかなことだ
万有引力とは
ひき合う孤独の力である
宇宙はひずんでいる
それ故みんなはもとめ合う
宇宙はどんどん膨んでゆく
それ故みんなは不安である
二十億光年の孤独
僕は思わずくしゃみをした

当時、高校3年生の私たちが、どんなふうに解釈したか、正直少し忘れてしまった。

けれど、あれから数年たった今だからこそわかるところもある気がする。

少なくとも、私立の中高の中で守られて育っていた時よりも、大学に入り、ボランティアでいろんな地域に行き、いろんな人に出会い、アルバイトをして、世界が広いことを知った。

でも、それは世界地図、そして宇宙から見れば、とても小さな世界であり、さらにその中の自分はもっと豆粒みたいな存在であることも。

展望台から見下ろすだけで、それはよくわかる。

人ってほんとに、ちっぽけだなって。

✳︎✳︎✳︎

私はまだ大学生だけれど、「眠り、起き、そして働き」というルーティーンで生きている。ここで言う、「働く」はきっと会社に働きにいくだけでなく、人類として寝床から出て、何か動き始めることを言っているだろうから。

高校3年生の時は、「ときどき火星に仲間を欲しがったりする」というところが、表面上しか理解してなかった。なんとなく違う世界に興味を持つんだろうなというくらい。きっとクラスという仲間がいつも周りにいたからだろう。

大学生になって、大学とはいえ、個人行動が増えた今、比較的しょっちゅう“孤独”と感じることがある。別に一人でいれないわけではないけれど、何か湧き上がる感情を誰かと共有したくなったり、楽しいことを誰かと一緒にしたくなったり、一人旅で黙々と歩いている時なんて特に、感じる。

そんなとき、友人たちが傍に飛んできてくれたらいいなとか思うけれど、そんな突然連絡もできない。

そう考えたとき、なんとなく近くにいる見知らぬ人が、今どんなこと考えてるんだろうなとか、もし同じことを考えていたら嬉しいなとか、少し興味を持つんだ。

人って、一人では生きていけないっていうけど、本当にこうだろうなと思う。こうして誰かに共感を求めたりするし、震災が起きてしまったときは、知り合い/他人なんて関係なしに助けあい、“仲間”になるから。

ネリリ=寝る、キルル=起きる、ハララ=働く

と当時は火星人語をそのまま理解してたけど、

こう考えると、キルル=着るとか、ちょっとイライラしちゃってキリキリしてることも指すのかもしれないし、ハララ=ハラハラと緊張していることも指すのかもしれないなとも思ってしまった。

万有引力とは
ひき合う孤独の力である
宇宙はひずんでいる
それ故みんなはもとめ合う


“万有引力”について、当時リケジョだった指揮者の子が黒板に◯と◯を書いて、その間に⇄を書いて説明してくれた記憶がある。

知らない者同士なのに、無関心なのではなくて、見えない力でひき合うのって素敵だなと思う。
孤独なら力がなさそうなのに、どこか見えない強い力があるんだろうな。

宇宙はどんどん膨んでゆく
それ故みんなは不安である

この感覚は今すごくわかる。
“膨らんでいく”という解釈に合っているかはわからないけれど、大学生から社会人の世界へと進もうとする自分にとって、まさに宇宙が膨らんでいくような感じ。世界がもっともっと広がっていって、きっと新しいこともたくさん吸収して膨らんで、パンクしてしまわないかどこかで心配な感じ。

高校3年生の頃はきっと、大学受験の不安とこの先の自分の道の見えなささへの不安だっただろうな。

二十億光年の孤独に
僕は思わずくしゃみをした

この“くしゃみ”はいろんな解釈がある。
当時もなぜこんなところでくしゃみをするのか、よくわからなかった。

でも、今の私にとっては、このくしゃみは、
「自分ってちっぽけだな」とか「何もできないな」とかちょっとしたことでネガティブ人間になる“孤独”と感じている自分を、「なんでそんなちっぽけなことで悩んでるんだ!」って吹き飛ばしてしまうようなイメージ。

それと、小さな頃の失敗談を面白おかしく話してしまっている時に、過去の私がどっかで「噂されてるじゃん」ってくしゃみしてるのかなって。

✳︎✳︎✳︎

詩だけでもとても心を打たれるけど、ぜひ木下牧子さん作曲による美しい合唱も聴いてみてほしい。

音楽によって、また新たな世界観が見えるから。

https://youtu.be/Qk1y3ZtBE7o


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