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2023年行ってよかった展覧会③~初山滋、武井武雄、竹久夢二

こんにちは。みしまです。
前回に引き続き、昨年、訪れた展覧会で印象に残っているものについて、振り返りたいと思います。

私は、幼少期から絵本が好きで、とくに外国の絵本に魅了されていました。そこには知らない世界があり、ページをめくると、私自身がその世界に入り込めるような気がしていたからです。新しい刺激を与えてくれる絵本は外国の絵本なのだと、いつも心のどこかで思っていたところがあります。

しかし、知らなかっただけでした。

『日本の絵本100年100人100冊』(広松由希子 著/玉川大学出版部 刊)で紹介されている、竹久夢二や初山滋、武井武雄の絵を見たとき、衝撃を受けました。こんなに魅力的な画家たちが絵本の世界で活躍していたことを、私は知らなかっただけだったのです。

彼らの絵は、私にはとっても新しく見えました。対象を描く線や色づかい、そしてユーモアと愛情を感じ、本当にワクワクしました。

今回の記事では、2023年に行った初山滋、武井武雄、竹久夢二の展覧会について書きたいと思います。

①「没後50年 初山滋展 見果てぬ夢」(ちひろ美術館)

初山滋の作品は、まず水彩画の色の美しさに惹かれました。展覧会チラシにも使用されている「はるのはこび」は特に印象的です。幸せしか、そこには存在していないかのような、メルヘンの世界が広がっています。

「初山滋展 見果てぬ夢」展覧会チラシ

ミュージアムショップで購入した『初山滋 永遠のモダニスト』(竹迫祐子 編/河出書房新社 刊)の冒頭に、初山滋が記したこんな一節があります。

私は自分の絵の中に、たのしくねっころがって遊んでいる。(略)
ことばでは言いあらわせぬ絵の中に甘えきれる心、私はいつもその用意をして筆をとる。(略)

『初山滋 永遠のモダニスト』(竹迫祐子 編/河出書房新社 刊)より

絵の中に甘えた心という表現が印象的で、だからあのように幻想的なメルヘンの世界を見せてくれるのだろうと納得しました。特にアンデルセンの童話につけられた幻想的な絵の数々からは、心地よい「甘ったるさ」が感じられ、いつまでもこの甘く優しい世界にひたっていたい、そう思いました。

後日、『にんぎょひめ』を近所の図書館から借りてきて、うっとり眺めました。にんぎょひめが海の上に向かって泳いでいくページが、もう最高に素敵です。

後日、近所の図書館から借りてきた『にんぎょひめ』
うっとり眺めました

初山滋の作品でもう1つはずせないのは『たべるトンちゃん』です。上記で紹介したようなスイートな絵とは違って、とてもユーモラスです。

食べるのが好きで、石炭でもごみでも何でも食べてしまうトンちゃんのお話。すごくシュールですが、絵はとてもかわいらしい。

レイアウトからテキストから、とにかく自由で。なんだかめちゃくちゃなような気がするのに、トンちゃんのかわいらしさにすべて持ってかれてしまいます。とにかくやみつきになりそうな絵本です。

「ビィー、ビィー」「ニャー」などのオノマトペもたくさん出てきて、当時の親子が声に出して楽しんでいたのかなと想像してみたりもします。

『にんぎょひめ』も『たべるトンちゃん』も図書館で借りられると思います。ぜひ読んでみてください。

②武井武雄の世界 イルフ童画館(常設展)

武井武雄の作品を展示する美術館イルフ童画館は、長野県岡谷市にあります。

子ども向けの絵を指す「童画」という言葉は、武井武雄が作った言葉とのこと。また、「イルフ」は「古い」という言葉を逆に読み、「新しい」という意味をつけたのも武井武雄だそうです(信州Museum Guideより引用:https://www.nagano-museum.com/info/detail.php?fno=141)。

イルフ童画館は、館外にも素敵な演出がされているのがまたいいんです。イルフ童画館にちなんで名づけられたという童画館通りは、照明塔や標識の飾りに武井武雄の作品のモチーフが使用されています。

これから夢の国、空想の世界に入っていくんだなというワクワク感を掻き立てられますよね。

そして、館内ではラムラム王がお出迎え。

ラムラム王とは、武井武雄の『ラムラム王』という作品に出てくる主人公です。エッペ国という国で生まれた途方もなく長い名前の男の子「フンヌエスト・ガーマネスト・エコエコ・ズンダラー・ラムラム王」のお話です。表紙とこのあらすじだけで、なんだかワクワクしてきます。

ラムラム王はさて置き、私が気になったのは、「赤ノッポ青ノッポ」という作品。その昔、桃太郎に成敗された鬼ヶ島の鬼たちが、昭和の日本の小学校にやってきていろんな経験をするというお話です。

イルフ童画館の前に展示されている
赤ノッポくんと青ノッポくんのパネル

「赤ノッポ青ノッポ」は、1934年(昭和9年)に東京朝日新聞・大阪朝日新聞に掲載されたお話で、その後いくつかの版元から書籍化されたり、その復刻版が出たりしたようです。私がイルフ童画館で購入してきたのは、当時の新聞切り抜きを元に制作されたトムズボックス版です。

武井武雄の絵文庫3『赤ノッポ青ノッポ』
(武井武雄 作/和田誠 文/トムズボックス 発行)

まずは、赤ノッポくんと青ノッポくんの愛らしいキャラクターに、自然と惹かれていきます。特徴的な顔立ち、バランスの悪い体つき、短すぎるズボン。最初、鬼である彼らを子どもたちは恐れますが、だんだんと馴染んでいきます。学校の先生に校内を案内された際、トイレにむかって「へい これからなにぶんよろしくどうぞ……」と言って、深々とお辞儀をしてしまうような、どうしても憎めないほのぼのキャラの鬼さんたちなのです。

こんなふうに魅力的なキャラクターを生み出せるのはなぜなのだろう。ふっと一瞬でも気をゆるしたら最後、ずんずんと武井武雄の世界に引き込まれていき、魅力のとりこになってしまうのでした。

『ラムラム王』や『赤ノッポ青ノッポ』も図書館で借りられると思います。ぜひ読んでみてくださいね。

③竹久夢二 伊香保記念館(子供絵の館)

伊香保温泉に家族で旅行した際、偶然立ち寄った「竹久夢二 伊香保記念館」。2023年11月のことです。

竹久夢二は、伊香保に住む少女から届いた1通のファンレターがきっかけで、伊香保の地を訪れるようになったといいます。そして、この地(榛名湖畔)が気に入り、アトリエを建てて制作活動をするようになったそう。

竹久夢二といえば、黒髪で首の長いくねっとした女性の絵が印象的で好きでした。子どもの絵もたくさん描いていたことは知りませんでした。

本館の「黒船館」とは別にある「子供絵の館」には、夢二が手掛けた子どもの本の数々が展示されていました。

柿の木の下でたたずむ少女や、金魚売の金魚を眺める子ども、サンタクロースのプレゼントを待つ子どもたちが描かれた絵を見ていると、夢二の子どもへのあたたかいまなざしを感じられるような気がするのでした。

伊香保記念館へ行った翌月、都内のある絵本屋さんで、偶然『どんたく絵本』に出会いました。気に留めていたものに、偶然出会うと運命を感じてしまい、つい迎え入れてしまいます(笑)。

『どんたく絵本』
(竹久夢二 作/どんたく社編・金子書店版/初版本復刻 竹久夢二全集)

『どんたく絵本』は、文字のない版画による絵本。子どもたちが過ごす冬の日の様子が描かれています。

こちらは図書館で借りた『どんたく』です。短い詩のような文章がつけられていて、また別の味わいがあります。

『どんたく』
(竹久夢二 作/日本図書センター 発行)

* * * * * *

年明けから細切れに書き進めていた本記事ですが、気づけばもう2月も半ば過ぎ。この記事を書きながら、初山滋、武井武雄、竹久夢二の作品に触れ、展示を思い出しながら、しばし時間を超えた旅を楽しんだような気分になりました。もっともっと、この偉人たちの作品を知りたくなりました。深く広い絵本の世界です。(おしまい)



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