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集団は差異を、異質を嫌う[イミテーションゲーム 感想]

 87点 
大変見やすく、だからこそ様々な角度から見れる。カンバーバッチの圧巻の演技。素晴らしいノンフィクション


 第二次世界大戦真っ只中の1939年イギリス。対するはヒトラー率いるナチス軍。戦況はややナチスに傾きつつあった。イギリス軍は戦況を覆す一手としてナチス軍が作戦決行時に伝令として用いる解読不可能と言われる「エニグマ」を解読し、事前に作戦を防ぐべく奮起していた。

 主人公アランチューリングはエニグマ解読のためイギリス軍により雇われた精鋭チームのうちの1人であり、天才数学者。

 エニグマは約24時間ごとに新たなコードへと変更するため、軍は効率よくチームで取り組むよう命じていた。

 アランは生まれながらに天才的な発想や数学においての才能と引き換えに、周囲との差異や、集団への適合難など天才学者にありがちな欠点を漏れなく持ち合わせていた。

 なのでもちろん集団で仲良くというわけには行かず、1人で効率よくエニグマに対抗すべく、エニグマ解読用のマシンを作成する。

 まず、この天才学者ならではの苦悩。これはフィクションに囲まれて育った日本人なら誰もが馴染みあるもの。しかし何度見ても悲痛な人生の道程に同情してしまう。

 今作でもアランは回想の学生時代にて、床の板を剥がされ、アランを床の下に入れ、その上から蓋をするように板を釘打ちし閉じ込めるという令和のいじめっ子顔負けの仕打ちを受けている。

 人は違和感を嫌う。それは人間関係でも同じだ。集団にて周りとの差異を感じたらば排除することを好む。いじめはそうして怒るのだ。
 アランは過去のいじめを通して得た教訓から作中でこんなセリフを放っていた

 「人は暴力を振るう時、気分が良くなっている。だから暴力を振るう」

 自分が居やすい場を築くために、より良くするために暴力に訴える。論理的な思考で物事をスムーズに思考できるアランだからこそ、経験してきた悲痛な過去。そんな過去を踏まえた悲しいアランのセリフは説得力が違った。

 この作品の素晴らしいところは、他にも沢山あった。作中後半にアランが同性愛者であることが判明する。同性愛が軽視され犯罪とされていた時代において、ジョーンのようにアランを、同性愛者を蔑視せず、愛の形でその人自身を判断しない人も当たり前のようにいたということを映画を通して伝えている。これは同性愛どうこうを超えて、人を見る本質を考えさせられる素晴らしいアイデアだと思う。

 作中最後にアランの開発したチューリングマシンは現代において、我々が日々触れているコンピューターの礎である事が語られる。

 私は軽薄ながら全くこの事実を知らなかったた。知らずに視聴したため、作品の最後にアランの産物が現代にもこうして私の元に届いている事に大変感動した。

 孤独の中で戦い、己を世間に否定されたアランが、こうして没後全世界に日常として当たり前のように肯定され、目に見える形として受容され続けている。彼の努力は日々報われ続けている。今こうして私がiPhoneに向き合っている行為そのものが、1人の偉大な学者の人生を肯定し続けているという事なのだ。

 当たり前は当たり前ではない。今存在する常識も、少し前の時代では異常そのものだった。人は異質を嫌う。排除しようとする。万人が気分が良くなる社会へ導くために。

 貴方が今手にしている幸せは、こうして嫌われて、異質と言われたものが、異質である事を厭わず、孤独を戦い勝ち抜いた戦果の上に成立している。

 皆が異質であれ。とは言わないし、私も私が生きやすい様に、なるべく迎合しようと日々努めている。

 時として誰もが想像しない様な人物が誰もが想像しない様な偉業を成し遂げる。

 アランが普通でなかったから、世界は今日もこんなにも素晴らしいのだ。

 その事を忘れない様に私はiPhoneでこの文章を打ち終える。

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