(29) 大発見
泉さんが自分の畑で育てた、カブを届けてくれました。わたしは彼女にうってつけの、受け売り話をひろうしました。
「ダイコンの上手な抜き方って知ってる?」
テレビの同じ番組を見て、知っているかもと、気にしていたら、嬉しいことに、彼女は首をひねりました。
泉さんは高校の生物教師で、畑作りが趣味です。車で40分の地に畑を買って、ジャガイモ、白菜、ダイコンと、毎年上々の収穫を上げては、届けてくれるのです。
「ダイコンは折らずに抜くのが、いつもたいへんよ」
「でしょう?その抜き方を考え続けた、農家の奥さんがいるのよ」
わが家では、その放送のあった日から数日、うちの小さな畑に出ては、ダイコンを抜いて試してみて、感心していたのです。
抜き方はいとも簡単。左ねじりにゆっくり引くと、スポッと姿のまま抜けてきます。
その主婦は、広いダイコン畑で25年働いていたが、工夫を続けて、15年目に気づいたのだとか・・。地球が自転しているための、大地の微妙な動きを、植物たちは察知して、根が抜けないように、右巻きにネジ釘のように、地中に伸びていく。それを左にねじると、一気にひげ根が切れて、抜けるのだと・・。
「へえ、すごい発見! 科学賞ものね!」 と、予想通りの泉さんの反応に、私は嬉しくなりました。
その主婦が先人の知恵に、またひとつ重ねてくれた知恵を、わたしたちは確実に受け止めたのです。
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