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毎日読書メモ(234)『偽姉妹』(山崎ナオコーラ)

昨年11月に、早稲田大学国際文学館・村上春樹ライブラリーに行ったときに(写真等こちら)、3階の選書棚に、山崎ナオコーラ『偽姉妹』(中央公論新社)があって、6分の1くらいぱらぱらと読んだ。面白かったので続きを読もうと思っていたのに、読むのが結構遅れた。やっと読めた。最後までずっと面白かった。
山崎ナオコーラの小説に出てくる登場人物は、あんまり働き者ではない。いや、ワーカホリックっぽい人もいるが、そうでない人の方が幸せそうで、物語はそちらの方へ流れる(例えば『鞠子はすてきな役立たず』とか)。
三姉妹の次女の正子は、結婚した時に仕事を辞めて、その後はアクセサリーのデザインと販売を細々としながら、息子を産んだが、妊娠中に夫が別の人を好きになったと言い出し、離婚することになる。公務員の姉衿子、看護師の妹園子はそんな正子を「可哀想」だと言って、正子の自立を手伝うために正子の家に引っ越してきて、息子の由紀夫の面倒を見たりする。正子は自分を可哀想だと思っていない。ことあるごとに、自分の考え方を否定され(愛情にもとづくアドバイス、という形をとっているが)もやもやが大きくなっていく。衿子と同い年の百夜と、園子と同い年のあぐりが家に遊びに来て、そのまま居候のように家に住み着き、不思議な6人暮らしが始まるが、実の姉、実の妹との齟齬がじわじわと大きくなり、衿子と園子は家を出ていく。離婚のように、姉妹関係を清算して、別の人と姉妹になる、という家族の新しい形。
この本の本当の主役は、正子というより、正子が宝くじで当てた大金をもとに建築家に設計を依頼して建てた「屋根だけの家」である。一般の住宅の概念をとっぱらった不思議な家に最初から馴染めなかった衿子と園子、面白がって暮らす正子と百夜とあぐり。人生を楽しみながら、偽姉妹を名乗るようになった3人はこの家で喫茶店を始める。
最終章は未来の物語だ。偽姉妹、というコンセプトが社会で一般化して、申告ベースで世間的に認められるようになっているという未来は、各地の自治体が同性婚を認めるか否か、と言っている現在の状況のパロディのようである。そこに、『肉体のジェンダーを笑うな』に通じる作者の主張を感じる。人が自分で幸せだと思っている状況を、他者が否定したり矯正しようとしたりするのはおかしいだろ、と、山崎ナオコーラは訴え続けているのだと思う。
深呼吸して、のびのびと、自分がこうありたいと思う人生を歩む幸福を見つけたい、と、読みながら思った。

読んでいる間に、『ニセ姉妹』と、ちょっとタイトルを変えて、文庫化されたらしい。阿佐ヶ谷姉妹と作者の鼎談入り!(中公文庫)

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