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静けさを愛する人。


気温を見て今日も暖かいだろうなんて、とんでもなかった。
とんでもなく、寒い日だった。


朝、家を出る前に念のため天気予報をもう一度見て、ベンチコートを持って出たのは正解だった。
雲ばかり、強風。体感温度、低すぎ!


終わって全身砂まみれ、
そして気持ちも靄まみれ。(…もやもやもや…)

どこにもやり場のない思いを抱えきれず、何も手につかなくて、誰かにわかってもらいたくて、LINEに言葉を打つ…

あの人に打っては思い直して消し、
あの人に打っては思い直して消し、

こんなこと言われても困るよね、
嫌な思いさせちゃうよね、
と結局思いはどこにも逃げられないまま。


でもそんなことを繰り返したあげく、結局、いちばん立場の近い友人に、ぼそぼそとこぼしてしまう。

誰が悪い、という話になるからよくないよね。
何のためにやってるのか、何がよくなかったのか、そこが大事だよね。



ありがとう、正解だった。
できるだけ、物事を公平に、いくつもの角度から見ることが大事だ。

ひとしきり、うーーーっと唸ったあと。
早い時間にお風呂に入って、埃っぽさも、もやもやも、洗い流した。




最近、お風呂の中で、「博士の愛した数式」を読み返している。

これも、一度買って読んで手放して、またやっぱり読みたくて買って読んで、ずっと静かに本棚に納まっていたものだ。


久しぶりに読んで、かつて私がこの本をやっぱり手元に置いておきたい、と思った理由がはっきりと思い出された。


正解を得た時に感じるのは、喜びや解放ではなく、静けさなのだった。あるべき場所に納まり、一切手を加えたり、削ったりする余地などなく、昔からずっと変わらずそうであったかのような、そしてこれからも永遠にそうであり続ける確信に満ちた状態。博士はそれを愛していた。


小川洋子さんの書く物語の、静けさが好きだった。
たっぷりと水をたたえた湖のような、濃く深い静けさと余韻をもつ物語。
寒色なのに、あたたかく、ひたひたと愛に満ちて、ときに泣きたいような気持ちになる。

私は数学がずっと苦手だったけれど、これを読んで、その美しさに魅了され、憧れた。(依然、苦手なままだけど。)


そして先日また、古本を5冊ほど手に入れた。
うち未読1冊、既読3冊、あとの1冊は図書館で借りて読んで途中で脱落したもの。
それが、小川洋子さんと堀江敏幸さんによる「あとは切手を、一枚貼るだけ」。


堀江さんも好きな作家さんなのに、数年前、これを読み切ることができなかった。


旅に出るときの本として買った。
もう一度、静かに、ゆっくり、読んでみようと思っている。





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