#短編小説 #一次創作 #女好き

僕は隙をみて彼女にキスをした。すると、

「ちょっと、何すんのよ！」

　と言われ、ビンタされた。

「痛っ！　叩くことないだろ！」

「悪いのはあんたよ！」

　俺をビンタした女は合津清美あいずきよみと言い、十九歳。ビンタされた俺は竹田翔太たけだしょうた、二十歳。大の女好き。

　俺は狙った獲物は逃がしたことはない。でも、清美はなかなか落ちない。ガードか固いというか。こんな女は初めてだ。俺に興味がないのか？　いやいや、そんな訳がない。女から嫌われる時は別れたあとだ。

　日本は一夫一婦制だが、一夫多妻制ならいいのに。いつもそう思う。そしたら、とっかえひっかえ出来るのに。

　俺は一人の女だけと付き合うのは物足りない。必ず浮気する。それがバレていつも別れる。原因はそれだ。

　清美に会いたくなり、メールを送った。

〈清美、今から会わないか？〉

　今の時刻は二十時三十分頃。

　彼女と体を重ねた事はまだない。だから、今夜辺り寝とってやろうと思っている。メールは少ししてからきた。

〈会ってなにするの？〉

〈おしゃべりだよ〉

〈じゃあ、喫茶店に行かない？〉

〈清美の部屋でいいだろ〉

　彼女は一人暮らしをしている。俺も同じだが。

〈また、いやらしい事考えてるんじゃないの〉

　図星だ。だが、俺は嘘をついた。

〈そんなことないって〉

〈そんな事あるのが、翔太なんだよな〉

〈別にいいだろ？　お互いフリーなんだし〉

〈ほら、やっぱり！〉

〈じゃあ、会えないのか？〉

〈別に来てもいいけど。おしゃべりだけなら〉

　そんなんで終わらせない、と思いつつ、

〈それでいいよ〉

　と俺は言った。

　今は夏だから、赤いＴシャツに黒いハーフパンツを履いて、煙草と財布、スマホを小さな布の袋に入れて、鍵を持って部屋を後にした。

　車に乗り、煙草に火を点けた。それから発車した。

　十分くらい走り、清美の住むアパートに到着した。車から降り、清美の部屋のチャイムを鳴らした。中から彼女の声が聞えた。

「はーい！」

「俺だ」

　ガチャリと鍵が開く音が聴こえて、ドアが少し開いた。

「翔太？　いらっしゃい」

「ずいぶん警戒するんだな」

「うん、それにはわけがあってさ。昨日、警察の人が来てついこの間、強姦事件があったらしいの。それで気をつけろってさ」

「こんな住宅街でそんな事件あるんだな」

「そうみたい。だから、チャイムが鳴ってもすぐにはドアを開けずに誰なのか確認してから開けなさいって言われたわ」

「なるほどな」

「まあ、入って」

「ああ」

　しかし、今夜も暑い。熱帯夜というやつか。暑くて寝られないかもしれない。

「酒買いに行かないか？」

　彼女は、

「来る時買って来てくれればよかったのに」

「いや、おまえがなに呑むかわからなかったから」

「前回呑んだときと同じでよかったのに」

　そうか、失敗したなと思い、

「俺、行ってくるわ」

「あたしも行くよ。ひまだし」

「そうか、じゃあ俺のベンツに乗ってくれ」

「ベンツ……。どこをどう見たらベンツなのよ」

「まあ、そう言うなよ」

　清美は笑っている。俺は高校のころ、バイトをし、自分で車の免許を取得した。清美も金ためて免許とればいいのに。以前、そう言ったら彼女は怒った。やりくり大変なんだから、と。まあ、確かにそうだろう。介護士は給料やすいから。俺の体型はほそいけれど、力はある。だから、土木作業員をしている。あきらかに介護士より給料はいい。

　俺と清美は外に出て、車に乗った。清美は助手席に。こうして端からみるとカップルだな。俺はそう思った。

　明日は日曜日だから俺はやすみ。清美はどうなんだろう。訊いてみるか。

「なあ、清美は明日やすみか？」

「やすみだよ。久々に日曜日がやすみ」

「そうか。ならゆっくりできるな」

「そうね」

　コンビニに着いて車を駐車場に駐車し降りた。すぐ来るから施錠せずに店内に入った。これが、油断大敵、というやつ。三百五十ミリの六缶パックのビールをかごに入れ、酎ハイも六本入れた。あと、珍味を三つと俺の食べるカツ丼と清美が食べるそうめんをかごに入れ会計は折半にした。会計を済ませ車に戻ると清美は声を上げた。

「あれ？　あたしのバッグがない」

「え！　マジで？　あ、ほんとだ。ない！　うしろは？　ないか」

「もしかして車上荒らし？」

「そうかもしれない。警察に通報しよう」

　俺は一一〇番通報した。

　話しを終えて十分もしないうちにパトカーがやってきた。

　俺と清美はそちらのほうを見ていた。俺の横にパトカーが停まった。赤色灯が鮮やかに回っている。警察官は二名いて、そのうちのぽっちゃりしたほうが俺に話しかけてきた。

「竹田翔太さん？」

「はい」

　四十代くらいの警察官が言った。

「なくなったバッグは車のなかに入れておいたの？」

「はい」

「彼女のバッグかな？」

「そうです」

　清美が返事をする。

「どんなバッグ？」

「黒と白の模様になったバッグです」

「ちょっと書いてもらいたい書類があるから、パトカーに乗ってもらえる？」

　俺は躊躇したが、素直に乗った。なんだか俺たちが悪いことをしたみたいだ。

　俺と清美はパトカーの後部座席に乗り、

「彼女のものだから彼女に書いてもらおうかな」

　クリップボードに書類が一枚挟んであり記入していった。

　書き終わってもう一人の警察官は、

「じゃあ、書きものはこれでおしまい。降りていいですよ」

丁寧な言葉遣いだ。ぽっちゃりした警察官とはちがう。

「かならず見つけてください。彼女がばあちゃんにもらったものなんだ」

「わかったよ。全力はつくすから」

　清美は、

「よろしくお願いします」

　と頭をさげた。

　こうして警察官は去っていった。

「見つかるかなぁ……おばあちゃんがあたしのために作ってくれたものなのに」

　清美はテンションが下がってしまった。

「俺がちゃんと車に鍵かけておけばこんなことにはならなかったのにな、すまん」

「最悪見つからなかったら買うからいいよ。仕方ない」

「とりあえず帰って呑もうぜ！」

「うん」

　避妊具はたばこなどを入れた小さめの布の袋に一緒に入れており、後部座席に置いてあったからか盗まれていなかった。

　清美を早く酔わせてエッチがしたい。酔えばその気になるだろう。俺に女友達はたくさんいたけれど、嫌われたくないので、無理強いはしない。ほとんどがナンパで知り合った女だ。全員とからだを交えている。

　なかには避妊具をつけ忘れて妊娠させてしまったこともあった。あの女は今ごろなにをしているだろう。俺は逃げた。電話番号も変えて、メールアドレスもかえた。ラブホテルにしか行かなかったから、俺のアパートはしらないはずだ。それは二、三年前の話し。ひどい男だと思われてもいい。子どもなんかいらない。あそびたいから。

　俺はグラスをふたつ用意し、テーブルの上においた。清美は、

「テーブルきたないよ。ふきんないの？」

　と言ってきた。

「そんなもんないよ。ティッシュをぬらせばいいだろ。めんどうだからやってくれ」

「しかたないなあ」

　と言いながらティッシュを三枚くらいとって台所でぬらしテーブルを拭いた。

テーブルの上はほこりまみれで、ティッシュが黒くなった。

「うわ！　きたない！」

　清美はおどろいている。

「ほんとだ！　そんなに汚れてるなんて」

　俺は毎日ごはんを食べるときにテーブルをつかっているけれど、気にしてなかった。

「もっときれいにしないと彼女できてもすぐにふられちゃうよ」

　彼女はあきれたような表情だ。

「まあ、きれいになったんだから、いいじゃん！」

　あいかわらず俺は能天気かな、と思った。

「さあ、呑もう」

　俺は自分のまえのテーブルにビールをおき、そのあとに清美にチューハイの缶をおいた。俺はビールをグラスに注ぎ、清美は缶のまま乾杯した。

　ちなみに清美は十九歳でまだ、未成年。でも、そんなことはお構いなしでチューハイを呑んでいる。

「うん！　おいしい」

　彼女は満足しているようだ。よかった。俺もビールはうまい！

「最近どうよ？」

　俺が質問した。

「あたし？　あたしはこのまえお母さんとケンカしてビンタされたからあたしもやりかえした」

「マジか！　知ってはいたけど、あいかわらず気のつよい女だな」

　清美は大笑いした。

「お母さんのことはすきだけど、負けたくない！」

「へー、俺は母さんがいないからその気持ちはわからないな」

　俺の母親は俺を産んで乳がんでなくなった。抗がん剤をうつと、おなかの子に悪影響をおよぼすから、治療をせずに自分の気持ちより、俺を産むことをえらんだらしい。すばらしい母親だと、俺は尊敬している。

　清美にそう話すと、

「親を尊敬できるなんてすごいね」

　俺は彼女がいう「尊敬」という言葉に疑問を抱いた。俺が思うに親は強いと思っている。特に母親。自分の死よりも子どもを産むことを選んだわけだから。清美にそう言うと、

「なるほどねー」

　と感心した様子だった。それともう一言、

「今日の話しは深いね」

「そうだな。これじゃ、酔えないだろ」

　清美は苦笑いを浮かべた。

「まだ、のこり五本あるから酔えると思うよ」

「なら、いいけど」

　そう言いながら清美は二本目を呑んでいる。俺は三本目だ。おたがい少し酔ってきたようだ。あんまり酔うと勃起しなくなるから控えめにしないと。俺は彼女

をみつめた。

「酔ってきたか？」

「すこしね」

「俺も少し酔ってきたから清美を抱きたい気分だ」

　彼女は笑っている。

「そう言ってくると思ってたよ。つきあったら抱いていいよ。あたし、交際していない男とは寝ないの」

「じゃあ、付き合ってくれよ」

「そんなすぐには無理よ。翔太のことは好きだけど、今はひとりでいたいの」

　なかなか思い通りにならないな。クソッたれ！　ムカつく！　無理矢理犯そうかと思ったがそれじゃあ、清美を傷つけるし、付きあうこともできなくなる。きらわれるし。それは避けたい。もっと、清美との交流を深めないといけないな。

　そう思い、今日、彼女を抱くことはあきらめた。しかたない。

　それにしてもなんでひとりでいたいんだろう。内気な性格でもないのに。思ったので訊いてみた。すると、

「あんまり、訊いてほしくないな。まあ、翔太だからおしえてあげる。このまえ失恋したの……」

　俺は絶句した。彼氏がいたのか、しらなかった。

「だから、まだ完全に立ち直ってないからほかの男とつきあう気になれないの」

「そうだったのか、それはわるいことをしたな」

「ほんとだよ。ひとの気もしらないで」

　そう言われ俺は腹がたった。

「それは言わないからわからないだけだろ！」

　俺は怒鳴った。

「おおきな声ださないで！　かえって！」

「ちょっと待てよ！　なんでそうなるんだよ！　俺はまだいたいよ」

　清美は挙句の果てに泣きだした。

「あんたのせいだからね！　あたしが泣いてるのは……！」

「俺のせい？　なんでだよ」

「あんたが訊いてほしくないこと訊いてくるから！」

「そんなこと言ったって！　もう帰るわ、俺」

　彼女はなにもいわず泣いている。

「じゃあな」

　清美はなにも言わない。

まったく、これだから女は面倒くさい。

寄ってはいたが、どうにでもなれ！　と思い、手荷物をもってそとにでた。あとから追ってくるようすもない。

「畜生！」

　そう叫び、車をいきおいよくバックさせて発車させた。

酔っているせいもあったのか車を歩道の縁石にぶつけてしまった。

「え！　マジかよ！」

　俺はすぐに車からおりて助手席のバンパーのほうにいって見てみた。

「うわ、がっぱりへこんでる！」

　好きな女にはふられるし、車はぶつけるしで最悪。なんなんだ、いったい！

ついてないなぁ……。俺は踏んだり蹴ったりでおちこんだ。

　俺がおちこむのはめずらしい。自分では鋼の精神と思っているからなおさらだ。俺が怒って怒鳴ったのがいけなかったな、と反省している。しかたない、謝るか。いまは酔っているからあしたメールで謝ろう。ほんとうはあって謝ったほうがきもちはつたわると思うが、そこまでする必要はないと思う。電話も同等だ。

　はー、ため息がでてしまう。こんなはずじゃなかったのに。性行為はしたいけれど、無理にするのはまずいからいいとして、まさか清美と口げんかするとは思わなかった。失敗。いつも強気の俺が好きな女をまえにすると、こんなにも弱気になってしまうとは……。でも、いずれは俺の女にするためだ、しかたない。

　翌日。朝は時間がないので、帰宅してから清美にメールしよう。俺は土木作業員なので七時～十七時まえまでの勤務だ。

　今日は現場でしごとのやりかたの食い違いでもめてしまった。あいてはふたつ年上の先輩。でも、勤務年数は俺のほうがながい。だから、反発した。だが、俺と先輩は社長に呼ばれ話しをしたうえで、がっつり怒られた。しごとがとまってしまったから。俺は素直に謝った。でも、先輩は謝らなかった。社長は先輩を睨みつけ、

「おまえ、自分がわるくないと思っているな？　竹田は素直に謝ったぞ。すると渋々、先輩は、

「どうもすみませんでしたね」

　といういいかたで謝った。挙句の果てに、はー、とため息をついた。社長は、

「おまえってやつは……なんだその謝りかた！」

　先輩はイライラしているのか貧乏ゆすりをしている。そして、こう言った。

「もう帰っていいすか。女をまたせてるんすよ」

「なんだと？　貴様！　反省のいろがみえないな。俺がゆるすまでしごとにくるな！」

　先輩は、

「ああ、きませんよ！　ていうか、辞めるよ！　こんな会社！」

　そう言って出て行った。

　社長もイライラした表情だ。

「クソガキが……！　なんていうやつだ！」

　ひとりごとを言っている。

「竹田。おまえはあんなやつになるなよ。クソ生意気なガキに」

「はい、わかりました」

　社長が怒っている。そりゃあ、あんな態度をとったらだれでも怒るわな。

「帰っていいぞ、お疲れさん」

「お疲れさまでした。失礼します」

　俺は帰宅してから清美に謝罪のメールを送った。

〈こんばんは、昨日は悪かった。謝る。また、一緒に呑んでくれるだろ？〉

　メールはしばらくこなかった。まだ怒っているのだろうか。これで嫌われていたら自業自得だ。

　二十二時ころ、俺はテレビを観ていたそのとき。メールの着信音が鳴った。お！　ようやくきたか！　と思いスマホを見ると友人の亀田義信かめたよしのぶからだった。久しぶりだ。清美じゃないのが残念だけれど。彼とは中学生のときの同級生で、未だに付き合いがある。

〈オッス！　久しぶり。何してた？〉

　俺はすぐにメールを送った。

〈久しぶりだな、テレビ観てたよ〉

〈ちょっと相談に乗ってほしいことがあるからいまから行っていいか？〉

〈ああ、いいぞ〉

　そのあとにメールがきた。見てみると清美からだった。すぐに開いた。

〈こんばんは。もう怒ってないよ。また今度一緒に呑もうね〉

　清美のメールもすぐに返した。

〈よかったー！　いまから会いたいけど友達くるんだわ。もちろん、男だけどね。相談に乗ってほしいらしい〉

〈そうなんだ、じゃあ、友達の話し聞いてあげなよ。あたしはいつでも会えるから〉

〈わかった、ありがとな〉

　外から車の音がきこえる。きたかな。あの爆音はきっとそうだ。近所迷惑だ。まあ、いいか。

　俺はアパートの一階に住んでいて、二階からなにやら喘ぎ声がきこえる。二階のやつ、女とやってるな。これは、亀田に話す絶好の話題だ。そのとき、部屋のチャイムが鳴った。俺は玄関に行き、

「はい！」

　と言った。

「亀田だけど」

　そう聞えたのでドアの鍵を開け、ドアも開けた。

「よお！　ひさしぶり！」

　と俺が言うと、

「ほんと、ひさしぶりだよな」

「あがれよ」

「ああ」

　亀田は買い物袋を持っている。ジュースでも買ってきたのかな。

　俺はベッドに腰掛け、亀田は絨毯のうえに胡坐あぐらをかいた。

「これ、飲めよ」

　五百ミリのウーロン茶をくれた。

「サンキュ！」

　亀田は缶コーヒーを袋から取り出した。

「で、話ってなんだよ」

「実は彼女のことなんだけど、最近、俺とのセックスを拒むようになったんだ。理由をきいても、そういう気分じゃない、と言われるんだ。それが二ヶ月くらい続いてる。おれのこともう好きじゃなくなって、ちがう男がいるんじゃないかと思うんだ」

　彼女いたのか、知らなかった。最近会ってなかったからな。

「マジか、二ヶ月もか。それは気になるな」

「そうなんだわ、気になって夜も眠れない」

「亀田は彼女にぞっこんだな」

「まあな、だからどうしたらいいかと思って」

「彼女に直接訊いてみたか？　もうおれのことが好きじゃないのか？　って」

「そんなこと訊けるわけないだろ！　もし、好きじゃなくなった、ほかに男がいるっていわれたらどうするんだよ。それは絶望的だぞ」

「まあ、たしかにそうだな。でも、そこまで正直に話すかな」

「俺の彼女は言うと思う。サバサバしてるから」

「そうなのか。じゃあ、様子みたほうがいいんじゃないのか」

「やっぱ、そうだよな」

「うん、そうだと思う。男がいるって確信があったら言えばいいんじゃないか」

　亀田は苦い表情を浮かべた。

「言えないよ。言ったら終わりじゃん」

　俺はたばこに火を点けた。大きく吸って吐いた。亀田もたばこをジーンズのポケットからだして吸い始めた。俺は彼からもらったウーロン茶を一口のんだ。さっぱりしていて旨い。亀田は缶コーヒーを飲んでいる。

「じゃあ、ずっと様子をみるってことか？」

「そうなるわな」

　俺は、うわーっと思い、

「言いたいことも言わないできつくないか？」

「正直きつい」

「だよな」

「でも、しかたない。別れたくないから」

「そうか。そういう強い思いがあるなら、自分の思ったとおりにするといいさ」

「そうだな」

　亀田は納得した様子だ。

「竹田のほうはどうなんだよ」

　亀田は唐突に訊いてきた。

「俺は彼女はいないけど、好きな女ならいるよ」

「へー、そうなんだ。どんな女？」

　あまり言いたくなかったけれど、言った。

「気が強いけど、かわいい顔をしている。ちょっと短気だけどな。昨日、その子とケンカしちゃって俺が悪いから謝った。ゆるしてくれたけどな」

　亀田はニヤニヤしながらこう言った。

「竹田にはいつも女がいるよな」

　俺は吹き出してしまった。

「そりゃそうさ。女がいないと俺は生きていけない。それに、女は大好きだ」

　そう言うと亀田はフフンと鼻を鳴らした。

「あいかわらず竹田は女好きだな」

　そう言われ俺は笑った。

　時刻は二十三時三十分ころ。

「よし、話しも聞いてもらったし。帰るか。ありがとな」

　と亀田は言った。

「いや、別にいいけど。また、こいよ」

「ああ、またな」

　俺は玄関まで行って亀田を見送った。

「そういえば亀田。さっき、二階の住人が女とやってた。こっちまで興奮したよ。色っぽい声出してさ」

「マジか！　聞きたかったな」

「ハハハッ！」

合津清美はもう寝てしまったかな。メールを送っておこう。

〈友達、今帰ったわ。寝てるかな〉

　約十五分ほど経過して、メールがきた。

〈あたしは今、友達の家にいる。明日は休みだから泊まることにした。お酒も呑んだから車運転できないし〉

　なんだ、そうなのか。じゃあ、メールのやり取りできねーじゃねえか。

〈そうかぁ、俺も混ざりたいなぁ〉

〈ダメよ、女子会なんだから〉

　え？　と思った。

〈女子会？　何人で遊んでるんだよ〉

〈三人だよ。またあとでメールするね〉

　なんだよ、つまんねーなー。俺は不貞腐れたのでビールを呑むことにした。

　呑みはじめて一時間が経過した。なんだかムラムラしてきた。俺はＡＶを見始めた。更に欲情したので、自慰行為をした。こんなときに清美と性行為できたらいいのにな。なんか寂しい。寝る前にシャワーを浴びることにした。

　シャワーを浴びたあと、俺はベッドに潜り込んだ。明日は日曜日だというのに部屋にいるのはもったいない。それに清美からメールで、またあとでメールすると言ってたのに、一向にこない。友達となにを話しているんだろう。きっと、俺のことも話しているだろう。悪口じゃなければいいが。それが気になって眠れない。男友達もいるんだろうか。いたとしても三人だからおかしな真似はしないだろう。でも、女子会というくらいだから男はいないかもしれない。もし、いたら俺だって参加したい。いないことを祈ろう。横になっているうちに眠ってしまったようだ。

　目覚めたときは朝九時前だ。今日は休み。気楽だ。スマホを見てみるとメールがきていた。清美からだろうか。メールを開いてみた。相手は職場の女性職員だった。

〈おはよう、竹田君。今日休みだね。一緒にランチに行かない？〉

　この女性は、高田敦子たかたあつこさんといって三十歳になる。高田さんは僕と同じ建設会社で働いていて、事務をしている。とてもお世話になっている。ミスをして社長に怒られたときもかばってくれたりするし。優しい先輩だ。こういうお世話になっている先輩の誘いは断らないほうがいいと思う。例え女性でも。気分を害されても、後々困るし。

〈いいですね、行きますか〉

〈なに食べたい？〉

〈そうだな、ハンバーグが食べたいです。それも大きな〉

〈じゃあ、国道沿いにあるレストランに行こうか〉

〈そうですね。高田さんもハンバーグでいいんですか？〉

〈うん、いいよ〉

　相変わらず優しい文面だな。俺は優しい女が好きだ。清美も優しい性格だが、口調はバリバリしている。会う時間を決めてないので再度メールを送った。

〈何時にいきますか？　あと、現地集合ですか？〉

　メールはすぐにきた。

〈十一時半ころにしよう。うん、現地集合で〉

　そこにまたメールがきた。開いてみると、清美からだ。本文は、

〈おはよ。今日、夜空いてる？〉

　俺はすぐにメールをした。

〈おはよう。空いてるよ〉

〈カラオケに行こう？〉

〈ああ、いいよ。何時頃行く？〉

　少しのあいだ、メールはストップした。考えているのかな。

〈今日は日勤だから、六時までなのよ。帰ってから支度するから八時まえになるかな〉

　清美には先輩とランチに行くことは言わなかった。誤解されても嫌だし。別に嘘をついているわけでもないから敢えて言わなかった。

〈メールくれたら向かいに行くよ〉

〈わかった、じゃあ、メールするね〉

　高田さんとランチに行くのは十一半だから、十時に起きればいいだろう。なのでアラームを設定してまた寝た。

　ジリリリリッとけたたましいアラームの音で俺は目覚めた。もっと寝ていたい。でも、約束がある。仕方ない起きるか。まずは、シャワーを浴びてから着替えた。ジーンズ生地のハーフパンツに、赤いＴシャツを着た。スマホを見ると時刻は十一時を過ぎていた。ドライヤーで髪を乾かし、ワックスで軽くセットした。

　そして部屋を出て車に乗り運転するまえに、たばこに火を点けた。会社内でたばこは吸える。高田さんも喫煙者だ。だから、俺が車内でたばこを吸っても嫌がらない。煙を吸い込んで吐き出した。よし、行くかと思い、向かった。十分くらい走って着いた。彼女の車は白い普通乗用車。車が好きなようで、いつも綺麗にしている。乗ったことはないから中がどうなっているかわからない。きっといい香りがするのだろう。

　少しだけ待っているとやって来た。俺はたばこの火を消し、車から降りた。

　そういえば、と思った。高田さんは彼氏いないのかな。いないから俺を誘ったのか。一応、訊いてみよう。彼女は笑顔で手を振りながらやって来た。十歳も年上だけれど、それを感じさせない若々しさ。なんだかいい女に見える。高田さんの車は俺の横に停めた。俺は車から降りて彼女も車から降りた。よく見ると土足禁止のようだ。徹底しているなと感じた。時刻はちょうど十一時三十分。俺は、

「予定通りの時間になりましたね」

　と言うと、

「あ、ほんとだ」

　驚いた様子で高田さんは自分のスマホをみていた。あはははは！　と俺はでかい声で笑った。

「入ろうか」

　と俺を促してくれた。

「はい」

　高田さんは俺のあとを着いてきた。俺はこのモダンな感じの店には入ったことはない。それでも、俺から入った。

　ランチを食べ終え、支払いを済まし、俺と高田さんは外に出た。駐車場を歩いていると見たことのある女性が男性と一緒に歩いていた。

「うん？　清美？　清美じゃないか！」

　高田さんが声をかけてきた。

「お友達？」と。

「ええ、そうです」

　清美は楽しそうに男性と喋りながら歩いている。男性と言っても老人に見える。誰だろう。俺は清美に声をかけず様子を窺っていた。嫌な予感がする。もしかして、好きな奴ができたのか？　俺は我慢できずに声をかけた。

「清美！」

　彼女は俺の声に気付きこちらを見た。驚いたような顔付きになった。

「翔太」

　俺のほうから話した。

「デートか？」

「デート？　施設のおじいちゃんよ。利用者さん。翔太こそ一緒にいるのは誰？」

「ああ、この人は俺の会社の事務員だよ。ランチに誘われてな」

　彼女の顔から笑みが消えた。そして、俺と同じようにこう言った。

「デート？」

「違うよ。誤解しないでくれ。職場の先輩と後輩っていう関係だけだよ。怪しいものじゃない」

　そこで高田さんが割って入った。

「私、邪魔だったかしら」

　俺は焦って言った。

「そんなことないです。大丈夫です。いてください」

　彼女は黙った。清美は、

「じゃあね」

　と淡々とした口調で言って去って行った。まさか、ここで会うとは思いもよらなかった。怒っているようにも見えた。あとでメールしよう。誤解しているかもしれないから。でも、もし怒っていたら嫉妬しているということになると思う。ということは俺のことが好きなのか？　わからないけれど。高田さんは、

「竹田君、今の子のこと好きなんでしょ」

　唐突に言われて俺は驚いた。

「なんでわかるんですか」

「だって、そういう顔してるもの」

「え！　そうなんすか？　全然、自覚してなかった」

「自分のことってわかってるようで、実はあんまりわかってないからね」

「そうっすねー」

　食事をすませたので高田さんは言った。

「じゃあ、そろそろ解散しようか。ありがとね、付き合ってくれて」

「いえいえ、こちらこそ誘ってくれてありがとうございます」

「じゃあ、またね」

　そう言って高田さんは去って行った。

　さて、帰宅したら清美にメールを送らないと。何て送ろう。

〈さっきは偶然会ったな。俺と一緒にいた女性はさっきも言ったけど、十歳も年上の事務のおばさんだよ。それに誘われたから行っただけだし。断るのはあとあとのことを考えたら行ったほうがいいし。言い訳がましいけど、これが事実だから。勘違いしないでほしい〉

　夕方六時半頃、メールがきた。相手は清美からだ。見るのが少し恐い気もする。

でも、見ないと。俺は勇気を出して見てみた。

〈別にどこの誰でも、あたしには関係ないよ。あたしが翔太の恋人ってわけでもないんだし〉

　冷たい言い方。俺はショックを受けた。高田さんと食事には行ったほうがいいし、でも、清美との仲は冷えていくようで嫌だ。どちらも大事な人。困ったな。

〈そんな冷たい言い方しないでくれよ。俺は清美しか見てないんだから〉

〈そうなの？　じゃあ、なんで別な女性と食事に行くの？〉

〈それは断ると会社でぎくしゃくするのを避けるためだよ。下心は一切ないから〉

　少し間があいてメールがきた。

〈ほんとかなぁ、翔太はかなりの女好きだからね〉

〈確かにそれは否定しない。でも、清美に対する気持ちは揺るがないよ〉

〈そう？　その言葉、本当に信じていいの？〉

〈もちろんだよ！〉

〈わかった。まだ、翔太と交際してもいい気持ちにはなってないからしばらくまってね〉

　その話しを聞いて俺はイラっとした。何様のつもりでいるんだ！　俺がおとなしくしていることをいいことに、調子に乗りやがって！　と思った。その思いが顔に出たのか、清美は、

「あら、翔太、怒ったの？」

　と余裕がある。

「いつまで待たせるんだよ。はっきりしてくれ。何だかおちょくられている

ような気がして」

「そんなことはないけど、はっきりね。そうそう、そういう強い言い方が聞きたかったの。あたしでよければ付き合おっか」

「マジで？　よかったー！　フラれるかと思っていたからすげー嬉しい！」

「それはよかった」

　俺はもちろんのこと、清美も俺のことを好きなはずだから、これからはもっと強い口調で接していこうと思う。なめられているから。彼女は人の弱みに付け込んで俺で遊んでいたように思えるから。こういう考え方はネガティブかもしれないけれど、俺の正直な気持ちだ。なんと言われようと、俺の気持ちは変わらない。

　でも、清美とは嘘をつかずに、仲良く付き合っていきたいと思う。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（了）