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読書感想文 [汝、星のごとく 感想]

 浮気が錯綜する、ありがちでなかった、愛の形から人間の本質を解放していく。


 舞台が瀬戸内海、愛媛。今治の隣にある田舎も田舎の島。


 男に依存するシングルマザーと男を変えると同じく住まいも変えながら暮らし、親からの愛に飢えた、どこか大人びた奈良からの転校生であり主人公櫂。


 同じ島内で父が堂々浮気。その浮気に何も言えず与えられた日々を粛々と過ごすのみの母。そんな家庭で育った暁美。



 2人は生まれながらにして家庭環境という足枷を引きずりながら生きてきた。
 そんな2人が様々な愛の形を知り、決断すべき人生の節目を知っていく。


 あの時ああしていれば変わっていたのだろうか。何を大切にして、何を捨てるべきなのか。そんな誰もが悩む決断の瞬間を2人の人生にフォーカスし、それぞれの視点から交互に、時系列と共に追っていくストーリー。


 特に印象的だったのは、まだ高校生の若い2人の指南役として度々登場するキーパーソンが暁美の父の浮気相手である瞳子と、2人が通う高校の化学担当の教員北原先生であるという点だ。


 この2人は島民から見れば、この作品で言い換えるならば世間から見れば後ろ指を刺されるような愛の形を育んできた。瞳子は先述した通りだし、北原先生は教え子と子供を作り離婚し娘を男で1人で育てている。


 そんな除け者の2人が櫂と暁美のフィルターを通せば、自ら生計を立て、自らで未来を切り拓いた立派な大人として映るのだ。


 バイキンマンにだってホラーマンという忠実な部下がいる。
 佐々木希はまだ渡部を大切にしている。


 世間が悪とする人は誰かにとっての掛け替えのないスペシャルワンなのだ。

 また、世間の声なんてものは本当に当てにならない。この瞳子と先生を通した2人の関係性を読み終えた後だとそれを強く感じた。



 自然と離れていったいつかの友人、いつかの恋人。SNSで見る彼らは全く別人のようで、実際に会ったとしてもどこかあの時とは違う。食い違う、そしてすれ違う。それは当たり前なのかもしれない。


 全く違う人と触れ合い、違うものを愛し、見て聞いて。そうして再び会ったとしても話が合う事の方が少ない。それは当たり前なのだろう。そんなことも思った。


 瞳子のセリフでこんなセリフがあった。


 「誰のせいにしても納得できないし救われないの。誰もあなたの人生の責任を取ってくれない」

 17歳の暁美に瞳子が放つなかなかに強烈なセリフ。

 家庭を奪い、周りから蔑まれても愛する人を選び、そして自らは刺繍で生計を立ててきた瞳子が放つ言葉に纏う説得力は不思議な力がある。

 最後の最後に決めるのは自分。自分を救うのも自分。その気持ちは心の奥底に常に備えていなければならないのかもしれない。



 情景表現も異様なまでに美しく、難解な比喩もない。納得の本屋大賞大本命からの受賞である。



 この作品は、浮気の話だからと安易に避けられるのではなく、万人に届いてほしい。というか届くべきだ。

 愛の形の正誤を問うのではなく美しさ、必要性を問うて欲しい。

 決して届く事のない愛の本質に少しでも届きそうな気にさせてくれる。そんな本だと思う。

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