優しさに包まれる人の闇[映画 アンダーカレント 感想]
真木よう子演じる主人公かなえは両親が営んだ千葉の銭湯を継ぎ、夫(瑛太)と2人で営んでいた。
ある日突然夫が失踪する。
夫の行方が全く判明しないまま半年。
夫の代わりとして知り合いのツテで寡黙な男堀(井浦新)を住み込みで雇うことに。
そんな中かなえの友人ようこの紹介で怪しげな探偵ヤマサキ(リリーフランキー)に夫の調査を依頼することに。
夫は何故失踪したのか。堀が抱える闇とは。
誰もが抱える闇を夫の失踪をきっかけとして、今泉監督独特のリアリティある淡々としたテンポで核心へと迫っていく。と言う話。
非常に良かった。
夫のサトルは妻に嘘をついていた。
事故で幼くして両親を亡くし姫路の孤児院で育ったと言っていたサトル。実際は両親が死んだのは2年前。サトルが上京するタイミングで絶縁状態になっていた。
サトルは嘘に嘘を重ねていた。
作中で明言はしなかったが私は確信している。
サトルはかなこを愛していた。が、その気持ち以外は全て嘘で自分を作り上げていた。
今まで忌み嫌ってきた自らの過去を捨て、愛する人と、生まれ変わった新たな自分の人生を歩みたかったのだろう。
いつしかその嘘で築かれた自分に嫌気がさした。で、逃げ出した。ただそれだけ。
邪推だろうか。いや、きっとそうだと思う。
というのも、私にも似た様な経験というか、サトルのように案じていた時期があるからだ。なので、ただならぬ思いで終始サトルの思いに感情移入してしまった。
今作では作中の登場人物が皆誰にも言えない闇を抱えている。
ヤマサキとかなえのやり取りで、かなえが少なくともあなたよりは夫を分かっています!と強く断じた際のヤマサキのアンサーが印象に残っている
「人をわかるって、どういうことなんでしょうね」(うろ覚えだから少し違うかも)
私だけあなたの味方だから。何でも相談して。
そんな言葉は当てにならない。
どんなに複雑な電子構造よりも複雑な人体。
2000年の叡智を持ってしてもいまだに解読できない人体。
それを高々20.30年生きた我々が理解することなど不可能なのだ。
誰もが闇を、濁り切った禍々しい色のアンダーカレントを、その心の根底に抱えている。
貴方の恋人や家族、嫌いなあいつや、非難轟々の著名人ですら。
この映画を見た後、他者に対して、誰もが少し優しくなれるのではないだろうか。
そんな優しい素敵な映画だと思う。
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