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貴方がいなくても、誰かの時は進み続ける。[桜のような僕の恋人 感想]

これって、、、中島健人だよな、、?

冒頭から確信が持てなかった。

画面に映るのは確かにあの中島健人で間違いないのだが、それでいて、まるで違う。間違いなく朝倉晴人でもあるのだ。普段華やかな彼からは想像できない、いい意味での地味さが完璧に醸し出ていた。冒頭から中島健人くんの魅力に惹きつけられて離されなかった。

物語中盤までは恋愛ものとしては順調に進んで行く。
しかし中盤、美咲が難病にかかり、急変していく。

急激に老いが加速し、体の免疫も低下していく美咲は、心身ともに疲弊し、迷惑をかけまいと晴人に別の想い人がいると嘘をつき、別れを告げた。

事情を知らない晴人は、突然裏切られたと悲しみに暮れ、徐々に美咲のいた人生と決別をする。

美咲のいない、美咲に裏切られた人生が動き出す。

そして、なんやかんやあり晴人は真実を知る。

美咲に会いに行くが、衰弱しきった惨めな姿を見せたくない美咲は晴人と面会することを拒み続ける。

そして美咲の衰弱は進行し続けた。

終盤。美咲は最後の力を振り絞り、晴人の写真の個展へ赴くが、その帰りに力尽き、雪の積もる真冬の道端で倒れてしまう。

そこへ晴人が駆けつける。安堵する美咲。
しかし、晴人は衰弱し見た目が変わり果てた美咲に気付けず、見知らぬ老婆として接してしまう。
美咲はショックを受けるが、全てを察し、涙を堪えつつ、笑顔で礼を告げる。晴人は目の前にいる本当の美咲を背に、自分の知る美咲を探しに去っていってしまう。

晴人は葬儀でこの事実を知る。

その悲しみを胸に写真を撮り続ける晴人のシーンがラストに来て物語は終わる。

晴人の、純粋で、辛い経験からくる弱者に寄り添える姿勢があるからこそ、美咲に気付けずにすれ違うシーンは、胸が締め付けられるような悲しいシーンだと思う。

だが、この時、美咲の表情は非常に晴れやかだった様にも見える。美咲は自分のいない時間を生きる晴人の姿を想像し、安心していたからこそ晴れやかな表情だったのではないだろうか。

現実世界において、例えば貴方が今世紀最大の恋をした彼氏彼女と別れることがあって、それでも貴方の人生は動き続けるし、彼氏彼女もそれは同様であろう。美咲に残された晴人のように。

だが、今世紀最大の恋の中で忘れたくても忘れられない、捨てたくても捨てられない、幾つもの時間と思い出が存在する。

彼氏彼女がいなくなろうとも、それらを抱えてこれからも人生は進み続けるのだ。

そしてその事実は時として非情になり得るが、かけがえのない大切なものにもなり得るのではないだろうか。晴人が美咲を忘れられずに、シャッターを切り続けていることのように。晴人はきっとそんなかけがえのないものを抱えながら、レンズ越しに自分にしか表現し得ないものを表現していたからこそ、作品に尊さが宿り、唯一無二の作品として彼の作品は輝いていたのではないか、と私は思う。

私や、貴方がいなくても、誰かの時は進み続ける。それはきっと元から自分なんて存在しなかったかのように進み続けるのかもしれない。
しかし、貴方が残した時間や想いは確実に誰かのフレームに残り続け、良くも悪くも、今も影響を与え続けている。これは確実に、だ。
出会った人を綺麗さっぱり忘れることができるように人は作られていないのだから。

以上。

中島健人くんこれからも応援したいと思います。

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