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【短編小説】情熱の炎

#短編小説 #一次創作 #情熱の炎

「君の事が好きなんだ!」
愛華あいかさんは呆れた顔をしている。僕が愛華さんに告白するのはこれで3回目だ。3回目もフラれるのか……。と思っている。
礼二れいじ君……。君は何度フラれたら気が済むの?」
 やはりフラれた。3回目もだめか……。でも、諦めたくない! 僕は25歳で愛華さんは26歳と1つ年上。

 彼女は凄く魅力的。モデルのような体型をしている。程よく痩せていて、締まる所は締まっていて、出る所は出ている。正直、愛華さんの体を見ていると、ムラムラしてくる。だから、やましい気持ちが無いと言えば嘘になる。

「礼二君。いつまであたしを追いかけるつもりかな?」
「何度かは分からないけど、今の所諦める気はないよ」
 愛華さんは笑いながら話している。
「なかなかしぶといね」
 それに対し僕は、
「そこが僕の良い所だよ」
 と言うと、
「自分で言ってるし」
 そう突っ込まれてしまった。

「誰か他にいい子いないの? あたしなんかよりもっと純粋な子とか」
 彼女の「純粋な子」という言葉が引っ掛かった。
「別に純粋が1番いいとは限らないよ」
「それはそうだけどさ。あたしの友達を紹介しようか?」
 また、引っ掛かることを言われた。
「友達を紹介しようか?」
 という部分。
「必要ないです。僕には愛華さんしか見えてないので」
 何となく迷惑そうだ、なので訊いてみた。
「迷惑?」
 彼女は困った顔付きになった。

「迷惑ではないけれど、意味のないことを繰り返しててもいいのかな、と思ったの」
「意味のないこと?」
「うん、あたしはいつまで経っても礼二君と付き合うことはないと思うから」
 随分、はっきり言うんだな。僕はショックを受けた。それと共にムカついた。
「畜生! そんなにズバッと言うことないだろ! ムカつく!!」
「はあ? そんなこと言われる筋合いはないよ! それにムカつくのはこっちの台詞だよ!!」

「ごめんなさい……。つい、感情的になってしまって……」
 僕は素直に謝った。
「礼二君、謝れるのね。誤解してた」
 そう言われてまたムカついた。
「謝れるよ! それくらい僕にだってできる!! あ……。ごめん、また感情的になってしまった」
 愛華さんは溜息をついた。ちなみに今は僕の黒い車の中にいる。僕は、
「溜息つかないでよ、悲しくなるよ」
「貴方がすぐにキレるからよ」
「貴方って。名前があるんだから名前で呼んでくれよ。何か水臭い感じがする」
「そう? そんなことないと思うけど」

 僕は寂しい気持ちに襲われた。やっぱ、無理なのかなぁ、愛華さんと付き合うの。それと共に、悲しい気持ちも湧いてきた。どうしよう、泣きそう……。この僕が泣くなんて。

 涙が溢れてきた。バレないようにと思い堪えたが、無理だった。彼女は僕の情けない姿を見て驚いていた。
「ちょっとやめてよー、何で泣くの?」
 後部座席に置いてあるボックスティッシュを取り洟を思いっきりかんだ。更に涙も拭った。
「く、悔しくて……。3回もフラれて、挙句の果てに冷たくあしらわれて……。悲しいよ……。僕、帰るわ。おくるよ」
「わかった、元気出してよ」
 僕は返事をしなかった。嘘でも笑顔を見せることはできなかった。愛華さんは何も言わず黙っていた。

 10分くらいお互い無言のまま車を走らせ、彼女のアパートに着いた。駐車場の前に停めて、
「じゃあな」
 と僕は素っ気なく言った。
「はい、じゃあね」
 愛華さんは苛ついているように感じた。でも、こんな状態でもまだ彼女のことは好きだ。この気持ちどうしたらいいんだろう……ぐちゃぐちゃで収集がつかない。

 言葉は悪いけれど、今の僕は、『女の腐ったの』みたいな状態だ。一晩眠ったら気持ちも元に戻っているかなぁ。僕は結構ウジウジしているから、一度好きになったら情熱の炎が消えるまでややしばらく時間がかかる。

 僕は好きになるのは早いけど、冷めるのは遅い。だから、愛華さんを諦められない。僕はそういう性格だ。

 彼女を目の前にして「諦める」と言うのもしゃくだし。かと言ってこれ以上アタックしても受け入れてもらえないだろう。逆に嫌われてしまう。それは避けたい。僕のことを好きじゃなくても嫌いでなければいい、今はそれしかない。

 今は8月。クリスマスまでに彼女を作りたい。好きな人と一緒に聖夜を過ごしたい。でも、それは愛華さんではない。でも残念とは思わなくなってきた。少し気楽。ぞっこんだった頃は振り向いてくれないので辛かった。

 今は自分のアパートで独りでいる。寂しい。でも、もう愛華さんが隣にいなくても大丈夫。だんだん気持ちに変化があらわれてきた。好きなバスケットボールをしようと思いたち、高校の頃同じバスケ部だった仲間にメールをした。

 まずは怜人れいと。24歳で1つ下の後輩。身長は190cmで今は銀行員をしているはずだ。辞めていなければ。
<こんばんは! 久しぶり。何してた?>
 
 今は夜七時過ぎ。怜人は仕事を終えて何をしているだろう。

 次にメールを送ったのは太吉たきち。25歳の同級生。こいつも身長
は高く、195cmだ。ちなみに僕は193cm。太吉にも同じ内容のメールを送った。すると15分くらいして太吉からメールがきた。
<俺、転職したんだ。カラオケボックスに。だから8時から仕事なんだ。何か用事あったか?>
 そうなのか、アイツ転職したのか。通りで連絡こないわけだ。
<怜人と太吉と僕でバスケしないかと思ってさ。でも、仕事ならまた今度だな>
<怜人! 久しぶりに聞いたな。アイツのことだからきっと元気にしてるんだろうな>
<多分な。怜人にもメールしたけどまだ返ってこないんだわ>
<そうなのか、また今度連絡くれ。3人の都合がいつ合うかわからないけれど>
<まあ、そこは上手い具合に調節するよ>
<わかった。俺は昼間か休みの日じゃないと無理だわ>
<わかった>
 とりあえず太吉とのやり取りは終わった。

 後は、怜人のメール待ち。なかなか彼からメールがこないので、僕は買い物に行くことにした。今日の夕食と明日の朝に食べるパンを買いに。

 立ち上がろうとした時、メールがきた。怜人からか? スマートフォンの画面を見ると、メール1件、と表示されていた。開いてみるとやはり怜人からだ。本文を見てみた。
<こんばんはっす。夕ご飯食べてましたよ。久しぶりっすね!>
 僕はすぐにメールをした。
<そうか、太吉と3人でバスケしようと思ったのさ>
 ご飯食べているからか、返信が遅い。まあ、仕方ない。そして30分くらい経過してから怜人からメールがきた。
<おお! いいっすね! しましょう>
<さっき太吉からメールがきて、カラオケボックスの仕事をするようになったから夜は遊べないらしいんだ。それか、休みの夜ならいいけど、という話しなのさ>
 更に30分くらいしてからメールがきた。
<そうだったんすね! 最近、太吉さんとも連絡とれてなかったから全然知らなかった>
<今度、予定を調整してバスケやろう>
<わかりました>

 彼女かぁ。ふと、愛華さんのことが頭をよぎった。完全に吹っ切れたわけじゃないけれど、大分、落ち着いてきた。彼女がいないって思うと寂しい。
 怜人に女の子紹介してもらおうかな。太吉は夜忙しいから会えないだろうから。

 もう一度怜人にメールを送った。
<別件なんだけど、僕、好きな人に3回もフラれてさ。もうこれ以上告白しても無理だろうから、誰かいないかと思って。怜人、女の子紹介してくれない?>
 メールは少ししてからきた。開いてみると怜人から。
<それはおれが紹介してもらいたいくらいですよ。今度、呑みに行って可愛い子探しますか?>
 呑み屋か、その手があったな。でも、僕は人見知りだしな。どうしよう。
<呑み屋はやめておこうかな。僕、人見知りだし>
<そうだったんですね、意外。そんな感じはしないけど>
 僕は正直にメールを打って送った。
<男なら何とか話せるんだけど初対面の女は慣れるまで時間がかかるのさ。そうこうしている内に女はいなくなってしまうという感じなんだわ>
<そうなんすね。じゃあ、どうしよう>
<彼女いないのは寂しいけれど、焦ってもよくないからここは我慢するしかないかな>
<そうですね、こればっかりは縁だから>
<そうなんだわ、縁だから無理して探しても、いい結果は得られない気がする>

 メールは一段落し、とりあえず入浴することにした。僕は体を洗いながらどうやって彼女を見付けよう? と試行錯誤していた。世の中男と女しかいない。だからいずれ相手はみつかるはずだ、と祖母は言っていた。そうかな? と疑問に思った。それなら、とっくの昔に彼女はいるはずだが。でもいないということは、祖母の言う説は間違っているということになると思った。それを、祖母に言ってみた。すると、
「いずれ彼女ができるという話しだよ。あくまでも、いずれ」
「なるほどね」

 祖母の意見はおおいに参考になった。さすが人生の先輩。祖母は可愛いと思うがそればかりではないようだ。因みに祖父は僕が小学校3年の時、肺ガンで亡くなった。残念ながら祖父との思い出はあまりないから記憶も少ない。だから何歳で亡くなったのかも知らない。訊いてもいないし。

 夜も更けた頃、一通のメールがきた。こんな時間に誰だろう? そう思いながらメールを開いた。相手は、怜人からだった。どうしたのだろう? 見てみた。
<礼二さん、お疲れさまです。相手を紹介できない代わりに趣味コンと言うコンパがあるらしいです。ネットで見付けました。なので、探してみて下さい。礼二さんの趣味と合うコンパがあればいいのですが>
 僕は彼の誠意を感じた。紹介できないのはただ相手がいないだけなんだから、そんなに強い責任感を持たなくてもいいのに。でも、そういう真面目なところが僕は好きだ。好きと言っても勿論、人としてという意味だが。それに僕に対しての情熱も感じる。これもまた人としての情熱。

 僕の好きなことは読書。読書好きが集まるコンパはあるのだろうか。探してみよう。
「読書の好きな人集まれ!」
 というコンパがあるけれどお金がかかる。男性は7千円、女性は3千円。お金がかかるとは思ってなかったし、しかも高い! さて、どうしよう。僕の安い給料では厳しい。因みに僕はコンビニのパート店員をしている。最低賃金で働いている。自分の将来の為にはお金が必要だ。もう1つパートで働こうかな。掛け持ちというやつ。

 前にも掛け持ちの仕事をしたことはあるが、環境が変わるせいなのか疲れる。そして結局どちらの仕事も辞めてしまったことがある。だから同じことを繰り返さない為にもう掛け持ちの仕事はしないと決めていたのだった。忘れていた。今のコンビニの仕事は慣れているし、人間関係も良好だから辞めたくない。ていうことは掛け持ちの仕事はしないということだ。

 でも、今の給料じゃあ、彼女にご飯も奢ってやれない。以前、太吉と話していた時、彼女にご飯は奢るか? それとも折半か? という話しになり全て奢らなくてもいいのでは? と彼は言っていた。理由は全て奢るのは負担が大きいからというもの。確かにそれは言えてる。太吉の言っていることが世の中に通じるものなら僕は転職しなくてもいいということになる。負担が彼氏だけにのしかかるのはきつい。いくら彼女でも、収入に応じてだが限度がある。

 まあ、現実はこれだけの収入だからサボって休んでいるわけでもないので仕方がない。割り勘でもいいという彼女を探そう。

 まずは貯金しよう。月に数千円でもいいから地道に貯めることにする。貯めたお金で好きになった相手にアクセサリーでも買ってプレゼントしようかな。

 毎日彼女になった人と会わなくてもいいし、会ったとしても毎回外食しなくてもいい。僕は1人暮らしだけどできれば1人暮らしの彼女のアパートで手料理を食べたい。でも、こればっかりは1人暮らしの彼女と出逢うかどうかは分からない。そういう女性と知り合えばいいなぁ。

 太吉には紹介できる女性がいるかどうか訊いてない。僕が太吉が夜の仕事だから勝手に紹介は無理だろうと思っただけ。訊いてみる価値はある。今、彼は仕事中だろう。何時まで仕事か分からないが、メールは送っておこう。
<オッス! ちょっと訊きたいことがあってメールした。太吉は僕に紹介できるような女いるか? いたら紹介して欲しくてさ。独りじゃどうも寂しくて>

 太吉からのメールは夜中の3:16と表示されていた。でも、僕は既に寝ていた。それは朝になって気付いた。彼からのメールはこういう内容だ。
<まあ、いないわけじゃないぞ。礼二が気に入る女かは分からないけど>
 僕はすぐにメールを返した。
<そうか。まあ、会ってみる価値はあると思うけど>
 それからのメールは数時間後にきた。夜中働いているから昼間に寝ているのだろう。

<気の強い女ばかりだからな。その中で1人紹介するよ。この話に乗るかどうかは分からないけれど>
<わかった>
 その女にメールを送っているのだろうか、メールがストップした。まあ、急ぐこともない、あんまりしつこくメールするのは太吉も嫌がるだろう。
 そう思いメールはしなかった。

 太吉からメールがきたのは午前11時過ぎだった。僕は仕事中で気付いたのはお昼休みの時だった。本文を読んだ。
<今、起きた。女友達からはまだメールは返ってきてないわ。もう少し待ってくれ。悪いな>

 仕方ないなと思った。女は気が変わりやすいから僕と会うのもやめたのかもしれない。

 仕事が15時に終わって帰宅した。スマートフォンをバイブにしてあったので着信音が鳴らないから気付くのが遅れた。自分の部屋ですぐに開いた。相手は太吉から。
<女友達からメールがきたぞ。その子は綿子わたこっていうんだ。会ってもいいらしいぞ>
<おお、そうか。いくつの子?>
<確か30代だったはず。32くらいかな>
<マジか!>
 僕は内心おばさんじゃねえか、と思った。勿論、口には出していない。
<礼二や俺より7つ上だな。それでもいいか?>
 嘘をついても仕方ないから正直に話した。
<できれば年下か年の近い年上がいいな。でも、折角会ってくれるんだから会うよ>
<無理しなくてもいいんだぞ? 断るなら断るで>
 僕は少し考えた。
<いや、会うよ>
<そうか、わかった。メールしておくわ>
<ああ、頼むよ>

 夜になり、夕ご飯を食べた後、僕は自分の部屋でスマートフォンを見てみた。あれから太吉からメールはきていない。どうなったのだろう。

 不意にスマートフォンが鳴った。メールだ。相手は何と、愛華さんからだ。僕は嬉しくなった。彼女からメールをくれるなんて。
<礼二、最近メールくれないじゃない。あたしのこと嫌いになった?>
 何を言っている。僕のことを相手にしないのは愛華さんの方だろう。嫌いになんかなっていない。彼女の存在はまだ僕の心の中にいる。それを消す為に別な人を好きになろうとしているのに。僕だって苦しいんだ。そんなことも分からないのか。いつからそんなに馬鹿になった? いつからそんなに自己中になった? そう考えていくと呆れてきた。メールは返した。
<嫌いにはなってないよ。受け入れてくれないのは愛華さんの方だろう>
<ごめん、今頃になって礼二のことが気になってきた。今から会える?>
 会って何をする? 何を話す?
<会えるよ。愛華さんの部屋でもいいの?>
<いいよ、待ってる>
<わかった>

くしで髪の毛を鏡を見ながらとかし、部屋着からブルージーンズと青いTシャツに着替え一応、母に「出かけて来る」と言って家を出た。
「どこに行くの?」とは訊かれなかった。いい塩梅あんばいだ。

 10分くらいで愛華さんのアパートに着いた。車をいつもの場所に停め部屋のチャイムを鳴らした。すると中から彼女の声が聞こえた。
「はーい!」と。
「礼二だけど」
 そう言うと鍵が開く音が聴こえた。笑みを浮かべながらドアが開いた。
「ども」
 僕が言うと、
「こんばんは。急に呼び出してごめんね」
 大したことではない。
「大丈夫だよ」
「そっか、ありがと。入って」
 促されて入った。久しぶりに入った彼女の部屋は綺麗に整頓されていた。 僕は「ソファに座っていい?」と訊いた。「うん、いいよ。楽にしてて」
 すぐに来たので何も持って来なかった。その旨を伝えると、
「うん、大丈夫だよ。あたしの部屋にも飲み物はあるから。何がいい? コーヒー、紅茶、グレープジュースの中から選んでもらえる?」
「じゃあ、グレープジュースで」
 愛華さんは冷蔵庫からグレープジュースとアイスコーヒーを出してグラスに注いだ。
「はい」
 と言ってグラスを渡してくれた。
「ありがとう」
「いいえ~、来てくれてありがとう」
「いいや、それはいいけど」
 と言って黙ると、彼女は僕の顔をまっすぐに見つめた。そして、こう言った。
「今更ながらに礼二君の気持ちに気付いたの。貴方から連絡がこなくなってその大切さに気付いた。こっちの都合で申し訳ないと思う。でも、もし、よかったらあたしと付き合ってくれる?」
 意外な告白だった。でも、僕は受け入れた。
「いいよ、付き合おう!」
「ありがとう! よろしくね!」
「こちらこそ」
 こうして急な彼女の告白に驚いた僕だが付き合うことができて何よりだ。太吉に紹介してもらう予定の綿子さんという女性は彼に断ってもらおう。会ったことがある訳じゃないから問題ないだろう。

                                                                                                          終

 

 

 

 



 


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